人口減少、災害の激甚化、社会インフラの老朽化など、日本のインフラを取り巻く環境は深刻さを増している。鉄道や電力、不動産、通信といった生活を支えるインフラ企業も、こうした複雑な課題に直面している。その解決に向けて挑むのが、インダストリアルクラウドプラットフォームビジネスユニット 社会インフラソリューションセクターだ。インフラ企業のデジタル化とデータ活用を推進し、持続可能な社会への変革を支えることを使命とする社会インフラソリューションセクター。その挑戦の最前線に立つ山本貴宣セクター長に、今後の展望とクライアントと共に変革を実現するセクターの姿勢について聞いた。
プリンシパル
インダストリアルクラウドプラットフォームビジネスユニット
社会インフラソリューションセクター長
山本 貴宣
新卒で大手SIerに入社し、複数のERP導入案件に従事。2000年にアビームコンサルティングへキャリア入社。大規模ERP導入プロジェクトのメンバーからプロジェクトマネージャーへとキャリアを重ね、2010年以降は鉄道、不動産、物流といった業界を中心に、経営・業務改革、DX推進、新規事業創出など多様なテーマのコンサルティングに従事。インダストリー特化型ソリューションの企画・展開も複数手がける。2024年にインダストリアルクラウドプラットフォームビジネスユニット 社会インフラソリューションセクター発足とともにセクター長に就任。
社会インフラソリューションセクター(以下、SISセクター)は、「生活者に欠かせないインフラ提供企業への価値提供を行うデジタルプラットフォームの提供」をビジョンに掲げています。具体的には、鉄道、不動産、電力、通信などの社会インフラ企業に対し、クラウドプラットフォームを基盤とした業務・ITコンサルティングを提供しています。現在、特に注力しているのは、次の三つのプラットフォームです。
一つ目は、グループ経営の円滑化を支援する「コアプラットフォーム」です。インフラ企業は、多くの場合、多数の子会社やグループ会社を抱えており、それらを統一的に管理する仕組みが求められます。この課題に対応するのが、コアプラットフォームです。
二つ目の「事業系プラットフォーム」は、鉄道や電力など、業界特有の設備管理・運用・投資プロセスの高度化をはじめとしたサステナブルな事業への変換を支援します。
そして三つ目の「街づくり系プラットフォーム」は、エリア開発や住民サービスの向上を目指す新しい取り組みです。
SISセクターの特徴は、「インダストリー×ソリューション」という統合したアプローチにあります。一般的にコンサルティングファームは、業界特化型かソリューション特化型のどちらかに分かれることが多い中、私たちは両方の視点を兼ね備えることで、真に必要とされるプラットフォームを提供しています。また、私たちが重視しているのが、「共創型プラットフォーム」という考え方です。これは、アビームコンサルティング(以下、アビーム)が一方的にソリューションを提供するのではなく、クライアントと共に企画・構築を行い、運用・展開に至るまで並走しながら、プラットフォームを共に育てていく取り組みです。企画から提案、構築、運用、そして展開まで、一連のプロセスを通じてクライアントと新たな価値を創出することを目指しています。
実際、日本の多くのインフラ企業では、長年にわたって蓄積されたITシステムが、デジタル化やデータ活用を進める上でむしろ足かせとなっているのが現状です。なかには1990年代に構築したシステムを部分改修しながら継続している企業も見受けられますが、安全性や安定性の観点から、一度に刷新することは現実的ではありません。そこでSISセクターは段階的な変革を支援し、最終的にデジタル活用を加速させることを目指しています。
社会インフラ企業を取り巻く環境は、ますます複雑かつ多面的になっています。その根本的な要因として挙げられるのが、やはり人口減少です。これは単にサービスの提供先が減少するという問題にとどまらず、インフラの維持やメンテナンスに必要な人材の確保が難しくなり、結果としての技術力の低下を招くといった、複合的な課題を引き起こしています。
さらに近年では、災害の甚大化により、インフラの維持難易度は格段に上昇しています。鉄道や電力といった業界では、従来から重視されてきた「安心・安全・安定」という価値観を守りながらも、人手不足や災害リスクへの対応が求められています。将来的には現在の約半数の人員によるサービス維持も必要となることも考えられ、この実現にはデジタル化の推進が不可欠です。
しかし、こうした変革を進める上で大きな障壁となっているのが、部門間の分断、いわゆるセクショナリズムです。例えば、鉄道会社では車両部、電気部、施設部といった各部門が分かれており、それぞれが異なるシステムを使用しているケースも少なくありません。本来であれば、車両のデータを施設管理に活用することで大きなメリットが得られるはずですが、部門間の連携不足により、そのような活用が十分に進んでいないのが現状です。
