D×P 事業拡大に向けたデータ分析支援

 


D×Pが収集した若者の声の分析を通じて、「若者の孤立」の実態を可視化しました

1. 背景

認定NPO法人D×P(ディーピー)(以下D×P)は、「若者の孤立」という社会課題に対するオンラインでの支援策の一つとして、コミュニケーションアプリ「LINE」上で「ユキサキチャット」という相談窓口を設置し、様々な問題を抱える10代の若者を支援しています。

D×Pは充実した若者支援を実施している一方、体制等の理由からその支援の中で蓄積した膨大なデータを有効活用するまでは至っておらず、被支援者の実態やデータ分析結果を活用した活動方針の作成等が、十分に行えていませんでした。

今回はそうした事情を受け、コンサルティングスキル及びデータ分析スキルを活用して、「若者の孤立」の実態を可視化する取り組みを行いました。

2. 進め方

本取り組みでは、被支援者の基礎情報(年齢、性別、所属(中学校・高校・大学等))だけではなく、D×Pに寄せられた相談内容等の非構造化データを組み合わせて分析を行いました。

非構造化データは被支援者の相談内容、相談に至る背景、困窮の度合いといった情報が自由記述形式で存在しており、ローデータのままでは分析が困難であるため構造化データに変換する必要がありました。 そのため、今回の支援においては、一定期間にD×Pに相談を行った約300名のデータをベースに、50,000文字を超える非構造化データ(=相談内容)を読み解き、プロジェクトメンバーにて設定した50超の問題にカテゴライズして構造化データへと変換しました。
 

dp構造化手順
構造化データ/被構造化データの分類と集計の手順

 


上記を実施した後、構造化データを基に相談者の属性傾向を分析した上で(一次分析)、非構造化データも組み合わせた分析を行うことで、相談者が抱える問題と深刻度の関係性を明らかにしました(二次分析)。

初期仮説の構築段階では、ソーシャルセクターに知見のあるシニアメンバーが参画し、D×Pとの議論を通じて問題の本質を捉えた仮説の設定を行いました。
仮説の検証段階では、非構造化データの取り扱いや、テキストマイニングのノウハウを持つ若手メンバーを中心に、被支援者の置かれている状況を数値情報として整理することで、「若者の孤立」の実態をファクトベースで可視化することを重視しました。

dpデータ分析工程
データ分析工程と主要なアウトプット

3. 分析結果(抜粋)

3-1.相談者の属性傾向(一次分析)
相談者の性別や家族構成等の情報を分析した結果、支援実施に至るまでの各プロセスにおける、属性の分布が数値化され、「孤立しやすい」と考えられる属性が明らかになりました。 
 

dp家族構成分布
相談者の属性傾向



3-2.相談者が抱える問題と深刻度の関係性(二次分析)
現金給付・食糧支援等緊急性の高い支援を受けた被支援者の傾向、すなわち深刻な状況に置かれていると判断された属性情報の特定を行うため、被支援者の抱えている問題を「金銭的問題」「身体的問題」「精神的問題」「社会的問題」の4つの象限に分類し、象限ごとの傾向性を分析しました。

 

dp4つの象限
被支援者が抱える問題の4つの象限



その結果、特に金銭的問題を抱える相談者ほど、緊急支援に至りやすい傾向にあることが判明しました。 また、単一の領域で問題を抱えているケースよりも、複数の領域に跨っているケースの方が、支援に至る割合が多いことも判明しました。

一方で、支援実施後の相談者の状態変化に着目すると、複数の領域で問題を抱える相談者は、単一の領域で問題を抱える相談者よりも問題が解決される割合が低くなる傾向にあり、緊急支援だけではなく、中長期に渡る支援が必要な相談者の存在も浮かび上がりました。


 

dp相談人数割合
各プロセスにおける相談者の人数及び割合

4. 取り組みの成果

本取り組みにおける分析結果については、D×Pが発行する年次活動報告書において引用されたほか、D×Pが実施した、被支援者となる若者が置かれている状況に関する厚生労働大臣への政策提言においても活用されました。


認定NPO法人D×P_年次報告書2021

5. STAFF VOICE

近年「相対的貧困」という言葉がニュース等で紹介され、日本国内においても格差や貧困の問題があることが少しずつ認知されてきました。他方、統計情報やメディアを通じて表象されるイメージがあるにもかかわらず、そうした問題に対して実感を持てない人も多くいると思われます。

今回の分析を通じて、こうした現象が起こっている一つの理由は、貧困の多様な側面にあるのでないかと考えました。つまり、一言に「貧困」と言っても、その背景にあるのは、頼れる大人がそもそもいなかったり、両親からの虐待によって経済的に孤立してしまっていることであったり、養育者に経済的な余裕が無かったりという多種多様な原因なのです。また、その結果の現れ方も複雑で、大学に通えず自己実現の機会を得られない、メンタルシックになる、パパ活を続けながらなんとか生活を維持する等、色々な相談が行われていました。

複雑で多様な事象を「若者の貧困」と表現しているものの、その真因構造や傾向性まではなかなか把握することができず、結果としてその全体像が分かりにくくなってしまっていたのではないでしょうか。こうした状況において、D×Pが蓄積してきた生の声を分析し、問題の全体像把握の一端を担ったことには、大きな意味があると考えています。

公共ビジネスユニット

シニアコンサルタント
安部 農

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