調達コスト削減を阻む5つの壁と突破のカギ
第4回 現場主義の壁と突破のカギ

2023年7月11日

1. はじめに

本インサイトシリーズの第1回では、企業の調達コストを取り巻く環境とその削減を阻む5つの壁が存在すること、それらの壁を突破するカギを紹介し、第2回目以降で、それぞれの壁の詳細について解説してきた(図1)。
第4回では、「現場主義の壁と突破のカギ」の詳細について事例を交えながら解説する。

図1 調達コスト削減における5つの壁

図1 調達コスト削減における5つの壁

第1回でも紹介したとおり、いざ調達コスト削減の実行に移ろうとしたときに、削減余地や施策の実現性に一定の信ぴょう性があったとしても、施策を実行していく現場部門の賛同が得られずに「待った」がかかることがある。 
「待った」の理由が、施策検討時には見えていなかった知見や要件等に基づくもの(たとえば特許性の有無や既設機器仕様上の制約等)であれば施策を見直す必要があるが、そうではなく漠然とした不安感が背景となっていることも多い。 
このような不安感から生じる抵抗意見に「迎合」してしまうと実際に取れるアプローチが制限されてしまい、削減の期待効果も当初より小さく「縮こまって」しまう。これが「現場主義の壁」である。 

例えば不安感には、以下のようなものがある。 

  1. 効果や実現性に対する不安(徒労に終わるのではないか) 
  2. 品質に対する不安(万が一問題が起こったときに自分達が責任をとらないといけないのではないか) 
  3. 社内外との調整に対する不安(サプライヤーとの関係性が悪化しないか。社内でも反対にあわないか) 
  4. 過去の取り組みの否定に繋がる不安(経緯をほじくり返されて叱責されないか) 

こういった状況に対して、「外」と「内」の両面から現場部門の不安を解消していくことがカギとなる。 

ここでいう「外」とは外部のサプライヤーのことを指す。サプライヤーから後押しとなるような情報や言質を得ていくことで、現場部門の不安払拭につなげていく。第1回では、価格・実現性に対する言質や、品質の裏付けとなる実績など(できればSLA/サービス品質保証契約案まで)を得ておくことが望ましいと述べた。 
更に踏み込むと、我々の経験では、これらの情報を無味乾燥なレポートとしてコスト削減を企画・推進する部門が現場部門に突きつけるだけでは事態は進展しない。現場部門の心情に寄り添いながらも、不安を解きほぐすプロセスが重要である。その具体的なアプローチはまさに百聞は一見に如かずなのである。 
例えば、工場などの現地視察や技術的な意見交換といった機会を設け、現場部門自身が生の情報にふれられるようにすることで情報の信頼感・手触り感が増し、不安が払拭されてくる。副次的にはこれらの活動を通じて、施策の「自分ごと感」が増し、推進に前向きな気持ちが生じてくる効果もある。 
なお、現場部門とサプライヤーの接点を設ける際には、サプライヤー側の受注意欲を高めておくこともおなじく重視したい。サプライヤーの協力を得るためには、今後の具体的な取引に繋がる可能性を見せる/十分な情報を事前に共有するといった下地作りを欠かしてはならない。 

もう一方の「内」とは社内組織や体制を指す。施策実施にはどうしてもリスクを伴うものなので、現場部門まかせでは意思決定が滞りがちとなる。そこで、経営に近い立場としてリスクテイクする組織や機能を置く、いわば「行司役」を立てることが必要である。 
ここでも留意すべきは、行司役をただ形式的に立ち上げるだけでは不十分である点だ。名ばかり会議や単なる役員の名義貸しでは結局現場丸投げと変わらず、かえって現場部門の士気を下げることにも繋がりかねない。いかに行司役の心に火をつける仕掛けをつくっていくかが重要である。 
ここは非常に難しい問題であるが、我々は「行司役自身に成功体験を積んでもらうこと」ことが一つの解だと考えている。一つ一つの成功体験は小さくとも、行司役の差配によって施策が前進したり結果に数字が現れたりする様子が、行司役のさらなる熱意やコミットを引き出し、取り組みが広がっていく。 
だからこそコスト削減を企画・推進する部門は、行司役が判断し易い場作りや情報提供に、労を厭わず取り組むべきといえる。「凡事徹底」だが、企画部門がそこまで踏み込むことで施策が成功に近づいていく。このような光景を我々は幾多目にしてきた。 

