地域密着型インフラ事業者が主導する「エリア価値創造」とは
~カギを握る共創とデジタル化~

第2回 エリア価値創造の要:地域密着型インフラ事業者と地域マーケティング

2023年11月28日

地域密着型インフラ事業者における事業環境の変化

国全体で人口減少が進む中、地域密着型のインフラ事業者は、自社の事業エリアの人口減少やサービス利用者の減少に直面している。一方で、新型コロナウイルスの影響やリモートワークの普及により、人口の流動性が高まり、健康と安全への意識や地域コミュニティへの関心も高まっている。地域密着型インフラ事業者にとっては、自社の事業継続、及び事業エリアの持続的な発展に向けて、迅速かつ適切な対応が求められている一方で、これらの変化を前向きに捉えることで、新たなビジネス機会も創出される。地域密着型インフラ事業者が主体的に事業エリアの価値創造に取り組み、地域資源や特性を活かした魅力的な環境やサービスを提供することで、地域の発展や魅力向上に貢献していくことが求められている。

本インサイトシリーズでは、地域におけるエリア全体の価値を構成する要素と、その繋がりを明らかにし、「ヒト(生活者)」を起点として、エリア全体の価値を高め、更に新たな価値を創造するためのプロセスや方法について考察している。第1回では、エリアの価値を構成する要素と「ヒト(生活者)」を起点としたエリア価値創造プロセスについて紹介した。
第2回では、地域密着型のインフラ事業者に求められる役割とエリア価値創造の推進に必要な要件やアプローチについて紹介する。

エリア価値を創造できる地域密着型のインフラ事業者

それでは、このようなエリア価値の創造に向けた活動を推進していくにあたり、地域で主体と成り得る候補者は誰であろうか。もちろん地域の生活者や自治体の関与は必須である。
ただし、エリア価値創造の推進には、①その地域と生活者(居住者・来訪者)や外部からの視点を持つヒトの接点となる「つなぐ場・拠点(ハブ機能)」を持ち、②地域のランドスケープ・空間を形成するインフラ資本を所有し、③様々な事業やサービスを通じて地域資源を高付加価値化してサービス提供していく必要がある。その際には、④多種多様な事業連携や地域連携によるイノベーション創出の必要性も想定される。また、⑤自然資本(環境・景観)のサスティナビリティにも配慮してエリア開発を手掛ける意識も求められる。

このような条件なども考慮すると、エリア価値の創造を持続可能な事業として推進していくには、その地域に密着して事業活動を行っているインフラ関連の事業者を主体として、生活者や自治体、また、その他の地域事業者などの関与も促しながら地域全体を巻き込み、エリア全体の価値を創造していくという方法が望ましいのではないかと思われる。

また、エリア価値創造事業者の候補と成りうるインフラ事業者においては、生活者ニーズに対する多角的なサービスの提供や地域資源の多様な活用が求められている。地域との共創関係を構築し、地域の支援に重点を置きながら自社の新たな事業・サービスの機会創出にも取り組むことで、地域の新たなビジネスモデルの構築が進むとともに、地域全体の魅力が高まり、新たなエリア価値を生み出すことに繋がる。そして、自社の事業エリアにおいて、将来的に定住人口の減少やサービス利用者の減少が想定される場合、エリアの価値創造に取り組むことは、自社の事業エリアの魅力や価値を高め、定住人口・サービス利用者の減少に歯止めを掛けることにも貢献すると思われる。

地域に密着してエリア価値創造を推進する主体の候補者としては、沿線エリアの開発を手掛ける鉄道会社、エリアの開発を手掛けるディベロッパーや地域内に不動産を所有する不動産会社の他、地域内に多数のアセットを所有する電力会社・通信会社なども想定される。
更に、これらの事業者が共創を図っていくことで、それぞれの顧客(顧客接点)のカバー範囲を拡大することも可能で、また、取得できるデータ情報や提供する生活サービスなども拡大していくことができると考えられる。なお、このような形でエリア価値創造を推進しながら、エリア価値創造を推進する主体の事業レイヤーを拡大していく際には、外部の生活サービス提供者やデータサービス会社とも事業連携を図っていくという方法も想定される。

