調達コスト削減を阻む5つの壁と突破のカギ
第5回 腹落ちの壁と突破のカギ

2023年7月25日

1. はじめに

本インサイトシリーズの第1回では、企業の調達コストを取り巻く環境とその削減を阻む5つの壁が存在すること、それらの壁を突破するカギを紹介し、第2回目以降で、それぞれの壁の詳細について解説してきた(図1)。 
第5回では、「腹落ちの壁と突破のカギ」の詳細について事例を交えながら解説する。 

図1 調達コスト削減における5つの壁

図1 調達コスト削減における5つの壁

この腹落ちの壁には、各品目の管理を担う主管部門と合意した実行計画を現場担当者が推進する際にぶつかることが多い。 
コスト削減の取り組みを企画する施策立案者は主管部門と実行計画を合意すると、実行は現場担当者に委ね、あとは計画の進捗管理に回ることが多い。ところが現場担当者からすると、活動の必要性は理解しつつも、具体的な進め方が分からない、通常業務が忙しい中でやらされ感が募るといった理由でコスト削減が後回しになってしまう。しかし、これらの裏側にある現場担当者の真意は得てして、突然施策立案者から実行を委ねられ、施策立案者は何も手を動かさないことに対する反発であることが多い。「勝手なことを言われても困る。言い出した人からやってほしい」と言うわけである。このように現場担当者が面従腹背し、取り組みが一向に進まない。これが腹落ちの壁である。 
この壁を突破するカギは、施策立案者が組織や分掌の境界を越えて現場に入り、自ら先陣を切って取り組み、成果を出していくこと。合意した計画とはいえ実際に取り組む現場担当者には意識の隔たりがあり、新たにコスト削減に取り組む企業では、この隔たりは殊更大きい。そこで、施策立案者が各品目の具体的な進め方を現場担当者と協議し、サプライヤー調査や見積・交渉を主体的に取り組み、成果に繋げていくことが現場担当者の共感を得るには不可欠である。このような取り組みを通して現場担当者との共感の輪を拡げ(面従腹背の撲滅)、取り組みに「魂を吹き込む」ことが重要である。 

2. 施策立案者と協同し、「やってみせ」て現場を動かした事例

施策立案者と現場担当者とが一時は決裂し、取り組みが止まってしまったところから立て直しを図り、最終的には施策立案者との協同へと繋がった事例を紹介する。 

事例:施策立案者の意識変革を促し、協同を漸進させてコスト削減を実現 
大手製造業A社では、コスト構造改革による競争力強化を目指して、経営企画部が主管部門を巻き込んでコスト削減計画を立案し、施策立案者はその実行を現場担当者に委ねることにした。ところが定期的に進捗を確認しても取り組みは一向に進まず、次第に現場担当者からの施策立案者に対する反発が増し、ついには決裂するに至ってしまった。 
困ったA社から相談を受けて我々が話を伺うと、施策立案者は企画側の立場として「実行は現場」との意識が強く、自ら手を動かすという考えは持っていなかった。他方、現場担当者は、自らの与り知らぬところで計画だけが作られ、その進捗ばかり管理しようとする施策立案者にほとほと嫌気が差しているという状況であった。 
お互いの歩み寄りが期待できない中、まずは我々が間に入って計画の具体的な進め方を施策立案者と現場担当者の三者で協議し、新規サプライヤーの導入や見積・交渉の設計・実施を主導して、成果を出していくことで、現場担当者からの共感や信頼を得ていくことにした。これまでの現場に実行を委ねる方法が機能しなかったのに対して、我々が現場担当者と協同して成果を挙げ始めたことや、現場担当者も我々に信頼を寄せて一緒に取り組んでいく姿勢の変化を目の当たりにしたことで、施策立案者にも、次第に現場に自ら入ることが計画を進めるカギであるとの意識が生まれ、協同していけるようになった。我々の目から見ると協同の深度には物足りなさが残ったものの、施策立案者、現場担当者ともに活動を通して各品目の進め方や業界動向といった知見を吸収し、また、協同の仕方を身につけられたことで自走できる取り組みとなり、最終的には着実なコスト削減を実現していった。 

3. 現場任せは推進力を欠く。施策立案者のリードがポイント

今回の事例のように、企画側の施策立案者はその役割から計画策定までは行うものの、実行は現場の仕事であるとして自ら線を引いてしまうことはよくある。これに対して現場担当者は、通常業務繁忙やリソース不足を訴え、確かにこれらも取り組みが進まない理由ではあるものの、こうした訴えの裏側にある真意を捉える必要がある。 
調達の現場担当者が通常業務としてコスト削減に取り組んでいるケースではともかく、企業変革の一環としてコスト削減に新たに着手するケースでは、現場担当者だけで実行することは容易ではない。コスト削減においても、他の企業変革の取り組みと同様に施策立案者が組織や分掌の境界を越えて、現場をリードしながら共に取り組みを進めることが重要である。 
コスト削減を計画したものの進捗が芳しくないという企業では、今一度これまでに述べた観点で活動を見直してみてはいかがだろうか。 

次回、本シリーズの最後となる第6回では、削減実行の中でぶつかりがちな定石の壁とその壁を乗り越えるカギを、事例を交えて紹介する。 

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