ESG×農業×データで読み解く次世代ビジネス
第3回 次世代ビジネス創出に向けたデータ活用のポテンシャル

2023年1月23日

古くから続くビジネス形態である農業の現状と動向から、次世代ビジネスのヒントを紐解く本シリーズの第2回では、農業の生産性を上げていくことや、新しい農業を実施していくためには、様々な事象の様々なデータを取得しシンプルに理解し、客観的なデータに基づき次の行動につなげることが重要だと述べた。これは言い換えると、大量のデータを集め・分析していくことが、複雑化された事象の理解に役立ち、農業にとどまらず、次世代ビジネス創出に向けて有用であるとも考えられる。
第3回では、アビームコンサルティングが提供するData Management & Analyticsサービス(ビジネスシーンにおけるデータ活用/BIの仕組みを作り、その仕組みが継続的に発展していくための支援をするサービス)を農業(一次産業)に適用することにより、どのような化学反応を起こしていけるのかを考察し、次世代ビジネスの創出に向けた示唆を得ていきたいと考えている。
なお、ここでいう次世代ビジネスとは、価値観が多様化する昨今においてこれまでの価値観では測れなかった新しいビジネスという意味で利用している。

データの価値とは

データは21世紀における石油などと言われて久しいが、実際データが持つ価値はどこにあるのだろうか。アビームコンサルティングがこれまで数多くのクライアントと議論してきた中で明らかになっているのは、以下3つの観点である。

①    事実を指し示す客観性
実際に発生した事象を記録したデータは、そこに人の意思や感覚などを入れて歪曲させなければ事実(ファクト)そのものを表現する。例えば、昨日は暑かった・寒かったというのはその人の感覚によって作用されてしまうが、昨日は35℃だったというのは温度計が壊れていない限りは事実であり、個人の主観に左右されない客観性を持つ。
気を付けなければいけないのは、データがこの性質を完全に持てるのは実際に発生した事象=過去もしくは今起こっていることに限られるという点である。将来の事象に対するデータは、仮に自動的・機械的に行っていたとしても、その予測のために何らかのルールやロジックが適用されており、客観性を完全に担保することは難しい。最近は精度が上がってきているが、例えば天気予測が情報サイトによって異なるのは予測に使っているルールやロジックが異なるためである。
ただし、将来の事象に対する予測データが無効だというわけではなく、そのデータがどのように作られており、どの程度の精度で当たるのかを理解したうえで、参考情報として判断して使う分には有効である。

②    同じ言語で比較を可能にする共通の物差し
客観性とやや似た観点ではあるが、共通の物差しはデータの価値を示す重要な観点である。例えば企業が発展しているか、というと従前であれば売上や利益の伸び率を用いることによって様々な企業を比較してきた。
近年は企業の命題が、規模や売り上げという単純なものではなく、持続可能な状態で発展もしくは維持できているのか、という複合型になってきたため、比較軸を何にするのか、という点とその比較に用いるデータは客観性をもって取得されているのか、という点が加わっているのは第1回でも触れたとおりである。

③    隠れた相関関係の導出
3点目に挙げるのは、データが、人間の主観を排除することにより発見される法則や、大量のデータであるが故に人間では気付けない法則を浮き彫りにする点だ。
有名な例で、紙おむつと缶ビールのエピソードがある。顧客の購買データを分析したところ、男性客でこの2つに正の相関(同時に購入している)があることが分かった。そこでこの2つの商品陳列を近づけたところ、売上の向上に寄与したという話である。このデータを顧客層で考察すると、2つを同時に買っているのは子育て中のパートナーがいる男性であることが分かった。一見すると何も関係がなさそうな事象間の関連性が示されることによって、何らかのアクションに繋がることが価値となる。

データの力で農業(一次産業)を見える化する

では前述したようなデータの価値を引き出していくことにより、農業(一次産業)がどのように進化していくかについて考察する。
まず、勘や経験に頼りがちな農業の現状を、データの力で客観的事実として明確化したうえで今後に向けた仮説を構築し、次いで、得られた客観的な情報を「武器」に、農家だけではなく様々なステークホルダー(関係者)を巻き込んで議論を進めて、具体的な施策を次々と打っていく。そして、施策が実行された後にもデータを活用して、現状の客観的な把握・有効と考えられる打ち手を打つことを繰り返し、持続可能な状態まで作り上げていくことが重要である。
 

図1 データの力を変革に繋げるステップ

図1 データの力を変革に繋げるステップ


①    農業(一次産業)の現在地を客観的に分解・視覚化しインサイトを得る
データを活用するには、まずは自身の現在地(立ち位置)を明確化することが出発点になる。第2回では、一般的に農業は儲からないと書いたが、これは日本全体に言えることなのか、地域独自のものなのか、地域や農家ごとにバラつき要素はないのか、世界を見回したらどうなのかなどを、データを使ってより客観的に・分かりやすく、必要に応じて明細データまでたどれるように視覚化していくことが必要だ。
同時に、得られる売上が規模に依存するのか、家族ベースの従来型農業の形態に依存するのか、地域性に依存するのかといった、農業形態と地域性の相関等もデータ分析から把握し、現状の地域で農業が置かれている立ち位置の明確化も欠かせない。
次いで、必要に応じて過去からの傾向や変化をもたらすインフルエンサーの情報から、将来予測データを作成・視覚化して、今後の農業(一次産業)が向かうべきインサイトを得る。
例えば、データから明らかにしていきたいのは、地域ごとに集計して地域経済圏の見える化を行い、地域全体での栽培作物の最適化を検討する元ネタにしたり、生産・販売の紐付け分析を行うことにより生産を最適化し、より地産地消につながる栽培品種の先鋭化を検討したりといったテーマである。
また、農業(一次産業)は関連するプレイヤーが行政(国・地方)/農家/企業/流通者と多岐にわたるため、各立場での目線でデータを視覚化しておきたい。
上記により、農業とそれを取り巻くビジネス環境を客観的に把握することで、次の打ち手を検討するための基礎が構築できる。
これは、他の領域における次世代ビジネスの構築・議論においても有用な手法だと考えられる。