つまり、エリア価値創造を推進する事業者(エリア価値創造事業者)には、地域に密着して地域の資源や特性を活用し、様々な事業連携や地域連携なども図りながら価値を創造することで、地域全体の発展や魅力向上に貢献する役割を果たすことが期待されるのである。

 

図1 エリア構成要素の全体像と事業共創イメージ

図1 エリア構成要素の全体像と事業共創イメージ

地域に密着してエリア価値創造を推進する事業者について、鉄道会社を例に考えてみる。
鉄道の沿線エリアとしては、主に政令指定都市やその近郊の都市部を中心とした大都市圏、地方都市部やその近郊の中小都市圏、主に地方部にあるような農山漁村圏に分類できる。
また、沿線から対象となるエリアの範囲としては、特定の駅周辺に限定した地区レベル、沿線上に複数駅がある単一行政区が対象の自治体レベル、行政区を跨ぐ沿線全体を対象とした複数自治体レベルに分類できる。

対象エリア別の特徴としては、特定の駅周辺に限定した地区レベルとして、大都市圏にある「①ターミナル駅・駅ビルがある駅周辺など都市部の中心商業地区」、「②駅に近接したマンション群などがある郊外部のベッドタウン」、中小都市圏にある「③駅周辺に商店街・住宅街などがある中心市街地」、「④有名観光スポットなどがある地方観光地」、農山漁村圏にある「⑤地方の生活動線上に駅がある一次産業中心地域」、「⑥地方鉄道沿線にある無人駅など鉄道利用者も限られた地区」などの分類が考えられる。
次に、沿線上に複数駅がある単一行政区を対象の自治体レベルとして、都市部の大都市圏にある「⑦ターミナル駅・駅ビルがある駅と、隣接する駅、及びその周辺エリアの単一行政区域」、地方都市部の中小都市圏にある「⑧中心的な商店街・住宅街や有名観光スポットなどがある駅と、隣接する駅、及びその周辺エリアの単一行政区域」、地方部の農山漁村圏にある「⑨沿線上に複数の駅がある農山漁村エリアの単一行政区域」などの分類が考えられる。
更に、行政区を跨ぐ沿線全体を対象とした複数自治体レベルとして、沿線上にある都市部から地方部に渡り、「⑩沿線上の隣接する市町村が経済的・生活的な結びつきから形成する行政区域を超えた圏域や、沿線上の隣接する市町村による広域で観光圏・文化圏などを形成する行政区域を超えた圏域」なども考えられる。

 

図2 鉄道沿線エリアの分類

図2 鉄道沿線エリアの分類

また、圏域の特性や人口規模などによって、エリアのランドスケープ(地域の空間や風景)や社会・文化・価値観などはそれぞれ異なってくるはずである。よって、エリア価値創造に向けては、このような沿線エリア圏域の規模や対象とする沿線からの範囲に応じて、対象エリアの構成要素が持つ価値を、まずはエリア価値創造事業者として定義する必要がある。
そして、対象エリアの特性や事情に合わせて、事業共創に向けて巻き込むべきプレイヤーを検討し、対象エリアの生活者(ヒト)が認識しているエリアの「社会・文化・価値観」を意識しながら、地域の価値や特性を活かしたサービスを検討していく必要がある。加えて、地域の特徴や住民の属性、サスティナビリティなども意識しながら、エリアや圏域に応じて身の丈に合った開発規模と手法も考慮することも求められる。

