全ての顧客接点がメディアになる時代へ ~企業が構築すべき新収益モデルとその期待効果~

インサイト
2024.12.17
  • メディア
  • 新規事業開発
  • マーケティング/セールス/顧客サービス
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テクノロジーの進化とともに企業の顧客接点が多様化する中、今後、各企業が保有する全ての顧客接点が新しいメディアになる可能性がある。また、生活者、広告主、メディア環境の変化に伴い、各企業による新しいメディア立上げの検討が加速することも考えられる。
本インサイトでは、企業が新しいメディアを立上げる背景や具体的な取り組み事例、新収益獲得に加えて期待される効果、新しいメディア立上げのアプローチについてご紹介しつつ、各企業が潜在的に保有するビジネスチャンスを新しいメディア立上げという手法で顕在化させていく。

企業が新しいメディアを立上げる背景

近年、企業が自社の顧客接点を活用して新しいメディアの立上げや検討を進めるケースが表れている。例えば、小売業界では店内サイネージや独自アプリを通じたリテールメディアを展開している。一般的に、メディアはデジタル技術(オンライン/オフライン)によって分類されることが多いが、本インサイトでは、新聞、テレビ、ラジオ、雑誌、インターネット、ソーシャルメディアに続き、企業が立上げる新たなメディア群について説明する。具体的には、リテールメディア、アプリ内の広告、オウンドサイト内の広告、屋外広告メディア、音声広告メディア、AIやWEB3.0などの技術を活用した広告メディアが該当する。企業が新しいメディアを立上げたり検討したりするのには、どのような背景があるのだろうか。

新しいメディア立上げの動機と外部要因

企業は競争優位性を確立し、自社の売上を拡大するための取り組みの一部として以下を実施している。

  • データの有効活用:自社の顧客データを分析し、パーソナライズされた体験を提供することで、顧客満足度を向上させ、顧客を増やす。
  • 顧客接点の最適化:アプリやリアルな接点を通じて、顧客とのエンゲージメントを強化し、ロイヤルティ(信頼や愛着)を高める。
  • 独自・最新テクノロジーの活用:独自の技術や最新技術を活かし、新しい顧客体験を作り出し顧客の態度変容を促す。

新しいメディアは、これらを活用し生活者と広告主を繋ぎ、双方にメリットを生み出していく可能性を有する。具体的には生活者に自身のニーズに合致した商品・サービスと出会える新しい顧客体験を提供し、広告主には生活者の態度変容を効果的に促し、商品・サービスが売れる新しい顧客接点を提供していく。そして、その新しいメディアを広告主に販売し、新たな収益を獲得することが主な動機となっている。
また、企業が新しいメディアの立上げを検討する外部要因として下記が考えられる。

  • デジタル化の加速:デジタル化の加速により、デジタルメディアの利用が急速に拡大し活用のニーズが高まっている。
  • テクノロジーの進化:サイネージ、自動決済の仕組み、センサーやカメラ、アプリケーションの進化による顧客接点の高度化が実行されている。
  • 個人情報保護の影響:個人情報保護に関する規制が強化される中で、既存メディアもデータの安全性、消費者の信頼獲得など仕組みを再構築する必要がある。
図1 企業による新しいメディアの立上げの背景

新しいメディア立上げを加速させる3つの変化

生活者、広告主、メディア環境の変化によって、今後は企業にとって全ての顧客接点がメディアになる時代へ突入していくと考えている。それに伴い、各企業の新しいメディアの立上げの検討も加速することが考えられる。


生活者の変化:全ての顧客接点が体験となりアクションを誘発する
生活者の価値観や接点の多様化が進む中で、既存のメディアだけでなく、企業と生活者の全ての接点が顧客体験となり、生活者のアクションを誘発していると言える。つまり、企業と生活者のあらゆる接点が顧客の態度変容や購買を促しており新しいメディアとなり得る可能性がある。また、生活者との接点を持っている企業は、他者にその仕組みを提供することで、新しいメディアを作り上げることが可能になる。

図2 各企業の保有する全ての顧客接点がメディアになる可能性

広告主の変化:企業主語/顧客主語の両方のマーケティング活動が求められる
企業がマーケティング活動を進める際には、企業主語だけでなく、顧客視点も取り入れた顧客主語のマーケティング活動が求められてきている。生活者を集団として捉える企業主語のマーケティング活動では規模が重視されるが、顧客主語のマーケティング活動では小規模でも効率が求められる。そのため、今後は自社の全てのデータや顧客接点を活用し、顧客ニーズに基づいた顧客体験を提供し、生活者のアクションを効率的に誘発することがより重要になってきている。企業はその仕組みを他社に提供することで、広告主から選ばれるメディアを立上げることが可能になると予想している。

図3 企業主語/顧客主語のマーケティング活動の構造

メディア環境の変化:デジタル×リアル体験がより重要になる
生活者の接点や価値観が多様化する中で、広告主のニーズに応じたさまざまなメディアが誕生すると考えられる。既存のテレビ、新聞、雑誌などの広告枠を販売するメディアや、デジタルのセグメント配信を行うメディアに加え、デジタルとリアルな体験を組み合わせたメディアも増加すると予想される。特に、顧客のライフサイクルに入り込みやすいデジタル・リアル体験は、顧客の態度変容や獲得に効果的であり、今後の拡大が想像される領域である。企業が既に保有している顧客接点を活用し、デジタルとリアル体験を提供することで、新しいメディアとして確固たるポジションを確立することが可能となる。

