企業価値は、売上や利益といった財務指標だけでは測れない時代になりました。人的資本、顧客との関係性、地域との共創、AI活用など、これまで「非財務」とされてきた要素が、企業の競争力や持続的な成長を左右する重要な経営資産になっています。
アビームコンサルティング(以下、アビーム)のCorporate Finance & Transformation Strategy Unit(以下、CF&T SU)が推進するImpact Value Management(IVM)は、そうした非財務情報を「開示のため」ではなく、「企業価値向上のための経営管理」に活かす新しいアプローチです。
正解のないテーマだからこそ、クライアントと共に問いを立て、その企業らしい価値創造のストーリーを描く。そして経営の意思決定へとつなげていく。今回は、IVMをリードする今野さんに、この領域が目指す世界観や仕事の魅力、そしてこれから求められる人材像について聞きました。
2006年より財務経理/管理業務改革・企業コンプライアンス・リスクマネジメント領域に従事。現在はインパクト志向型経営管理のサービスリードとして、非財務情報の活用による企業価値向上を推進し、外部セミナーや早稲田大学の講師も務めるエキスパート。非財務情報の可視化や戦略構築、価値創造モデルの策定に留まらず、非財務・インパクトデータを活用した経営変革や資本効率経営の推進なども手掛け、各種セミナー登壇、雑誌・書籍への寄稿多数。
まず、今野さんがリードされているImpact Value Management(IVM)について教えてください。
CF&T SUでは、成長戦略、M&A・PMI、Transformationなどを通じて企業価値向上を支援しています。私がリードするImpact Value Management(IVM)は、その企業価値向上を「経営管理」の観点から支えるオファリングです。私は、IVMを「企業価値を高めるための経営管理をアップデートする仕事」だと考えています。これまで企業では、売上や利益、ROEなどの財務指標を中心に経営判断が行われてきました。もちろん、それらは今でも重要です。
一方で現在は、それだけでは企業の将来価値を十分に説明できなくなっています。経営者の皆さんが議論しているのは、「どのような価値を社会へ提供する企業なのか」「その価値が将来の競争力へどうつながるのか」という問いです。だからこそ、企業価値を考える"ものさし"そのものをアップデートする必要があります。
その一つのアプローチが、私たちが取り組んでいるImpact Value Management(IVM)です。「非財務」と聞くと、情報開示をイメージされる方も多いかもしれません。しかし、私たちが目指しているのは、開示そのものではありません。人的資本や顧客との関係性、地域との共創、AI活用など、これまで財務指標だけでは表現しきれなかった価値を可視化し、経営者が日々の意思決定に活用できる形へ落とし込んでいく。それがIVMです。
企業によって価値創造の源泉は異なります。そのため、一律の正解を当てはめるのではなく、その企業らしい価値創造のストーリーをクライアントと共に描き、経営管理へ組み込んでいくことが私たちの役割です。
実は、この領域にはまだ世界的な完成形がありません。企業価値と非財務情報の関係については世界中で研究や実践が進んでいますが、「企業が日々の経営で活用できる方法論」として確立されているものはまだ多くありません。だからこそ私たちは、クライアントと議論を重ねながら、その企業にとって最適な経営管理のあり方を一緒につくっています。
私は、その「答えのない問い」に挑み、新しい企業価値のつくり方を共創できることこそが、IVMという仕事の一番の魅力だと思っています。
今野
実際には、どのようなプロジェクトがあるのでしょうか。
プロジェクトごとにテーマは本当に様々ですが、共通しているのは、「企業価値をもっと高めたい」という経営者の想いから始まることです。
例えば、あるインフラ企業では、人口減少が進む中で、「地域にどのような価値を提供し続ける企業になるのか」が大きな経営テーマになっていました。従来であれば、輸送量や利用者数などの事業指標を中心に経営を考えてきました。しかし、それだけでは将来の成長を描くことが難しくなっています。そこで私たちは、地域との共創、観光振興、暮らしやすさの向上、移動機会の創出といった社会価値を整理し、それらが利用者の拡大やブランドへの共感、新たな事業機会へどのようにつながっていくのかをクライアントと一緒に議論しました。
重要なのは、「社会価値を測ること」ではありません。その価値を、来年度の投資や事業ポートフォリオの見直しなど、経営者が意思決定できるレベルまで落とし込むことです。また、人的資本をテーマにしたプロジェクトでも、「働きやすい会社を目指しましょう」という議論では終わりません。従業員の挑戦意欲や成長実感が、イノベーションや顧客価値を生み出し、それが企業価値へどうつながるのか。そうした価値創造のストーリーを、経営管理や経営指標へ落とし込んでいきます。企業ごとに価値創造の源泉は異なります。だからこそ、毎回ゼロから議論し、その会社だけの価値創造のストーリーを設計することになります。
