Nagase Vietnam Co., Ltd.

バックオフィス業務部門に「専門性×DX」という新たなモデルの導入を実現 ~RPA/DXのセンターオブエクセレンス(CoE)チーム立ち上げによるバックオフィス業務チームの再活性化~
事例
  • 商社
  • DX
  • テクノロジー・トランスフォーメーション

経営/事業上の課題

  • DX化を進めたいものの、社内のITリソースは限られており、基幹システムの運用保守専任となっていた。一方で、バックオフィスの従業員は反復的なタスクに過度の時間を費やし、ヒューマンエラーのリスクや残業時間の増加につながっており、改善が求められていた。
  • 経営陣は、IT部門以外の従業員がテクノロジーを採用し、革新的なソリューションを開発することで自ら挑戦することを奨励していた。目指すゴールは、業務の効率性と会社のサービスに対する顧客満足度の向上だった。

課題解決に向けたアビームの支援概要

  • ロボティック・プロセス・オートメーション(以下、RPA)をはじめとする新たなデジタルツールの開発教育プログラムを設計
  • 特定の業務ユーザーグループを、業務自動化スキル強化施策によりデジタルソリューションを推進する専門チーム(センターオブエクセレンス:以下、CoE) として再定義
  • ユーザーが複雑なビジネスプロセスを自力で自動化ツール開発ができるよう実践的なハンズオントレーニングとサポートを提供
  • 新しい技術ソリューションを適用する際の推奨事項とベストプラクティスを提供

支援の成果

  • 1週間にわたる集中的なトレーニングと実践的なプロセス開発チュートリアルを通じて、財務・経理部門はRPA推進を最前線でリードできるまでに成長
  • 2023年9月からの1年間でCoEチームにて実装した44台のロボットが稼働し、年間約2,000時間の労働時間の削減を実現
  • CoE チームは、RPAツールであるUiPath だけでなく、Power Platformsを使用したアプリケーション開発や AIソリューションのカスタマイズにも拡大中
  • テクノロジーを活用した従業員の新しいキャリアモデル「専門性×DX」(経理×DX、カスタマーサービス×DXなど)への移行のベストプラクティス化に成功

Nagase Vietnam Co., Ltd.(以下、ナガセベトナム)は、化学、プラスチック、電子機器、自動車、ライフサイエンスの各分野で強力なプレゼンスを持つ大手専門商社である長瀬産業株式会社の子会社である。成長を続けるベトナム市場で事業展開するために設立されたナガセベトナムは、さまざまな業界にわたる原材料、特殊化学品、機械、ハイテクソリューションの提供を専門としている。

2023年以来、アビームコンサルティングはナガセベトナムを支援し、RPAを皮切りに、デジタルソリューションの導入にむけた社員の育成に取り組んできた。 支援当初は、ナガセベトナムは以下のような問題に直面していた。

  • 従業員がシステム開発に不慣れだった
  • RPAはナガセベトナムにとってまだ新しい概念だった
  • CoEの設置は、全社的に初の試みだった
  • 多くのユーザーは作業負荷の増加を懸念して、本施策への参加を躊躇していた

これらのハードルに対処するため、アビームコンサルティングは明確なフェーズと測定可能な成果指標を備える構造化されたロードマップを設計し、ナガセベトナムのDX支援を行った。 そしてわずか1年で、プロジェクトは目覚ましい成果を上げた。ナガセベトナムは専任のCoEチームの立ち上げに成功し、年間2,000時間の手作業を削減するという成果を得ることができた。現在は東南アジアをはじめとする他地域へのデジタルソリューションの展開拡大を目指している。

長瀬産業、ベトナム市場を「技術でリード」

ベトナムの経済情勢は、デジタル化と技術の進歩に重点を置き、大きな変革期を迎えている。2024年には、ベトナムのデジタル経済は記録的なペースで拡大し、GDPの18.3%を占め、年率20%以上の成長を記録した。これは、国全体のGDP成長率の3倍の早さである。 ベトナムのダイナミックなビジネス環境の中、日本の大手商社である長瀬産業株式会社の子会社で、ベトナムで約30年の歴史を有するナガセベトナムは、ベトナムのビジネス成長を加速するためのデジタルイノベーションの先駆者としての地位を確立している。同社の変革への取り組みは、部門間のタスクとワークフローの自動化、コラボレーションの確保、生産性の向上に重点を置いている。 ベトナムがデジタル変革をリードし続ける中、ナガセベトナムのような企業が最前線に立ち、イノベーションを推進することで、国の経済成長にも大きく貢献している。

ナガセベトナムとアビームコンサルティングの提携

2023年、ナガセベトナムの経営陣は、DXに本格的に乗り出し、バックオフィス業務の最適化に取り組むことを決断した。この方針のもと、パートナーを求めるナガセベトナムには、各社からさまざまな提案が寄せられた。

