新事業・新商品で市場浸透を実現する上市戦略──立ち上げから選ばれるためのカテゴリー戦略とカテゴリーブランディング

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2026.05.22
  • 顧客体験創出による事業成長
  • CX(マーケティング/セールス/サービス)
  • 経営戦略/経営改革
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新たな商品やブランドを市場に投入しても、十分な認知を得られず売上が伸び悩む。こうした課題に直面する企業は少なくない。生活者の価値観や購買行動が多様化する中、従来の市場区分や一律の訴求軸では生活者の意思決定プロセスを捉えきれなくなっている。さらに、成熟市場では競合が乱立し、機能や価格による差別化や、それを伝えるための広告投資だけでは、生活者の選択肢に入ることすら難しくなっている。 

ここで陥りやすい誤解がある。商品が選ばれないのは商品力が足りないからだ、という見立てである。だが、選ばれる前に、そもそも試されていない商品は多い。問題は商品の内側にあるのではなく、その商品が置かれている「土俵」――生活者の頭の中にある選択の枠組み――の側にある。 

本稿では、新規ブランドが「選ばれる存在」となるための起点として、競争の場そのものを設計し直す「カテゴリー戦略」を論じる。そして、生活者の利用シーンから市場を捉えなおす「マーケットユニバース(市場全体を生活者視点で再定義した市場の全体像)」の再定義をふまえ、選択軸の設計、社会争点の活用、戦略PR(戦略的パブリックリレーションズ)による認知形成へと至る一連のアプローチを示す。想定読者は、新事業・新商品・新ブランドの上市を担う事業責任者、マーケティング責任者、ブランドマネジャーである。 

執筆者情報

  • 清水 慶尚

    清水 慶尚

    Principal
  • 澤田 憲一

    渡邊 丈祐

    Director

なぜ「良い商品」でも市場に埋もれるのか

新商品が浸透しないとき、現場はたいてい商品の伝え方に原因があると考える。他社より高機能である、低価格である、独自の機能を備えている――こうした差別化要因をいかに伝えるかという、商品起点(プロダクトアウト)の発想でコミュニケーションに注力する。しかし、その労力が報われにくいことには構造的な理由がある。

そもそも、新規事業や新商品を市場へ送り出すこと自体の難易度は高い。当社が直近5年間で新規事業開発に関与した経験者620名を対象に実施した「新規事業取り組み実態調査」(2023年9月実施)によれば、新規事業を立ち上げてローンチに至った案件であっても、その半数以上が黒字化を達成できていないという実態がある。アイデアの実現が難しいだけでなく、ローンチ後に事業として利益を生む段階に到達することの難しさが、改めて浮き彫りになっている。その要因をたどると、広告や営業の精度を高めても想定の顧客獲得に至らないとき、問題は施策の巧拙ではなく、「どの市場で、どのように戦っているか」という前提にあることが少なくない。 

その構造を、生活者の認識に即して捉えなおす必要がある。生活者の購買は、多くの場合、頭の中にある既存のカテゴリー(選択の枠組み)に沿って起きる。新しい商品が既存カテゴリーのどこにも収まらないとき、生活者はそれを「何と比較し、どの場面で、何を基準に選べばよいか」を判断しづらい。比較の軸を持てなければ、一度試されれば選ばれるはずの優れた商品でさえ、そもそも試されることなく埋もれてしまう。すなわち、訴求力の問題ではなく、生活者の側の認識構造に居場所がないことが問題なのである。 

新商品が直面する壁は、これだけではない。「どこにも収まらない」商品が評価されないのとは逆に、既存カテゴリーに“収まってしまう”ことにも、別の壁がある。すでに飽和し競合が乱立した市場では、差別化そのものが消耗戦となる。同じ選択軸の上で「より高品質」「より安価」を競う限り、競合も同様の改善を重ねるため、築いた優位は長続きしない。価格とスペックの比較対象が固定されることで、利益率の低下が構造的に組み込まれてしまう。この限界を、同じ軸の上での努力で突破することはできない。そうした状態から脱却するために必要なのが、「既存の軸の中でどう勝つか」という観点ではなく、「生活者にとっての選択軸そのものをどう変えるか」という観点である。