この課題は、日本特有の構造的な問題でもあります。各部門には長年培われた高度な専門性があり、それぞれに特化したシステムが存在します。こうした専門家たちが築き上げてきた組織構造は、品質や安全性の面では非常に優れていますが、環境変化への柔軟な対応という点では、しばしば制約となります。
一方海外に目を向けると、欧州の鉄道会社では、設備投資を一元的に管理する「プランナー」のような人材が配置され、プランナーによる「設備投資」という統一的な判断基準のもと組織横断で統合的かつ効率的に運営が実現される例もあります。今後、日本においてもこのような統合的なアプローチが、限られたリソースを最適に配分し、持続可能なインフラサービスの提供につながると考えられます。
こうした業界課題に対して、SISセクターが提供する価値の核となるのは、「伴走型の変革支援」です。背景には、インフラ業界の変革は一朝一夕では成し得ないという現実があります。規制対応、システム刷新、組織変革などを同時並行で進める必要がある上、変化の激しい環境では、クライアント自身が本質的な課題を明確に把握できていないことも少なくありません。そのため、SISセクターでは戦略策定にとどまらず、クライアントと共にゴールの設定から実装、運用改善に至るまで、変革の全プロセスに一貫して関与しています。まさに、クライアントとの「共創」によって、新たな道を切り拓いていくことが、私たちの大きな特徴です。
SISセクターでは、プラットフォームの企画も手がけており、クライアントや業界の「あるべき姿」を検討する機会も多くあります。アビームの戦略コンサルティング事業のビジネスユニットとの混成チームで取り組むプロジェクトも多数あり、メンバーが幅広い視点と専門性を身につけられる環境が整っています。
例えば、街づくりに関わるプロジェクトでは、鉄道、不動産、商業、金融などさまざまな業界の専門知識を持つコンサルタントが求められます。アビームでは、事業部間の垣根が低く、幅広い業界知見を有する強みを活かして、スピーディーにチームを組成・推進することが可能です。このような体制が実現できているのは、アビームの社員一人ひとりが、個人の利益ではなく、クライアントや社会の成長や変革の実現に本気で取り組んでいるからこそだと考えています。
メンバーのキャリア形成においては、まず既存のプラットフォームを活用したプロジェクトの参画を通じて、ビジネス全体やクライアントとの関係性を理解することからスタートします。その後、課題発見や企画提案へとステップアップし、月に一度のセクター内コミュニケーションを通じて、新たなプラットフォーム企画の検討にも関わっていきます。
SISセクターはまだ新しい組織ですが、それゆえに、メンバー一人ひとりが組織づくりに主体的に関与できる面白さがあります。また、クライアントからの潜在的なニーズも強く、今後5年間で売上規模・人員ともに2倍を目指しており、キャリアの可能性は大きく広がっています。
社会インフラという領域で働く意義は、単なるビジネス課題の解決にとどまりません。私たちが担っているのは、鉄道や電力など、生活に不可欠なインフラサービスを将来にわたって持続可能な形で提供し続けるという、社会的な使命です。先ほど例に挙げましたが、「2050年には現在の約半数の人員でサービスを維持する」という目標は、決して非現実的な話ではなく、むしろ差し迫った課題です。その実現には、デジタル技術を活用し、業務とシステムの在り方を根本から見直すとともに、新たな価値の創出が求められます。
この変革は、単なる業務の効率化にとどめるべきではなく、最終的には生活者にとってより良いサービスとして還元されるべきです。鉄道会社であれば、単に電車を運行するだけでなく、沿線の街づくりや住民サービスの向上まで視野に入れた、総合的な価値提供を目指します。電力会社においても、エネルギー供給にとどまらず、地域の持続可能な発展や自然環境の保護に取り組むことで、社会全体に貢献する存在へと進化しています。
このような社会全体を見据えた変革には、ITやデジタル技術への理解に加え、業界そのものへの関心が欠かせません。街を歩きながら、「この鉄道と不動産開発の関係性は?」「このエリアにはどのような人流があり、何が求められているのか?」といった問いを自然に抱ける方にとって、この仕事は非常にやりがいのあるものとなるでしょう。
現在のSISセクターには、鉄道会社出身者、SIer出身者、新卒入社の社員など、多様なバックグラウンドを持つメンバーが在籍しています。私自身もSIerから転身しましたが、ある鉄道会社の方から「鉄道は街に人を集めるための手段にすぎない」という言葉を聞き、強い衝撃を受けました。それをきっかけに、インフラ企業の本質的な役割や社会的意義を再認識し、複数の事業を抱えるコングロマリット企業だからこそ必要とされるプラットフォームの在り方を考えるようになりました。
SISセクターには、社会インフラに対する高い関心と、変革を実現したいという強い意志を持つ人材が集まっています。業界の「当たり前」を変え、未来の「当たり前」を創る――。この挑戦に共に取り組んでいただける仲間を、私たちは求めています。