しかしながら、同社ダイレクターの正井 勤 氏は、より本質的な視点を持っていた。
「当時、すでに多くのパートナー企業や競合他社がDXの波に乗り、テクノロジーの導入競争の様相を呈していました。そうした中で、私たちもデジタルテクノロジーの活用を避けることはできない状況でした。
しかしながら、単にシステム導入に多額の費用をかけるのではなく、むしろそのリソースを従業員への投資に充てるべきではないかと考えたのです。それは従業員にとって貴重な学びの機会となり、最終的には会社の本質的な価値、すなわち真の “コアバリュー” を体現するものになると考えていました。そこで、当時パートナー候補の一社であったアビームコンサルティングに対して、『どうすれば私たち自身の手でデジタル変革を実現できるのか、ぜひ教えていただきたい』と、何度も相談を重ねました」

写真:ナガセベトナムの戦略について自ら説明するナガセベトナム および Nagase (Thailand) Co., Ltd.(以下、ナガセタイランド) ダイレクター 正井 勤 氏

正井氏はもう一つの大きな課題に直面していた。それは、従業員の多くがバックオフィス部門に所属しており、革新的なテクノロジーの導入に対して戸惑いを見せていたことである。さらに、デジタル化によって業務量が増えるのではないかという不安の声も上がっており、これはナガセベトナムがデジタルソリューションを導入する本来の目的と矛盾するものだった。このような課題を乗り越えるためには、多額の投資と、それを支える専任パートナーの存在が不可欠だった。

そうした中、アビームコンサルティングが提案したのはデジタル技術に特化した専任チームを構築する「Center of Excellence (CoE)」モデルだった。これはバックオフィス業務部門の従業員をデジタル変革の主要メンバーとして再教育するキャリア変革モデルである。アプローチとしてはトレーニング、トライアル、展開の3フェーズからなり、アビームコンサルティングは最初の10週間でナガセベトナムとともに従業員を育成した(図1)。

トライアルフェーズ後、開発者がRPAプロジェクトに慣れ、独立して作業できるようになると、アビームコンサルティングはアドバイザーの立場に移行し、自社の知見とベストプラクティスを提供することで、CoEチームのさらなる発展を支援した。 この方法論はナガセベトナムのニーズと合致しており、ほどなく最初の開発プロジェクトが開始され、両社の急速なデジタル変革への取り組みが走り出した。

図1 アビームコンサルティングがナガセベトナムに提案したCoE導入ロードマップ

限界を突破する力 ― 組織が挑んだ変革の舞台裏

3日間の集中的な教育プログラムから始まるこのデジタル変革の取り組みは、すぐにナガセベトナムの社内で幅広い関心を集めた。ピーク時には50名の従業員がオンラインと対面の両方でトレーニングに参加し、RPAテクノロジーの導入に対する従業員の熱意がうかがえた。このトレーニングを特に効果的なものにしているのは、開発に対する直接的かつ実践的なアプローチにあった。トレーニングセッションが終わる頃には、ナガセベトナムの従業員はシンプルでありながら、すぐに業務を効率化できるロボットを作ることができるほどに成長。この早期の成功体験が、プロジェクト全体にわたって勢いを生み出し、継続的な推進力となった。

写真:ABeam Consulting (Vietnam) Duong Viet Anh氏(Associate Manager – Business & Technology division)がナガセベトナムの従業員にRPAとデジタルテクノロジーについて説明する様子

最初のトレーニングフェーズを経て、ナガセベトナムは 2つの業務グループからCoEチームの中核を担う5人の主要メンバーを選定した。 このITの専門家ではない業務部門のメンバーからなる新たな開発者たちの挑戦が、同社の自動化イニシアチブの原動力となった。 新たに結成された CoE チームは、トレーニングで学んだことを即実践に移した。プロジェクト開始からわずか 10 週間で、チームは当初の予定どおり 2 台のフルファンクションのRPA ロボットを開発し、ナガセベトナムの本番環境に導入することに成功した。デジタル技術に関する経験がほとんどなかった業務部門メンバーを主体に達成されたことが社内でも話題になった。

