電子帳簿保存法・インボイス制度対応で
加速するデジタル化

2023年5月29日

1. 電子化・ペーパーレス化の新展開

COVID-19の影響によってリモートワークが推進され、コア業務に対してオンラインで執務するためのインフラが整備され、ニューノーマルな働き方が定着しつつある。加えて、労働人口の減少に伴うリソース配置・活用が注目されてきていることを背景に、業務運用のペーパーレス化やデジタル化が進められている。
一方、経理業務では、紙の請求書の受領、申請・承認時の押印、決算処理、小口現金の管理など物理的に出社が必要な業務や対面を前提としたオペレーションが残されたままとなっているケースが散見され、コア業務と比較してもペーパーレス化やデジタル化に向けた取り組みが滞っている企業も多かったものと捉える。
しかし、今回のテーマとなる電子帳簿保存法の改正とインボイス制度の施行によって、多くの企業はペーパレス化・デジタル化を喫緊に取り組まなければならない課題として捉え、対応方法を模索している状況と考える。
本インサイトでは、経理業務の中でも当該法制度に関連する経費業務(請求・立替)にフォーカスして、その法制度による業務影響と今後の変革の方向性について述べていく。

電子帳簿保存法の税制改正とインボイス制度それぞれの内容とその業務影響について説明する。
電子帳簿保存法では2021年度の税制改正により、帳簿書類の電子的保存に関するスキャナ保存の大幅な要件緩和と電子取引における電子データ保存の義務化がなされた。これまでの法制度下では手続きの手間や厳しい電子化要件があり、広くペーパーレス化は浸透したとは言えない状況であったが、本改正を契機に、本格的に電子保存に向けた検討や導入に踏み切るケースが増えている。
インボイス制度は、2023年10月から義務化する適格請求書等保存方式の導入を指す。インボイス制度の導入により、売り手側の業務としては、必須記載事項の具備や端数処理などの必要な条件を満たす適格請求書を用意する必要があり、買い手側の業務としては、課税事業者と免税事業者からの課税仕入の区分や、免税事業者からの課税仕入れにかかる経過措置への対応、適格請求書の確からしさの確認と証憑の保存が求められるようになる。
また証憑の保存に関しては、紙の請求書と電子請求書が認められているが、国際標準規格「Peppol」をベースとした国内標準規格「JP PINT」のデジタルインボイスの普及が注目されている。「Peppol」は、請求書などの電子文書をネットワーク上でやりとりするための世界規格で、売り手のシステムから買い手のシステムへ自動連携することを想定したプロトコルである。それらを日本の標準仕様としたものが「JP PINT」として提唱されており、主要な電子請求プラットフォームが対応を表明している。こうしたプロトコルの浸透とインボイス制度導入を併せて俯瞰すると、複数税率の計算や適格請求書か否かの取り扱いなど、電子化していないオペレーションが例外的なものとして切り出されて残っていく可能性は高いと言えよう。一方で、標準化された電子請求書の活用浸透により、将来の取引慣行への適応や、計算・確認がシンプルになることに加え、請求・立替処理を行うシステムと会計・税務システムの間でのシームレスな連携が期待されている。

次にこれら電子帳簿保存法の改正とインボイス制度の導入に伴う変革の方向性として、経費業務(請求・立替)における特徴的なソリューション機能の一例を紹介する。

① Back to Backでの取引明細取得の浸透
従来の経費業務では、取引の実在性を紙の請求書や領収書に依存していたが、現在は取引明細を過不足なく経費精算システムに取り込む仕組みの浸透により、担当者が証憑を取得しない運用も可能となった。 
例:法人カード決済、旅行代理店との取引、交通系ICカード乗車、レンタカー、タクシーアプリなど

② AI-OCR
電子取引に寄せきれない取引における紙の請求書については、AI-OCR機能という文字認識スキャンを用いて、紙を電子化するスキャナ保存が可能となった。従来のOCR機能は、発行元によって異なるフォーマットの文書の取り扱いに制約があり、実運用上の課題があったが、AI-OCRでは、機械学習によりフォームの柔軟性が向上している。また、OCR機能に対応した専用アプリのカメラを利用して、経費の必要項目が自動で入力され、経費システムでのレポート作成そのものが簡略される「入力レス」も実現できる仕組みも登場している。これらを活用することで申請者の入力を省力化し、ヒューマンエラーを防ぐため、承認のチェックを大幅に簡素化することが期待できる。

③ 電子帳簿保存法に対応した電子化機能
複合機やスマートフォンで撮影により電子化した領収書、電子の請求書では、電子帳簿保存法に対応した経費精算システムで申請することで、法令要件を満たしたタイムスタンプなどの付与が行われたうえでのペーパーレスを実現できる。
システム上で経費申請を行うため、申請者・承認者共に、時間・場所を問わない手続きが可能となり、証憑類の物流が発生しない。