図4 拡大が想像されるメディアの領域

新しいメディア立上げの具体的な取り組み事例

実際に新しいメディア立上げに関して、業界ごとの取り組み事例は以下の通りである。

  • 小売業界:既存の顧客接点を活用し、店内サイネージや独自アプリを通じたリテールメディアを展開。
  • 素材化学/不動産業界:自社の技術やスペースを活用し、ガラスサイネージや3Dサイネージなどの新しい屋外広告を展開。
  • 不動産/インフラ/エネルギー業界:アプリ内広告、スペース活用、屋外広告を組み合わせた新しいメディアを展開。

今後はAIやWEB3.0の技術を取り入れることで、より効果的な広告配信が実現される未来も考えられる。

新収益獲得に加えて期待される効果

新しいメディアを立上げることで期待される効果について業界ごとの想定シナリオとして下記のように示す。

  • 小売業界:大手流通チェーンが、アプリや店内サイネージを活用したリテールメディアを立上げた。これにより、広告収入を得るだけでなく、顧客の購買行動データを収集し、パーソナライズされたプロモーションを実施することが可能になった。結果として、顧客の購買頻度が増加し、売上が向上した。
  • 素材化学/不動産業界:素材化学企業や不動産企業が、自社の技術を活用してガラスサイネージを開発し、都市部のビルに設置。この新しい屋外広告メディアは、広告収入を生み出すだけでなく、企業の技術力をアピールする場ともなり、ブランドイメージの向上にも寄与した。
  • 不動産/インフラ/エネルギー業界:不動産企業が、アプリ内広告と屋外広告を組み合わせた新しいメディアを展開。これにより、エリア情報を効果的に配信し、顧客の興味を引くことができ物件への集客に繋がった。また、アプリ内での広告収入も得ることができ、収益の多様化に成功した。

上記の想定シナリオのように、新しいメディアを立上げることで、広告収入やデータ販売など、新たな収益源を確保に加えて、企業は以下のような効果を期待できると考える。

  • 顧客接点の拡大:多様なメディアを通じて顧客との接点を増やし、関係性を深める。
  • ブランドイメージの向上:新しい技術やメディアを活用することで、企業の先進性をアピールする。
  • 競争優位性の確立:独自の技術を活用した顧客接点を作り出すことで、競合他社との差別化を図る。

このように、新しいメディアの立上げは企業に多くのメリットをもたらし、現業にもポジティブな影響を与える。企業が迅速に対応し、新しいメディアの立上げの波に乗ることが重要である。新しいメディア立上げの主な目的は、企業の新規事業の一環として売り上げの向上を目指すことが多いが、現業にも効果をもたらす可能性があると考えている。企業が保有するデータや顧客との接点をメディアにすることで、収益を拡大しつつ顧客接点を広げ、顧客との関係性を深めることができる。新しいメディア立上げは、現業へのリターンが期待される中で、顧客から選ばれる企業や商品やサービスとしての地位を確立するためにも不可欠になっていくとも考えられる。

新しいメディア立上げへ向けたアプローチ

新しいメディアを立ち上げる際、企業はビジネス面で下記のようなアプローチで検討を進める必要がある。

  1. 自社の顧客接点の「生活者」と「広告主」に対する提供価値を整理し、両者を結びつける仕組みを検討する。
  2. 自社の全ての顧客接点を活用した新しいメディアの具体的な方向性を決定する。
  3. 広告主に受け入れられやすい商品設計を行い、効果的な販路を構築する。
  4. 広告主のニーズに応じてセールス方針を策定して事業方針を確立する。
  5. 独自性のある情報発信を通じて新しいメディアの注目度を高め、広告主の獲得を目指す。

ただし、自社の顧客接点を活用して新しいメディアを立ち上げる際に方向性を誤ると、企業や商品、サービスのブランドが損なわれたり、顧客が離れたりする可能性がある。また、この取り組みの社内での位置づけや、事業推進のためのKPIを事前に明確にすることも重要である。このように、新しいメディアの立ち上げは、これらの点を踏まえて慎重に進める必要がある。

まとめ

新しいメディアの立上げは、新たな収益の獲得だけでなく、顧客接点を広げ、顧客との関係性を深めることでブランドイメージの向上や競争優位性の確立にも貢献する。生活者、広告主、メディア環境の変化に伴い、今後は新しいメディアの立上げ検討に対する重要度は増していくと考えている。一方で、新しいメディアの立上げは、前述したとおり複雑な要素を整理しつつ、個別のアプローチを組み立てる必要がある。
アビームコンサルティングでは、新しいメディアの構想策定から実行(メディアの運営・広告費を獲得する営業活動)まで伴走支援を行っており、パートナー(協業先)を繋いだ総合的な展開の支援実績も有する。新しいメディアの立上げを検討する際にはぜひご相談いただきたい。


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