②    次世代化・リ・デザインに向けた議論を行い実行に移す
農業(一次産業)の現在地を客観的に視覚化することができたならば、これを「武器」に、農業に取り組みたいと思っている企業やすでに農業を営んでいる農家、さらにはその周辺で物流や販売を支えている関係者とワークショップを行い、今後進んでいく方向性について意見交換しながら、施策立案・実行を繰り返していくことが有用だ。
これまでの意見交換の場と何が違うのか、と思われるかも知れないが、①で行った視覚化があるかないかで大きな違いがある。ここでデータの持っている客観性/共通の物差し/隠れた相関関係などの価値を引き出しながら、立場・利害の異なる関係者を同じ方向に向けていくことができれば、取り組みは大きく加速していくだろう。
第2回で紹介した大阪府堺市北区でのまちづくりの事例も、地域の客観性の分析は大学の研究室やアビームコンサルティングが支援している。地域の実情の見える化を行ったうえで、地元農家を中心とし新たなビジネスの実行組織として農事組合法人を設立し、ビジネス展開を図るなど、より具体的な取り組みになっている点では、データで客観性を共有することの価値を示唆する事例だ。次世代ビジネス検討においても、データを用いて客観的に勝機を見出す手法も今後有用になってくると予測される。

③    取り組みや工夫の見える化から貢献度視覚化につなげて持続可能な仕組みにする
施策立案・実行を繰り返していく中で成功事例が出始めてきたら、その事例をも視覚化して横展開していくことが肝要である。この手の取り組みは1つうまくいったからといって油断していると一過性のムーブメントで終わってしまうことや、地域の特殊解で終わってしまうことが懸念される。今回我々が論じている農業(一次産業)というテーマは、地域の特殊性への配慮と横展開という普遍性のバランスをとっていくことが、全体の底上げにつながると考えられることから、データの力を使うことにより普遍的な部分(横展開に耐えうる示唆)を明確化し、他地域の特殊性と融合させて展開することで初めて持続可能な仕組みとして成立させ、ビジネスとして展開・持続性を担保することが可能となると考えられるためである。
また、第1回でも触れたとおり、目先の損益のみを追いかける仕組みは継続しない。次の世代・そのまた次の世代へと繋いでいくこと自体に何らかのインセンティブが付くような仕組みにしていく必要がある(例えば、農業の場合は先祖代々の田畑やビジネスの仕組みが持続していくなど)。このインセンティブ設計においても、重要なのはデータの力を使って客観性を持たせていくことだ。
以上のことから、次世代のビジネス創出に関しても、データの力で普遍性と地域の独自性のバランスを図っていくことが重要だと理解されよう。

一次産業の変革には人や社会の意識に作用していくことが必要、データはそのための武器になる

データやデータ活用はあくまでも手段でありゴールではない。企業におけるデータ活用でも最終的には人の意識から行動・企業文化にまで作用していかないと取り組みに見合う効果のある変革にはならない。手段を導入しただけで、人の意識が変わらなければ成果が限定的な一過性の取り組みに終わってしまうからだ。これは農業(一次産業)においても同様のことが言えるだろう。
農業(一次産業)をリ・デザインして、課題を解決し、活性化させ、さらに関わっている人の意識や行動に働きかけていくためには、成果を可視化し、発信することも展望に入れておく必要がある。データを効果的に使って、農業(一次産業)が魅力的であるということ、またそこに従事している人々が活き活きと働いているということを客観的に示していくことが重要である。
そのためには客観的判断を行うために信に足るデータ群の取得、そのデータ群を意味ある形で関連付けて分かり易く表現すること、多くの人々がアクセスしやすい情報チャネルの拡充、そして農業(一次産業)に携わっている人自身がデータを利活用しながら持続可能な改善のサイクルを回していくという多面的な取り組みが必要になってくるであろう。
さらに第1回でも触れたが、近年のビジネス環境における複合課題は1社で解決できることは少なくなってきており、複数のプレイヤーや異業種プレイヤーを巻き込んでいかないと取り組みは進まない。
この連載では農業をテーマに論じたが、他の産業における次世代のビジネス創出に向けてもデータ活用の有用性と重要性は同様である。複雑化する社会において新たな勝機を見出していくためには、従来の勘や経験に頼る方法だけでなく、データの力を使った客観的な整理、複数のステークホルダーが連携しながら新たな価値を生み出し、データの力を使って価値を普遍化し、展開していくことがビジネス創出を促進する。
これは言葉で書くほど簡単な取り組みではないが、データという「武器」を有効に活用して変革を促進・加速していく社会変革アクセラレータとしてアビームコンサルティングがチャレンジしている領域であり、実際に我々のパートナー企業と共に議論を始めているので、今後ぜひとも形にしていきたい。

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