新たな「業界標準」となるプラットフォームサービスを自ら開発・提供する挑戦を進めているのが、インダストリアルクラウドプラットフォームビジネスユニットのアセット&ファイナンスセクターだ。
この革新的な取り組みを牽引する井上覚セクター長に、プラットフォーム事業の狙いと可能性、そして業界の未来を見据えたビジョンについて話を聞いた。
プリンシパル
インダストリアルクラウドプラットフォームビジネスユニット
アセット&ファイナンスセクター長
井上 覚
銀行、リース、クレジットカードなどの金融基幹系システム再構築プロジェクトのプロジェクトマネージャーを経験後、アビームコンサルティングにキャリア入社。30年以上にわたり、数千人月規模の大規模システム構築やERPパッケージ導入などの経験を保有。また海外駐在し、現地でのIT導入コンサルティングやオフショア開発のリード経験もあり。
金融業界の基幹システムでは、数百億から数千億円規模の投資が行われることも珍しくありません。結果として、そのコストは金融機関のお客様、つまり一般消費者に転嫁されることが多く、必ずしも望ましい成果につながるとは限りません。こうした課題を解決するため、私たちは「業界標準」を築くことに挑戦しています。
リース業界では、M&Aのたびに業務が積み重なるという課題があります。極端な例ですが、3社が合併すると1社の中に人事部が三つ存在するような状況が生まれることもあります。そこで、3,000あった業務プロセスを1,000程度まで整理できれば、クライアントのみならず、その先の消費者にもメリットがもたらされます。これこそが、私たちが掲げる「業界標準」を創ることの具体的な意義です。
アセット&ファイナンスセクターでは、業界が抱える課題に対し、デジタルテクノロジーを活用して最適化されたITサービスを提供することで、業界全体を支援しています。コンサルティングファームが、自ら業界標準となるサービスを構築し、プラットフォームとして提供するという取り組みは、私の知る限り、これまでにない初めての試みです。将来的には、国内にとどまらず、インドやアジア諸国、中国のパートナーと連携しグローバルなオファリングビジネスを展開していきたいと考えています。
なぜ、これまでコンサルティングファームがプラットフォームサービスを手がけることが少なかったのか。その背景には、コンサル業界特有のビジネスモデルが存在します。
従来のコンサルティングは、クライアントの個別課題に応じてカスタマイズされたソリューションを提供することに価値がありました。つまり「御社だけの特別な提案」こそが付加価値の源泉であり、標準化サービスとは対極に位置付けられていました。また、プロジェクト完了と同時に収益も終了するため、継続投資を前提とするプラットフォーム事業とは、本質的に異なるモデルでした。
一方で、パッケージや自社資産としてのサービス提供することは、長年にわたりSIerやソフトウェア企業の得意分野とされてきました。これらの企業は大規模な開発リソースやインフラを活用し、コスト負担やリスク管理に強みを持つプレーヤーが中心となって担ってきた領域です。
そのなかで、アビームコンサルティング(以下、アビーム)がこの領域に挑戦できているのは、リース業界トップ15社の半数以上にシステムを導入してきた実績と深い業務知識を有しているからです。机上の理論ではなく、実務に即した「業界標準」を定義できる強みがあると自負しています。
また、金融系の基幹システムに顕著ですが、「20年間、経理を務めてきた経理部長だけが知っている業務ノウハウ」のように、システムの使用に関して社内の一部の人しか知らない暗黙知が多く存在します。私たちが開発しているプラットフォームでは、こうした属人的な業務を排し、誰もが効率的に業務を進められる仕組みを整備しています。これは結果的に、リース業界が直面している生産性向上への課題や業務効率化といったニーズに直結します。
現在、リース業界向けのプラットフォーム開発は完了し、最終的な総合テストの準備段階に入っています。クライアントからの期待も非常に高く、すでに運用を前提とした組織変更や体制づくりが進んでいる企業もあります。私たちが作るプラットフォームは単なる効率化ツールにとどまらず、「データを蓄積する器」としての役割も担っています。業務にかかる時間や手戻りの発生箇所をデータで可視化し、改革の提案へとつなげる。このように「データドリブンなDXの実現」を目指しています。
また、グローバル展開についても準備が進んでいます。すでにインドには100名規模のチームを設置。日本から駐在社員を派遣して、現地チームとの連携を強化し海外企業向けのビジネスに対応できる体制を築いています。海外は日本と比較すると標準化への抵抗が少なく、短期間で効果が期待できれば、導入を決断する傾向があります。こうした文化的背景も、グローバル展開の大きな追い風となっています。
アセット&ファイナンスセクターは、まさに過渡期を迎えています。この変革期に関わる経験は、キャリアにとって大きな財産となるでしょう。
私たちの強みは、業界の課題分析からビジネスモデルやサービスの検討、開発、運用までを一貫して担い、セクター内で改善サイクルが完結できる点にあります。サービス企画、コンサルティング、サービス開発、IT導入など、幅広い領域に挑戦できる環境があり、業務とITの両面でスキルを磨くことが可能です。
現在のメンバーは多様なバックグラウンドを持っており、例えばSIer出身者であれば、開発スキルを活かしながら企画や上流工程にも携わっています。単一クライアントにとどまらず、「業界の標準を創る」という経験が積めることは、キャリアの大きな魅力だと考えています。
私たちが求める人物像は、過去の成功体験にとらわれず新しいことへの挑戦を楽しめる方です。新しいサービス、新しいプラットフォーム、新しいツールを使いながら形づくっていくため、すべてがチャレンジといっても過言ではありません。例えるなら、野球のレフトやライトではなく「センターを守れるような人」。自分の守備範囲だけではなく、「落ちている球は全部拾う」という姿勢こそが活躍につながります。
アセット&ファイナンスセクターのミッションは「業界の未来をつくる」ことです。一社ごとの課題解決にとどまらず、業界全体の未来をどう描くか。その標準を創り、責任を持って推進するのが私たちの役割です。
この挑戦に共感し、未来を共に描き、創り上げていける仲間との出会いを楽しみにしています。