エリア価値創造に向けた「地域マーケティング」

真にヒト(生活者)中心のまちづくりと、それに向けたエリア価値創造を実現する上では、サービス受益者である生活者(居住者・来訪者)のニーズを満たす生活サービスが提供され、実際に使われることが必須であり、それらのサービスを通して生活者(居住者・来訪者)の「体験価値」を総合的に向上させることがエリア価値創造の目的にもなる。
そのためには、利用者目線での本質的なニーズを把握した上で、必要な施策を導出して、利用者に提供するサービスとして設計するとともに、サービス提供開始した後も継続的に品質や機能も向上させて、提供価値を発展させていくことが求められる。
また、そのビジネスモデルにおける収支を良くするためには、生活者(居住者・来訪者)にサービスが利用されることが必要条件である。よって、提供する生活サービスは、第一に使ってもらうことを考えるべきであり、そのためには利用者に各サービスの存在や正しい利用方法などが認知されていることが必要となる。同時に、そのエリアで提供されるサービスの利便性や便益などにより、観光客や移住者を呼び寄せることが目的である場合も多い。
更に、エリア価値創造に向けては、企業の出資や参画を得ることが必要となることも想定される。その生活サービスを提供するにあたり、複数のプレイヤー間で連携する場合には、各プレイヤーに提供が求められる価値や役割、また、その対価やその他財源なども明らかにする必要があり、その上で、各プレイヤー間で発生する商品・サービスなどの提供と対価の支払い等のやり取りなどを構造化する必要もある。

そのため、エリア全体を俯瞰して、共創パートナーとの協働体制を築き、新たに開発するサービスのビジネスモデルを構築することが、各プレイヤーかつ地域全体の持続的な運営を担保することにも繋がる。そして、様々な形で参画するプレイヤーが具体的、かつ其々の狙いが明確であるほど、具体的なビジネスモデルは構築しやすくなる。
したがって、これらのビジネスを実現していくためには、利用者ならびに共創パートナーの興味を引き、最適な情報を届けることが重要であるため、地域としてマーケティング機能を充実させていくことも必要になってくる。

一般的にマーケティングというと「市場調査」や「販促・プロモーション」をイメージされるが、これらはあくまで狭義のマーケティングの手段・手法に過ぎない。マーケティングの本質は、市場に多数存在する商品・サービスの中から、自社の商品・サービスを繰り返し利用してくれる人(=リピート顧客)を増やすことで、市場における自社のシェアを伸ばし、売上・利益を拡大することにある。

これを地域に置き換えてみると、地域にとってのマーケティングとは、対象エリアの居住者・移住者などの定住人口、あるいは、来訪者であれば対象エリアを初めて訪れる者や繰り返し訪れる者などの交流人口を増やし、更に地域に対して深い愛着を持ったファン(=関係人口)を増やすことで、対象エリアの経済効果や住民満足度を向上させる好循環を構築するための仕組みづくりを意味する。
したがって、エリア価値創造事業者には、対象エリアにおける価値創造の推進役としての役割が期待され、求められる機能なども多岐にわたるが、その中でも、特に求められる機能として考えられるのが「地域マーケティング」ではないだろうか。

なぜなら、自治体や観光協会などは定期異動や派遣職員も多いため、人材の流動性が高く、地域マーケティングの知見が蓄積されづらいという課題を抱えており、ノウハウを持った人材が育ちづらい状況と推察される。
一方で、近年コロナ禍の影響による生活者ニーズの多様化や、旅行スタイルの多様化により、地域マーケティングの絶え間ない見直しが必要な状況となっている。特に、地域観光においては、コロナ禍でニーズの抑圧、旅行先の分散化や新たな観光スタイルなど、価値観が多様化したが、コロナ禍後においては、更に多様なニーズに対応できる地域が持続的に発展すると考えられ、地域としての戦略や地域マーケティング施策の巧拙が問われる時代になりつつあると思われる。

よって、エリア価値創造事業者による地域マーケティングに求められる役割は、対象エリアが目指すべき方向性を定め、移住・来訪して欲しいターゲットとなる対象者を明確にして、ターゲットに刺さる的確な施策を検討することで、対象エリアの特性を活かしたエリア価値創造を実現する点にある。また、施策に対するターゲットの反応を収集することで、戦略をよりブラッシュアップし、共創するプレイヤーの行動を促していくことが可能となる。