2. 内外からの不安の解きほぐしにより取り組みを推進した事例

続いて、実際に「内」と「外」の取り組みで現場不安を解消し、取り組みを推進した事例を紹介する。 

事例:高い品質/施工基準が求められる一点モノの主要設備に対して競争化を推進 
大手インフラ企業のA社では、数年前より調達改革を進めており、資機材調達に関する取引先の競争化による品質向上やコスト削減を志向していたものの、特に大型・高難度の案件や業務品質に直結する案件などは、馴染みの取引先を使っていきたい現場部門の意向が根強い状況にあった。 
一方で厳しい収支状況を背景に、経営からはこのような案件に対してもコスト低減余地を模索するよう要請があり、とある設備案件にて我々にもご相談を頂いた。 

現場部門の不安や意向の背景には、①取り扱う品目が特殊である点と、②案件ごとに仕様や条件が異なるなかでも厳しい品質/施工基準を満たす必要があるという点の2つの課題意識がある。本案件においてもニッチな設備を特殊な条件下での施工が必要だった。このため、現場部門としては、馴染みの会社以外にどこが対応できるかわからない、仮に見つかったとしても本当にやりきれるのかが不安という思いがあった。 

そこで我々はまず「外」から不安を解きほぐすため、候補となるサプライヤーを幅広に洗い出し、設備の取り扱い有無や施工品質の裏付けとなるような実績がないかを、個社に確認するアプローチを取った。 
最終的には候補となる十数社にコンタクトを取り、なかでも有望な数社には現場部門の協力のもと、実績確認、図面などの提供及び個別仕様・施工方法などに関する技術調査、個別面談などを行いながら候補先を絞り込んでいった。 
こうした過程で、当初の「特殊な設備・高い施工基準に対応できるのか」といった漠然とした不安が、「今回の施工方式うち◯◯の仕様について、X社は外注頼みだがY社Z社は自社技術員で確実に整備できそう」といった具体的な裏付けを得ることで解消されていった。 
非常に泥臭く労力も要するが、現場部門が想定するリスクを最小化し懸念を払拭するにはこうしたアプローチが有効であった。 

また「内」の面では、検討の初期段階から企画部門・現場部門双方の役員が出席する重要会議に付議することで意思決定の後押しを得た。 
上述の「外」の取り組みで得られた正確な情報を提供しながら、両役員を交えてコスト削減の効果や各社技術力・施工力について検討・検証を行い、取り組みの承認を得た。こうした“お墨付き”を得ることで合意形成の円滑化や取組の加速に繋がっていった。 
このようなプロセスを経て取引先を選定し、結果としては技術上・施工上の特段の問題なく、大幅なコスト削減を実現することができた。 

3. 現場主義の壁を突破するポイントは、実施部門の心を動かす働きかけが必須

今回紹介してきた通り、「現場主義の壁」を突破するポイントは2つある。 
「外」からの解きほぐしとしては、百聞は一見に如かずがポイントとなる。無味乾燥な情報だけでは人の心は動かないため、現地視察やサプライヤー面談などで主管部自身が生の情報にふれる機会を設定することが効果的である。「内」での解きほぐしでは行司役の心に火をつけることが重要であり、そのためには行司役自身の成功体験をセットすることが一つのカギと述べた。 
外部から得た情報を渡すだけ、役員名義の会議を設置するだけなど形ばかりでは不十分で、形式上の情報提供や体制づくりに留まらず、関係者の心理状態を理解した上で企画部門が適切なサポートや段取りをしていくことが必要である。 
現場部門との軋轢で取り組みが進んでいないと感じられる場合には、自社の取り組みが外形的なものに陥っていないか、今一度点検して頂きたい。 
社内だけでは推進しづらいこうした取り組みは、我々のような外部の力を使ってカベを突破していくという方法も一つだ。 

次回、第5回では、削減実行に向けての「腹落ちの壁」と突破のカギについて紹介する。 

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