カテゴリー戦略という突破口──「そもそも市場はどこか」を問い直す

ここで有効になるのが、自社が戦うカテゴリー(=市場)を自ら創造するという発想である。既存市場にただ参入するのではなく、「そもそも市場はどこにあるのか」という問いから市場の見え方を捉えなおし、その中に新しい選択軸を提示して、これまで存在しなかったカテゴリーを生み出す。そして、その考え方を社会に浸透させることで、自社商品をそのカテゴリーにおける唯一無二の存在として認知させる。これがカテゴリーブランディングである。

要点は、既存市場の中に、あるいは既存市場とは別の場所に、新たに認知してもらう「カテゴリー」を作ることにある。その際、自社商材が際立つ――できれば唯一の選択肢となりうる――選択軸を設計し、それをカテゴリーとして切り出す。ここで見落としてはならないのは、この戦略が商品開発の中だけで完結しないという点である。顧客からの認識の再定義、利用シーンの設計、社会的な意味づけ、第三者からの推奨、流通接点の設計までを束ねて初めて、カテゴリーは社会に根づく。すなわちこれは、一部門のマーケティング施策ではなく、事業戦略に関わる取り組みなのである。そのため、経営層が「どの市場で、どのような価値を提供するか」を事業の方針として定め、商品開発・営業・マーケティングなどの関連部門が、その方針に沿って投資や施策の優先順位をそろえる必要がある。生活者に提示する新しい選択軸を、商品そのものから売場、情報発信まで一貫して反映させることが、カテゴリーの定着につながる。

例1:成熟カテゴリーを新しい選択軸で再定義する

ここで、実際に生活者の選択軸を捉え直し、新たなカテゴリーを形成したある飲料メーカーの例を取り上げる。この企業は、長年「疲労回復のために飲むもの」として形成されてきた成熟市場に対し、味や成分で正面から競うのではなく、選択軸そのものを書き換えた。体力のマイナスをゼロに戻す「回復」ではなく、ゼロをイチに、十に、百へと引き上げる「活力」という概念を提示し、「挑戦する人が気持ちを高めるために選ぶもの」という新しい利用シーンを立てたのである。

ここで重要なのは、成分や製法といった製品自体の良さに加え、「いつ・なぜ・どの場面で選ぶか」という生活者の認識を変えたことが、競争優位につながったという点である。「いつ・なぜ・どの場面で選ぶか」という認識の設計こそが、これまで存在しなかったカテゴリーを生み、その第一想起(あるカテゴリーで最初に思い浮かぶブランドであること)を獲得させた。生活者の選び方そのものが変わったために、従来の比較軸から離れた地点に、唯一のブランドとしての居場所が生まれたのである。

例2:社会的テーマを設計して市場を広げる

もう一つの方法は、社会的なテーマを設計の梃子とするものである。ある食品素材メーカーは、素材の機能的優位を直接訴えるのではなく、特定の健康課題に対する社会的な関心を「新しい争点」として先に立てた。専門家や研究機関による客観的な情報発信を通じてエビデンスを蓄積し、学術的な裏づけのある文脈の中で、その課題に応える選択肢として自社の素材を位置づけたのである。

この手法の要点は、商品を直接宣伝するのではなく、その商品が属するカテゴリーの必要性を社会に根づかせたという点にある。課題が広く認知されることで、その課題を解決する第一想起を持つブランドが選ばれる。広告のように「商品の良さ」を伝えるのではなく、「そのカテゴリーが社会に必要である」という認識を先に形成した点に、本質がある。

市場を生活者の側から捉えなおす──マーケットユニバースの再定義

では、市場を捉えなおすとは具体的に何をすることなのか。鍵になるのが、マーケットユニバースの再定義である。マーケットユニバースとは、生活者の目的や利用シーンを起点に、既存の商品分類を超えて捉えた市場の全体像を指す。