 

図3 「地域マーケティング」の基本プロセスの全体像

図3 「地域マーケティング」の基本プロセスの全体像

ただし、事業における「一般的なマーケティング」と「地域マーケティング」には大きな違いもある。一般的なマーケティングでは、マーケティング活動の対象範囲としては自社のブランドイメージや自社内の商品・サービスに限定されることが多い。一方で、地域マーケティングでは、対象エリア全体のブランドイメージや対象エリアに存する地域資源などもマーケティング活動の対象範囲となりうる。

また、一般的なマーケティングでは、自社のマーケティング対象である商品・サービスを直接保持しているため、マーケティング対象を自社でコントロールすることが可能であり、自社内でマーケティングに関する合意形成を完結することが可能である。
一方で、地域マーケティングにおいては、エリア価値創造事業者が直接的に商品・サービスや対象となる地域資源を有しているわけではないケースもあり、コントロールが難しいことも多い。また、地域マーケティングでは、対象となる商品・サービスや地域資源を有する多数のステークホルダーが地域に散在しているため、意思決定を行う際にはステークホルダーとの合意形成が避けて通れない。対象エリアに存在する地域のシンボル的な地域資源の関係者、宿泊事業者、交通事業者、行政に加えて、地元の飲食店、物販店など多種多様な業種の事業者のみならず、地域住民などとも合意形成を行う必要があり、大きなハードルになりやすい。

つまり、エリア価値創造事業者が保有していない商品・サービスや地域資源を有する共創すべきステークホルダーと目指す方向性を共有し、一体となって戦略の策定と施策の実施を進めていくことが求められる。

また、一般的なマーケティングでは、戦略策定から施策実行まで全てのプロセスを自社で一貫して行うため、マーケティング活動におけるプロセス間の齟齬は発生しづらい。
一方で、地域マーケティングにおいては、エリア価値創造事業者と共創するステークホルダーとの間で、マーケティング活動プロセスの各フェーズを担う主体が異なることもあるため、エリア価値創造事業者の方で納得感のある戦略を仮策定し、共創ステークホルダーからの共感・賛同、合意形成を経ながら固めていき、丁寧な戦略共有を行うことが必要になる。つまり、地域マーケティングを機能させるためには、マーケティング活動プロセスにおけるフェーズ間の整合性を担保するためのステークホルダーマネジメント(利害関係者の管理)も必要不可欠となる。
また、自治体が策定する地域全体の計画などとも連携・連動することが望まれる。

その上で、エリア価値創造事業者においては、エリア全体のマーケティング戦略を作成した後に、個別の地域事業者がマーケティングを行う際の支援を行うことも有効であると思われる。それにより、エリア価値創造事業者によるステークホルダーマネジメントが機能し、エリア全体で個別の事業者のマーケティング戦略とも有機的に連携・連動できるようになると、より実効性の高い地域マーケティングを展開することが可能になる。

 

図4 一般的なマーケティングと「地域マーケティング」の相違点

図4 一般的なマーケティングと「地域マーケティング」の相違点

エリア価値創造に向けた「共創関係」の構築

エリア価値創造事業者において重要なのは、ステークホルダーとの共創関係を構築することである。地域の中で中核的な役割を果たすパートナー事業者の協力が得られたら、地域の目指す姿・地域ビジョンを共創するステークホルダーと共有していくことが必要であり、この共通の目指す姿やビジョンが、最終的に地域のブランドイメージにも繋がる。

