ペイロール解禁と外国人労働者向けサービス
~SDGsと金融包摂~

 

エンタープライズ ビジネスユニット
小山 元
内田 悠介

 

2050年カーボンニュートラル、グリーン成長戦略等、SDGsを取り巻く潮流は急速に変化している。企業にとってもSDGsは大きなビジネス機会となっており、経営に欠かせない活動の1つとなっている。今後法改正によるサービス解禁が期待されるペイロールは、SDGsわけても金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)を促進させるキーファクターの1つである。
本稿では、SDGsおよび金融包摂を考察すると共に、当該課題の解決を促す持続可能なビジネス構築について考察する。

本稿は、金融セミナー「ペイロール解禁と外国人労働者向けサービス ~SDGsと金融包摂~」の講演を元に再構成しています。(株式会社セミナーインフォ社主催、2021年1月13日開催)

Ⅰ.SDGsと金融包摂

図1.SDGsに取り組むべき理由

図1.SDGsに取り組むべき理由

金融関係の企業がSDGsへ取り組むべき理由として、主に以下の3点が挙げられる。

第1に、企業としても解決を目指すべき課題が社会に存在するためである。
日本はG7の中で米国に次いで2番目に相対的貧困率が高く※1、年収200万円未満の世帯が880万世帯存在している※2。当該世帯に属する人々は、信用力の問題で金融機関からの借入が困難であると想定される。BOPビジネス※3をはじめ、社会課題の解決が、持続可能なビジネスモデルの構築へと昇華されるシーンがあると推察される。

第2に、SDGsそのものが大きなビジネス機会になり得るためである。
BSDCレポート(ダボス会議)によると、SDGsの達成により2030年迄にグローバルで12兆ドルの市場機会が発現するとの試算がある※4。すなわち、金融包摂の取組みは、大きなビジネス機会と捉えることができる。
加えて、SDGsアクションプランおよび規制緩和の文脈に位置する法改正等は、上記の追い風になり得るものである。2021年度にも解禁されると報道があった「給与のデジタル払い(ペイロール)」※5は、政策による規制緩和と了解すべきものである。

第3に、企業としてSDGsに対応しないことはビジネスリスクになり得るためである。
全世界のESG投資残高は2018年に約30兆ドル※6、日本においても投資残高は約230兆円となる※6。また、ESG投資の中でも特に注目されている手法であるESGインテグレーションでは、17,544ドル(CAGR:30.2%)のポテンシャルがあり※7、ESG投資に関する世界的関心の高まりを表している。
ESG投資をはじめとする資金調達リスク、SDGs非適合による取引関係上の排除リスク、企業選択時におけるサステナビリティ観点でのレピュテーションリスク等を、企業活動として考慮する必要がある。


図2.ESG投資の7分類

図2.ESG投資の7分類

Ⅱ.急拡大する外国人労働者市場

今後法改正によるサービス解禁が期待されるペイロールは、金融包摂を促進させるキーファクターの1つである。そのペイロール解禁によるビジネス影響が大きい市場の1つが、外国人労働者市場である。
コロナ禍における一時的な需給調整の局面はあるものの、2030年時点での労働に係る需給ギャップとして、女性やシニアの雇用促進を加味した場合でも、約379万人の労働力不足が懸念されている※8。もちろん多様性を意識した雇用促進、あるいはデジタル化による雇用補完等は考慮できるが、それらを加味しても需給ギャップの完全な解消は困難と推察される。


図3.労働力の需給GAPと2030年の予測

図3.労働力の需給GAPと2030年の予測

需給ギャップ解消のキーファクターになるのが外国人労働者である。入国管理法の改正を背景に、外国人労働者数は年々増加し、2030年度は2019年度と比較して約25%増加すると予想されている※8
一方で、外国人労働者の受入れにあたっては、在留年数やライフサイクルに応じて、多くの課題が存在する。特にFATF監査等に基づく犯罪収益移転防止法の強化を背景に、入国6ヶ月以内の外国人労働者は口座開設できず、金融サービスの享受が困難となっている。

Ⅲ.ペイロールサービス

外国人労働者市場の課題を解決する一助として、給与債権の電子マネー払い(ペイロールサービス)の提供が考えられる。銀行以外の事業者がリスク対策を講じることで、口座開設の制約は解消されると共に、企業側も口座開設支援の事務負担および給与支払いによる振込手数料軽減のメリットを享受できる仕組みに期待がかかる。
以降では、外国人労働者市場へのアプローチ例として、4つのサービスを記載する。

① ペイロールカード
電子マネー払いに対応した給与アカウントサービス

給与債権の電子マネー払いに対応した給与アカウントを外国人労働者に発行し、口座開設の課題を解決すると共に、企業側に対しても振込手数料削減等の価値を提供する。

② 決済・海外送金
ライフラインの維持に係る決済サービス

電子マネーの利用範囲を広く保つため、国際ブランドのアクセプタンスを電子マネーに付加し、日常消費、公共料金支払いサービス(リカーリング)等を提供する。

給与アカウントと海外送金をシームレスに繋ぐサービス
外国人労働者にとって、低コストで母国へ送金可能なサービスのニーズは高く、特に給料受取から決済、海外送金まで一気通貫で利用できるサービスへのニーズは高い。シームレスに海外送金できるサービスを構築する。