通常、市場は売り手の都合で定義されている。商品は物性や訴求内容で切り分けられ、店頭の棚も管理上の分類で組まれているように、供給者の論理が前提に置かれている。

しかし生活者は、こうした分類とは別の視点で商品を選んでいる。たとえば、昼食を選ぶとき、人は複数の棚を行き来し、軽食を組み合わせる。彼らが起点にしているのは棚の分類ではなく、「しっかり食べたい」「軽く済ませたい」「気分を変えたい」といったオケージョン(利用シーン)である。マーケットユニバースの再定義とは、業界の商慣習やチャネルのゾーニング(棚割り・配置)ではなく、この生活者のオケージョンを起点に市場全体の区分を引き直すことを指す。

そうして描いた「オケージョンマップ(利用シーンに基づく市場の地図)」の上に各ブランドのポジションを置いてみると、供給者の視点では見えなかった空白――ホワイトスペース(まだ十分に対応されていない、あるいは既存ブランドがポジションを取りきれていない市場領域)が浮かび上がる(図1)。先に挙げた飲料の構造は、まさにこの図式で説明できる。「疲労回復」のための市場が形成されるなか、実際には「気持ちを高める場面」での利用が存在していたにもかかわらず、商品は一律に同じカテゴリーとして売られていた。その空白に新しい選択軸を打ち出して、カテゴリーを切り出したのである。ホワイトスペースとは、生活者の知覚における「この商品は何のためのものか」という実態と、供給側の分類との間に生じたずれの中にこそ見出される。

図1 オケージョンマップによる市場の捉えなおしとホワイトスペース

勝てる土俵をつくる──選択軸の設計から戦略PRまで

見出した市場の空白を事業成長につなげる道筋は、3つのステップで整理できる。第一に、生活者の利用シーンから選択軸を設計する。第二に、戦略PRでカテゴリーの必要性を広げる。第三に、その関心を自社商品の選択につなげる。以下、それぞれの取り組みを示す。

ステップ1:生活者の利用シーンから選択軸を設計する

まず、自社の提供価値を明確にしたうえで、商材と生活者のオケージョン(利用シーン)との関係を統計的に可視化する。「どのブランドが、どの利用シーンに合うと認識されているか」をマップに示すことで、売り手が意図する位置づけと、生活者の認識との違いを捉える。

図1の通り、生活者の利用シーンと各ブランドの位置づけを照らし合わせ、既存ブランドが十分に応えられていない領域を探る。たとえば、飲料を「疲労回復」のためだけでなく、「挑戦する前に気持ちを高める」ために選ぶ生活者がいれば、その場面に応える選択軸が候補となる。
ただし、マップ上の空白に需要があるとは限らない。顧客へのインタビューなどで必要性や試用意向を確かめ、新ブランドの投入か、既存ブランドのリポジショニング(位置づけの再設定)かを判断する。

ステップ2:戦略PRでカテゴリーの必要性を広げる

選択軸が定まったら、その価値と関わりの深い社会争点――世の中で関心を集めるテーマや課題――を結びつけ、カテゴリーの必要性を伝える。
戦略PRでは、有識者や第三者機関の知見、客観的なデータを通じて、課題と解決の方向性を社会に提示する。生活者が自分に関係するものとして理解できるよう、具体的な利用シーンとともに発信することが重要である。さらに、同業他社や流通と連携して商材や売場をつくることで、カテゴリーそのものの存在感が高まり、生活者がカテゴリーを知り、実際に試す機会が広がる。

ステップ3:カテゴリーへの関心を自社商品の選択につなげる

戦略PRでカテゴリーへの関心が高まっても、自社商品が選ばれるとは限らない。そこで、そのカテゴリーを選ぶ理由と、自社商品の特徴を結びつけ、情報発信から売場、購入後の体験まで一貫して伝える。
この取り組みを成長の観点から整理したものが、図2の3つのレイヤーである。

  • 既存カテゴリー内での競争:自社の位置づけを明確にし、シェアを獲得する。
  • 別カテゴリーからの流入創出:生活者が従来の選択肢から移る理由をつくる。
  • 流入後の自社選択:その理由に応えるブランドとして、自社が最も強く想起される状態を目指す。
図2 カテゴリー戦略の3つのレイヤー