よって、エリア価値創造事業者が地域の目指す姿・地域ビジョンのたたき台を作成して、それを基に共創ステークホルダーと議論の上で地域の目指す姿・地域ビジョンを具体化していくという双方向的な進め方をとることが有効である。そして、いかに共創ステークホルダーに「自分ゴト」として当事者意識を持ってもらうか、ということが重要である。
また、地域の目指す姿や地域ビジョンを地域全体で納得感を伴って受け入れてもらえるようにするためには、客観的なデータを活用しながら地域マーケティング戦略を具体的に検討していく必要もあるだろう。そして、対象エリアを取り巻く環境やニーズの変化が激しい状況においては、マーケティング戦略に沿って施策を実行していく中で、利用者の反応を収集しながら、戦略へのフィードバックを行い、ブラッシュアップしていく必要もある。

特に地域マーケティングでは、施策の実施を通じて得た現場目線での環境変化や、利用者の反応などは重要なインプットとなる。実際にサービスを提供する中で得られた利用者の反応やインサイト(なぜそのような反応となったのか)を探り、絶えず戦略・施策の見直しを図っていくことで、戦略・施策をより精度の高いものとしていくことが可能になる。
そして、こうした利用者のニーズや、ニーズの変化を把握しやすいのは、現場で活動する事業者であることが多いため、エリア価値創造事業者は、こうした現場レベルのデータや情報を適切に吸い上げ、戦略・施策に反映するための仕組みを構築することも求められる。

したがって、地域の目指す姿・地域ビジョンについて、納得感を伴って共創ステークホルダーに受け入れてもらうため、また、客観的なデータを活用した地域マーケティング戦略・施策の策定、及び利用者のデータを収集して効果的に戦略・施策へフィードバックしていくためには、可能なレベルでデジタル化したサービスの提供を図り、データの収集・管理と、データ分析・活用の仕組みを構築していく必要がある。

デジタル活用による「地域マーケティング」

エリア価値創造の対象エリアに存在する生活者としては、エリアに定住している居住者(住人)と、他のエリアから訪れる来訪者(観光客・移住希望者)に大きく分けられるが、生活サービスのデジタル活用について、対象エリアの来訪者(観光客)を例に、行動プロセス(カスタマージャーニー)に応じたデジタル活用について考察してみる。

近年、観光においてもデジタルマーケティングが重要視されるようになっている。その背景としては、世界的な個人旅行化や観光客の行動様式の変化などが挙げられる。また、地域に対する誘客においては、様々な事業者がプレイヤーとして参画しており、観光客の旅マエ~旅ナカ~旅アトの行程を通して、様々な事業者が観光客(顧客)と関係を持っているため、従来から観光産業は分業的な体制の構造となっている。

こうした状況下において、観光客の一連の行動をアナログ情報のみで理解するということは、非常に困難なことである。しかし、昨今は観光客の行動様式がスマートフォンアプリの利用による検索・予約などを前提とするものになったことで、デジタルマーケティングが普及し、デジタルツールを活用して、観光客の行動や心理を把握することが可能となった。
例えば、Web広告やOTA等へのアクセスデータ、予約アプリやサイトコントローラー等の予約実績データ、スマホGPSや基地局による位置情報データ、クレジットカード・決済アプリ・CRM等による決済データ、チェックインアプリ・SNS投稿等による行動履歴データなど、個別の観光事業者が持つ顧客データとは別に旅行者の行動について理解を深めることができるデータ情報が取得できるようになってきている。

 

図5 観光客(エリア来訪者)の行動プロセスの全体像

図5 観光客(エリア来訪者)の行動プロセスの全体像

ただし、このような観光客のデータ情報は、現状の観光産業の特徴でもある分業的な体制構造により、統合的には管理されておらず、データ情報としては個別の事業者間で分断されているケースが多い。観光客(エリア来訪者)の行動や嗜好性などについて、より深く理解し洞察を深めていくためには、観光客の旅マエ~旅ナカ~旅アトの一連の行程における行動プロセスにおける顧客接点を把握・整備し、収集される各データ情報を統合して管理・分析していく必要がある。また、それらのデータ情報から得られる分析結果を基に、エリア全体でより深い顧客アプローチに繋げていくことが求められる。例えば、鉄道会社の場合は、観光における旅マエ~旅ナカにかけての顧客接点を有する機会が多いと想定されるため、今後はより観光客(エリア来訪者)の行動プロセスを横断した事業連携・データ連携が実現できると望ましい。