今野
一般的なコンサルティングとは少し違う印象を受けます。
そうかもしれません。もちろん、私たちはこれまで蓄積してきた知見や方法論を持っています。一方で、「これが正解です」と答えを持っていくことはほとんどありません。むしろ、クライアントの皆さんと議論している時間の方が長いですね。経営企画、事業部門、IR、人事……。それぞれが見ている景色も、大切にしている価値観も異なります。
例えば、IRの方と議論すると、投資家や資本市場が企業のどこに価値を見出しているのかという視点が見えてきます。一方で、事業部門には現場だからこそ分かる強みや課題があり、人事には人材や組織への想いがあります。私たちの役割は、それぞれの専門性や想いを一つの価値創造のストーリーへつないでいくことです。私はよく、「IVMは翻訳の仕事でもある」と話しています。
社会価値を経営の言葉へ翻訳する。
現場の想いを経営戦略へ翻訳する。
経営者のビジョンを現場が行動できる形へ翻訳する。
この"翻訳"を積み重ねることで、企業全体が同じ方向を向き、企業価値向上につながる経営の仕組みをつくっていく。それがIVMの本質だと考えています。
今野
こうしたプロジェクトは、アビームだからこそ実現できる部分も大きいのでしょうか。また、IVMではどのような成長が得られるのでしょうか。
私は、とても大きいと思っています。IVMは、一人のコンサルタントだけで完結する仕事ではありません。
経営戦略だけでも足りない。
財務・会計だけでも足りない。
AIだけでも、人事だけでも、データ分析だけでも足りない。
企業価値というテーマを扱う以上、多様な専門性を掛け合わせる必要があります。アビームには、経営戦略、財務、会計、人事、組織、データサイエンス、AI、システム、業務改革、そして業界ごとの深い知見を持つプロフェッショナルがいます。プロジェクトでは、それぞれの専門家がOne Teamとなり、「クライアントにとって本当に必要なものは何か」という視点で議論を重ねます。
例えば、私たちが企業価値のストーリーを描いた後には、それを経営管理へどう組み込むのか、人事制度へどう反映するのか、AIやデータ分析でどのようにモニタリングするのか、といったテーマへ発展していきます。つまり、構想を描くだけでは終わりません。企業の仕組みとして定着し、経営者が意思決定に活用し続けられる状態まで伴走します。そのためには、アビーム全体の総合力が欠かせません。
また、IVMというオファリング自体も、まだ発展途上です。世界的にも完成された方法論があるわけではないからこそ、プロジェクトを通じて得られた知見が、次の方法論やサービスへ発展していきます。企業だけでなく、有識者や研究機関とも議論を重ねながら、「これからの企業価値とは何か」を考え続けています。
完成されたサービスを提供するだけではなく、自分たち自身が新しいオファリングを育てていけることも、この仕事ならではの魅力です。
そして、そのプロセスの中で得られるのは、一つの専門性に閉じない視点です。戦略、財務・会計、人事、DX、AI、データ分析など、それぞれの専門性を活かしながら、「企業価値をどう高めるか」という共通のテーマに向き合うことで、経営を企業価値の視点から捉える力が身についていきます。
一つの専門領域だけでは見えなかった景色が見えてくる。それがIVMで働く一番の面白さだと思っています。
今野
最後に、IVM領域で一緒に働きたいと考えている方へメッセージをお願いします。
IVMは、「正解を当てる仕事」ではありません。クライアントと一緒に、「これからの企業価値とは何か」「この会社が本当に目指すべき価値は何か」という問いに向き合い、その答えを形にしていく仕事です。
そのため、私たちが大切にしているのは、最初からIVMの知識や経験を持っていることではありません。
経営企画、財務・会計、IR、人事、DX、AI、データ分析など、これまで培ってきた専門性は必ず活かすことができます。大切なのは、その専門性にとどまるのではなく、「企業価値」というより大きなテーマに視野を広げ、新しい領域へ挑戦したいという意欲です。
また、この仕事では、経営者、事業部門、IR、人事など、立場の異なる様々な方と対話を重ねながら、一つの価値創造のストーリーを描いていきます。だからこそ、相手の考えに耳を傾けながら、多様な意見や専門性をつなぎ、新しい答えを一緒につくっていくことに面白さを感じられる方と働きたいと思っています。企業価値の考え方は、今まさに大きく変わろうとしています。だからこそ、私たち自身も学び続け、クライアントと共に新しい経営のあり方を考え続けなければなりません。
まだ完成された領域ではないからこそ、自分自身も成長しながら、新しい価値を生み出していくことができます。「企業価値」というテーマに本気で向き合い、クライアントと共に未来をつくる仕事に挑戦したい。そんな想いを持つ方と、一緒に新しいIVMを育てていけることを楽しみにしています。
今野