③ 与信サービス提供
動態情報の蓄積による段階的なファイナンスサービス

上記サービスの支払及び利用明細の情報、導入先と連携した勤務態様情報等を蓄積することで、デフォルトリスクが比較的小さな領域からファイナンスサービスを提供していくことが、次のステップとして求められる。給与債権の巡行値等を考慮した「オーバードラフトサービス」、家賃等の賃貸借契約における「保証サービス」、将来的な在職期間を考慮しつつ、換価価値を見積もれる「動産担保型の貸付サービス」等が考えられる。


図4.顧客関係強化とビジネスモデルの発展

図4.顧客関係強化とビジネスモデルの発展

Ⅳ.迅速な市場参入とアライアンス戦略

当該市場へのアプローチポイントは、迅速な市場参入にある。黎明期の市場であるため、先発優位性を活かしたチャネルカバレッジおよび統制等により、市場で有利なポジションを確立することがポイントとなる。
また、上記の全サービスを同時にリリースする必要はなく、規模や成長性、業種、地域、顧客層等を考慮した市場細分化の基準を定め、参入の迅速性とサービス内容の拡大のバランスをとりつつ、成長モデルおよびビジネスモデルを構築する必要がある。
以降では、アプローチ例としてBMC(Business Model Canvas)をベースに考察する。


図5.本稿でのビジネスモデル設計手順

図5.本稿でのビジネスモデル設計手順

1.参入障壁
環境分析による市場細分化と優先エリアの順位付け等はさることながら、サービス展開に必要となる資金移動業ライセンス、また外国人労働者にリーチするチャネル開拓が必要となり、当該市場には一定の参入障壁がある。障壁クリアのために外部補完も考慮する必要がある。但し、KP(キーパートナー)にVP(価値提案)とCR (顧客との関係) ロックされない仕組み作りが必要になる。

2.顧客価値:CS(顧客), VP(価値提案), CR(顧客との関係), CH(チャネル)
①ペイロールサービスの拡大施策
前述の通り、ペイロールは主に4つのサービスを顧客へ提供し得るものである。
また、早期にチャネルカバレッジ及びチャネル統制を実現するため、外国人採用企業の割合が高い地域、業界等の細分化基準を定め、特定ターゲットを定義することで提携先を選定する必要がある。一例だが、地域別であれば関東、中部、近畿の順で外国人労働者が多く、業界はサービス業、製造業の割合が全国的に高水準となっている。

②顧客セグメントに適合する海外送金サービスの展開
国籍等により送金に係る嗜好性が分かれるため、ターゲット層に適したサービス設計が重要となる。ペイロールサービスにおける法人取引とは異なり、外国人労働者との関係性構築が重要となり、店頭、モバイル、KIOSK端末等の送金手段の多様性確保も必要になってくる。

3.バリューチェーン:KP(キーパートナー),KA(主要活動),KR(キーリソース) 
アライアンスを活用して迅速に市場参入することで、先行者メリットを享受できるかが重要となる。もちろん、市場参入パターンによって、調達すべきバリューチェーン上の主要パートナー、活動、リソースが異なってくる。
例えばペイロールの場合、「資金移動業の資格を保有しているが、管理システムやオペレーターを保有していない企業」は、運用委託が可能な企業とアライアンスするとともに、外国人労働者へリーチするために企業や監理団体へアプローチすることが重要になってくる。
一方、海外送金の場合、「資金移動業の資格を保有している企業」であれば、現地オペレーターを保有している企業とアライアンスを組むとともに、海外送金ネットワークやチャネル拡大に注力することが重要になってくる。
最後に、上記考察で想定できるプレイヤー関連図を例示する。この図のように、ペイロールに取り組むにあたって関係するプレイヤーは広範で多用である。


図6.ペイロールサービスにおけるプレイヤー関連図

図6.ペイロールサービスにおけるプレイヤー関連図

以上、外国人労働者市場の社会課題を解決する一助として、ペイロールサービスを解説した。
アビームコンサルティングは、SDGs、ESG投資、ペイロールサービス、決済ビジネス、外国人労働者向けサービス、新規事業立案等の知見を幅広く有しているため、是非お問合せ頂きたい。

  • ※1:OECD「経済審査報告書 日本」2017
    ※2:総務省「全国消費動向実態調査」2014
    ※3:Base of the Pyramid、低所得者層を対象とした持続可能なビジネス
    ※4:Business & Sustainable Development Commission (BSDC)「Better Business, Better World」2017
    ※5:労働基準法第24条、施行規則第7条2の第1項「例外規定」の改正
    ※6:IGES「ESG時代におけるSDGsとビジネス」2020
    ※7:GSIA「Global Sustainable Investment Review」2018
    ※8:パーソル研究所「労働市場の未来推測2030」2020

専門コンサルタント

page top