また、観光の目的地となるエリア内では、観光客(エリア来訪者)が滞在している旅ナカのデータ情報を得る必要があり、そのためには、エリア内での顧客接点を把握・整備を地域事業者と連携して充足していくことが求められる。エリア内において、このような仕組みの構築についても、エリア価値創造事業者として期待される役割であると思われる。

これらのデジタルツールの活用は、その他の生活サービスにおいても同様で、地域マーケティングの好循環を生み出すためには、ターゲットとなる顧客の人物像(ペルソナ)を明確化し、ターゲットに刺さるサービス提供を検討していくことが重要であるが、デジタルマーケティングは、それを実現するために必要なアプローチであると考えられる。

つまり、地域マーケティングのデータ活用とは、対象エリアの生活者(居住者・来訪者)データを広く収集し、生活者の行動履歴や嗜好性などをデータで捉え、地域の現状や課題を把握することで、地域全体でデータに基づいて戦略や施策を検討していくことであり、データを通じて生活者(居住者・来訪者)と地域との関係性を把握することである。
また、そのためには、地域に関わる様々な事業者・団体と連携して顧客関係の構築に取り組んでいくことが必要である。エリア価値創造事業者や地域事業者が商品・サービスを提供するとともに、顧客である生活者との間に信頼関係を作り、持続的な関係構築を行い、生活者と地域事業者との相互利益を向上させることでエリア価値創造を実現するのである。

このような生活者データの収集は様々な接点を通じて行われるが、その収集したデータを一元的に管理し、マーケティング戦略への示唆出しを行い、データ分析に基づいて保有チャネルを通じて顧客への適切なアプローチを行う統合的な仕組みが必要である。また、これらの生活者データの収集は、エリア価値創造事業者だけではなく、共創パートナーからもデータ提供いただくことで、個社では実現しない量のデータを収集できる可能性がある。

ただし、そのためには、共創パートナーと目的意識(地域の共通ビジョン)を統一する必要があり、分析した結果については、エリア価値創造事業者が自ら活用することに加えて、共創パートナーや地域事業者にも提供することで、共創パートナーや地域事業者の事業改善や収益向上にも貢献する必要がある。また、データを活用することで生活者のQOL向上やエリア全体のサービスレベル向上など、生活者の便益に資する施策を実行していくことが求められる。特に、観光においては、分析結果を基に、地域ブランディングや地域プロモーション、新たな地域コンテンツの開発や集客ポイント・キャッシュポイントの開発なども効果的に行うことができるようになるため、対象エリアにおける誘客促進や消費増加など、エリア全体の魅力や価値の向上にも貢献できると考えられる。

しかしながら、エリア価値創造を実現するためには、各種の生活サービスにおいてはデジタル・非デジタルに拘らず、生活者目線での領域間におけるサービスの連携が必要であり、また、データ活用を促進していくためには、各種サービス間でのデジタル統合やデータ連携、サービス層とインフラ層から収集されるデータ統合なども必要である。そして、更に継続的なエリア価値創造には、イノベーションとテクノロジーの活用が欠かせない。対象エリアに新たな技術やデジタルを取り入れることで、エリア価値創造にも貢献する新しいサービスやビジネスモデルの創出が可能となるのである。

アビームコンサルティングでは、変わりゆく地域における企業や組織、ステークホルダーへの持続的な価値提供とサスティナブルなインパクトをもたらすために、エリア価値創造に向けた地域ビジョン策定からサービス企画やデジタル化まで、一貫した伴走型サポートを行っている。また、地域や企業に対して、より高い社会的価値の実現に向けた共創をコーディネートする役割を担い、共創による新たな価値創造をデザインしている。
今後もアビームコンサルティングは、地域やクライアントと共に「エリア価値造創造」に取り組んでいく。

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