初回の成功を受けて、ナガセベトナムはアビームコンサルティングとパートタイムのアドバイザリーサービス契約を通じてパートナーシップを継続することを選択した。この戦略的決定により、CoE チームはアビームコンサルティングの専門知識を継続的に活用できるようになり、同時に自動化の取り組みにおいてより高い独立性を実現できるようになった。そしてナガセベトナムは、1年の間に、当初の ロボット2台から、全社で稼働する44台のロボットを開発するまでに拡大した。CoEチームはRPAロボット1体を約8日間で構築していった計算になる。代表的なRPAを適用した業務としては、販管費のSAP入力、化学物質などの安全データシートの確認、化学報告書作成などである。これらの自動化の取り組みにより、ナガセベトナムは年間 約2,000時間の手作業を節約でき、従業員が営業活動のサポートに集中できるようになった。業務効率化によって生まれた時間とリソースを営業部門の支援に充てることで、収益に直接貢献する活動に従事する時間が増加したのが大きな成果だ。これは、ナガセベトナムが今後の戦略を考える上で極めて重要な示唆となった。

数字面だけでなく、ナガセベトナムは戦略的なデジタル改革推進の観点からも大きな成果を上げた。従来のIT・業務といった縦割りの業務モデルから、「専門性×DX」という新たなモデルへの進化である。各部門の従業員は、それぞれの専門知識を活かしながら、デジタルツールの活用を主体的に推進できるようになった。この変革により、IT部門に頼ることなく、現場の担当者自身がPRAソリューションを直接導入できる体制が整備され、社内のあらゆる現場からイノベーションが生まれる、より俊敏で柔軟な環境が実現した。

アビームコンサルティングは長瀬産業の「リアルパートナー」に

アビームコンサルティングとナガセベトナムのパートナーシップは、ビジネス変革における「リアルパートナー」と言える。 当初は一国における支援のみだったが、現在は複数の国にまたがる包括的な支援へと発展し、その幅も広がってきている。アビームコンサルティングは、デジタル業務改革の構想策定、各施策のプロジェクト管理支援などに加え、RPA、ローコードソリューション、光学文字認識 (OCR)、生成 AI (GenAI) などの実装面まで幅広く支援することで、長瀬産業におけるデジタル業務改革の伴走支援を行っている。

ベトナムではわずか1年でロボットを2台から44台に拡張したRPA開発スキル実装支援、フィリピンでのデジタル業務改革の構想策定と営業支援業務新システム導入など、これらの成果はまだ序章に過ぎない。このパートナーシップはベトナム、フィリピンに始まり、現在はタイ、シンガポール、マレーシア、インドネシアの主要な東南アジア各拠点でも進み始めている。この成功事例をもとに将来的には東南アジア拠点以外の支援も視野に入ってくるだろう。

正井氏はこれまでの道のりを振り返り、次のように述べている。「ナガセベトナムとアビームコンサルティングの歩みは、プロジェクトの初期から相互の信頼、ビジョンの共有、そして継続的なサポートによって特徴づけられてきました。アビームコンサルティングのプロジェクトチームの卓越した方法論と、共に達成した素晴らしい成果に感謝の意を表します。このコラボレーションのおかげで、ナガセベトナムの従業員は従来のオフィス業務だけでなく、業務を独自にデジタル革新するためのツールの実装経験と自信を獲得しました。さらに重要なのは、組織内でデジタル変革のリーダーとなることを目指して、CoEがテクノロジーイニシアチブの推進を主導できるようになったことです。

今後、私が新たに管轄することになったナガセタイランドでも同様の働き方やモデルを取り入れていきたいと思っています。しかしながら、この変革は私たちだけの努力によるものではなく、アビームコンサルティングとの貴重なパートナーシップを通じて実現したものです。私たちの組織文化を変える上で重要な役割を果たしてくれたアビームコンサルティングには深く感謝しており、これらの成功事例をタイの事業にも展開しながら、今後も協力を続けていくことを心待ちにしています。彼らの専門知識は、当社の「専門性×DX」文化への取り組みにおいて極めて重要であり、このアプローチを地域全体に拡大していく上でも同様に重要になるでしょう」

ナガセベトナムおよび ナガセタイランド ダイレクター 正井 勤 氏

Customer Profile

会社名
Nagase Vietnam Co.,Ltd.
所在地
Unit 12.03, Cornerstone Building, 16 Phan Chu Trinh Street, Hoan Kiem District, Hanoi
設立
1998
事業内容
  • プラスチック:オフィスオートメーション、ポリマー包装、電気・電子機器、家庭用電化製品、日用品
  • 化学:コーティング・インク、ウレタン、接着剤、プラスチックコンパウンド、紙、アパレル、繊維、履物、金属工程、水処理、排気ガスVOC処理
  • モビリティ:内外装、機能部品、CASE
  • エレクトロニクス:電子部品、基板産業(PCB/FPC)、半導体、ディスプレイ、バッテリー、重電機、民生用電子機器
  • ライフ&ヘルスケア:パーソナルケア&ヘルスケア、食品原料
Nagase Vietnam Co.,Ltd.

2025年7月1日

Contact

相談やお問い合わせはこちらへ