2. デジタライゼーションと「セルフサービス化」

経費業務(請求・立替)において紙への押印といった従来のプロセスを実施している企業では、担当者と事務担当者の連携も紙の指示書や、対面、電話でのコミュニケーションをベースとした業務プロセスとなっていることが多いため、検印や確認のコミュニケーションに時間を要しているのが現状である。また部署の総務担当者などが各部の経費事務をサポート(とりまとめ)し、部員への指導や事務の代行をしているケースも散見される。

そのため、経費申請のデジタル化にあたっては、紙の領収書を電子化する単なるデジタライゼーションでは、経理担当者の業務負荷は変わらないものとなる。経理業務の効率化を成し遂げるためには、経費承認まで、人の手を介さず、申請者や経理担当者自身で自走できるような「セルフサービス化」への転換が必要となり、経理業務全体の業務プロセスの改革が必要だ。ここでは、電子帳簿保存法対応の経費精算システムを活用した「セルフサービス化」への要点を考察していく。

① 経費使用の決済手段の再考
経費使用時は、従来の現金での個人立替から、法人カード・交通系ICカードのキャッシュレス決済へシフトし、可能な範囲で利用明細をバックトラックできる手段の利用を奨励することが求められていくだろう。 
電子取引では利用明細がデータで連携されるため、経費精算システムへの自動取り込みにより経費申請者の入力負荷が大きく軽減されるだけでなく、管理者の立場でも、システム上にデジタルデータとして証憑が保存されることによる利便性に加え、明細が過不足なく取り込める仕組みであれば不正申請の余地を極小化させるため、統制面の向上も期待できる。

② システム制御の最大限の活用
人の手で入力すべき項目については、必須項目への設定・自動計算機能を用いて、ヒューマンエラーを最小限に防ぐ仕組みが有効となる。
また、上限金額を超過する申請など制御すべき項目においては、システムのチェック機能を設定して、物理的に申請させない、また申請前に警告させるなどルール・運用を気づかせる仕掛けを用意する。これらにより、差し戻しの負荷軽減、承認観点や承認フローがスリム化され、経費管理者の負荷軽減と統制面の深化に繋がっていくものと考える。

③ 自動化・省力化を前提とした、わかりやすい標準業務設計
先進的な経費申請システムや電子取引の導入の際には既存の業務にとらわれず、セルフサービスを前提とした全社員が習熟しやすい業務を目指す必要がある。そのためには、企業のビジネス特性に応じた経費科目設定や、シンプルな承認フローなど、わかりやすく使いやすい業務設計を行うことがポイントである。ここ5~7年でクラウド型の経費精算ツールや電子請求システムが一定の広がりを見せ、オペレーションの標準像がある程度見えてきた今の段階では、個社要件やシステム外の運用は最小限にし、デジタライゼーションの恩恵を享受しやすいモデルに移行することが推奨されるだろう。
その上で、標準化のもう一つのメリットとして、アウトソースへの移行障壁が少なくなる点も付言する。紙類の物流がなく、かつ適切な標準化がなされたオペレーションは、担い手を選ばないものとなるからである。結果、特にバックオフィス側の業務をプロセスごと自社から切り出してBPOに移行し、本業へのリソースシフトを図るケースも増えており、この流れは続くと考えられる。

上記3点のポイントを押さえたうえで経費精算業務をデジタル化することで、ペーパーレス化に留まらずレガシーなプロセスに従事していたリソースの解放や、内部管理・統制のレベルアップにも寄与するものと考えられる。

3. 変革の将来

経費業務(請求・立替)のデジタライゼーションは、ここ5年ほどで大手企業を中心に取り組みが始まり、段階的に標準的なプロトコルや製品が定まり、局所的な対応から業界横断的・面的な浸透に移行しつつある。COVID-19との闘いを経て、デジタライゼーションに対応してきた企業とそうでない企業に明確な差が出始め、人員の採用や従業員のリテンションにおいて、デジタル後進的な企業に厳しい評価が下される傾向も出てきている。また、紙で処理されていたものが電子化されたということは、間接購買にかかるデータが構造的に収集できる基盤が構築されたという側面も持ち合わせており、データドリブン経営の一要素をなすものと捉えることができるだろう。

データに蓄積された経費の履歴は、様々な分析と経営管理高度化への応用が可能である。例えば、トップラインと経費のバランスをセグメント単位で比較・追跡することで、より効果的な経費の執行を検討することができるほか、購買データの構造化・精緻化により品目ごとに適正な調達価格のコントロールにもつながる。
コンプライアンス面では、AIを活用した解析により、不正な執行を割り出すことも可能になる。こうしたデータドリブンな経営コントロールこそが、単純な伝票類の電子化の先にある次なる変革テーマであり、さらなる競争力向上のためのアクションになり得るだろう。

アビームコンサルティングでは、こうした変革をスピーディーに実現させるために、「請求書DX・経費精算DX実現サービス」などの提供を行っており、クライアント規模や業種・業態に応じた変革を提案している。上記の特徴を踏まえ、実績あるソリューションを提供することで、変革の実現を支援していきたい。

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