もっとも、戦略を描くだけでは事業成長にはつながらない。狙うべきカテゴリーと「移動の理由」が定まっても、対象となる生活者へ届く接点を持てなければ、戦略は成果に変わらない。そのため、流入後の導線設計も同様に欠かせない。新しいカテゴリーに初めて触れる生活者に対し、「なぜそのカテゴリーが自分に合うのか」を即座に理解させる情報設計がなければ、せっかくの流入を取りこぼすことは言うまでもない。すなわちカテゴリー戦略は、市場の見直しという発想から、接点・導線の実装にまで一貫して落とし込んで初めて、成長の実装論となる。

ここに、カテゴリー戦略の二段階の構造が現れる。第一に、市場をオケージョンに基づいて再定義してホワイトスペースを見出し、そこに自社の提供価値を活かした選択軸を立てること。第二に、その選択軸を社会争点と結びつけて戦略PRで広げ、カテゴリーの必要性が認知された段階で、その代名詞としての第一想起を自社が獲得すること。広告のように商品の良さを伝えるのではなく、商品が属するカテゴリーの必要性を社会に根づかせる――この順序こそが、莫大な広告投下に頼らずに市場を形成し、認知を獲得する道筋である。 ただし、新しい選択軸を提示しても、生活者がその必要性を理解し、自社商品を選ぶとは限らない。実行にあたっては、「カテゴリーへの需要があるか」と「その中で自社が選ばれるか」をそれぞれ検証し、施策を具体化する必要がある。

なお、カテゴリー戦略のフレームワークが有効なのは、消費財に限られない。建材、宿泊、外食、医薬品といった領域や、企業間取引(BtoB)の商材、サービス業においても、応用ができる。問うべきは常に同じである。自社の商品は、生活者の頭の中でどのカテゴリーに分類されているか。そのカテゴリーで第一想起を獲得できているか。生活者はその商品を「何の代わり」として認識しているか。これらに明確に答えられないのであれば、まず取り組むべきは商品力の改善ではなく、土俵そのものの設計である。 これらに明確に答えられないのであれば、商品力の検証と併せて、生活者の選択軸を見直す必要がある。ただし、新たなカテゴリーの浸透と第一想起の獲得は容易ではない。

まず、顧客へのインタビューや購買データから、満たされていない利用シーンを探る。競合が少なくても需要があるとは限らないため、新しい選択軸が理解され、試用意向につながるかを小規模に検証する。

次に、カテゴリーへの関心を自社商品の選択につなげるため、機能や利用体験、データによって選ばれる理由を示す。専門家による信頼形成や流通と連携した試用機会づくりを進め、情報発信から売場まで一貫して伝えることが重要である。

そのうえで、認知・ブランド想起・試用・継続購入の各段階を確認し、課題を改善する。この検証と改善を部門横断で続けられる体制と予算が、戦略を成果につなげるために必要となる。

アビームコンサルティングが提供する支援

アビームコンサルティングは、こうしたカテゴリーブランディングの構築から実行、戦略PRの設計、共創パートナーとの連携支援まで、カテゴリー戦略を通じた新市場創造を総合的に支援している。本稿で述べた通り、新事業や新ブランドの立ち上げにおいて、莫大な広告投下に頼らずに市場形成と認知獲得を実現したい場合には、カテゴリー戦略に基づく戦略PRの活用が有効である。

当社の支援の特徴は、単体のマーケティング施策の立案にとどまらず、「どのカテゴリーで戦うか」「どの選択軸で選ばれるか」という事業戦略レベルの根本の問いから伴走する点にある。市場の再定義、顧客体験の設計、データに基づく市場分析を一貫して提供し、新規事業の立ち上げからブランディング、顧客形成、市場創出・展開の成功まで伴走していく。

具体的なアプローチとして、生活者のニーズや利用シーン(オケージョン)を切り出すペルソナ構築においては、自社データのみならず外部の鮮度の高い大規模データを用い、生成AIによってクラスターベースのペルソナを構築する「AIペルソナ」の活用が有効である。これにより、需要度の解像度を高めたうえで施策の有用性を評価できる。また、新ブランドや新事業の問い合わせ獲得においては、調査を起点としたリードジェネレーション(見込み顧客の創出)とナーチャリング(関係育成)を一体で設計するアプローチも有効である。カテゴリー戦略の検討や、新事業・新商品の市場浸透に関する課題をお持ちの企業担当者の方はぜひお問い合わせいただきたい。

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