中国における日系企業の現在地と成長への展望
― VUCAの時代に求められる自己変革

2023年1月17日

1.今なお、魅力的であり続ける中国市場と日系企業の現在地

コロナ禍の影響による景気の停滞を受けて、撤退やペースダウンの動きもあるものの、日系の大企業は中国ビジネスを継続している。高まる政治的な緊張、サプライチェーンのチャイナリスクへの対応、調達コストや人件費の上昇などの消極的な要因にもかかわらず、圧倒的な産業集積度の高さに支えられた、巨大な生産拠点かつ販売市場である中国の魅力は衰えていない。欧米企業にとっても同様、日系企業にとっても、中国市場は、それを抜きにしてビジネスは語れない重要な市場であり続ける。

また、変化のスピードが速いことも、中国でのビジネスの特徴としてよく挙げられる。これは政策として経済発展を国がリードし、技術開発と社会実装を同時に推し進め、元来の人口の多さをポテンシャルに生産や消費を急激に押し上げてきた面もある。そして、その発展スピードに合わせるべく、企業でも経営の決断から現場の対応まで、刻々と変わるビジネス環境への適応を第一優先にしている。コロナ禍による景気の停滞と政府の感染対策があいまって、変化の方向性やスピードを推し量るのは今まで以上に困難になり、企業には対応力がかつてないほど求められている。

目下、魅力も保持しつつ、さらなる対応スピードが求められる中国で、日系企業はビジネス戦略の転換というよりも、複数の選択肢の中で「プランB(バックアップ用の計画)」を展開している。それは、中国でビジネスを長年展開してきたノウハウによるところも大きい。周知のとおり、中国には特有の政策、法律、商習慣、文化などがあり、ときにビジネスの方向転換を迫られるほどの影響を及ぼし、日本では想定できない「壁」となることもある。

そのため、日系企業にとって、中国特有の影響事項への理解と対応はビジネス活動の一面を占めるほど比重が大きい。今、日本企業が大企業を中心にビジネスを継続できているのは、市場としての魅力に加え、こうした諸要素を念頭において対応力を磨いてきた結果ともいえるだろう。
とはいえ、上海のロックダウン以降、中国ローカル企業の意思決定が遅れている傾向もあり、今後日系企業にも直接的・間接的に影響する可能性を踏まえると、余談を許さない状況である。

2.中国の変化に合わせて、事業展開・社内改革を進める日系企業

どの業界をみても圧倒的な市場規模と変化スピードをもつ中国で事業を展開するにあたり、ニーズの精緻な把握と事業立ち上げのスピードアップを目的に、中国のスタートアップ企業との連携を図る企業も多い。例えば、ある自動車部品メーカーは、新規事業を立ち上げ、自社の知見やリソースで完結させるのではなく、最先端技術に積極的に取り組んでいる、自社にはないケイパビリティを即座に発揮できる中国のスタートアップをパートナーに選んだ。アビームコンサルティング(ABeam Consulting China)にもこうした相談が寄せられ、新規事業戦略に合う深圳のスタートアップ企業をマッチングさせて、開発試作のPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)も担った実績、中国のスタートアップ企業を紹介して製薬会社の合弁会社設立を支援した実績もある。

他にも不動産業界では、中国の大都市でスマートシティ戦略を推進するデベロッパーが、商業施設のアプリから得られる利用者のデータを活用し、単なるCRMからCX(Customer Experience)へとマーケティングを高度化させている。これ自体は日本国内でも決して珍しくはない取り組みではあるが、中国では日本で想像される以上の速度で進められているのが実情だ。

また、こうしたチャンスを確実にビジネスの「果実」とするために、企業内部の改革も進んでいる。EA(Enterprise Architecture:基盤構築)の領域では、日本と同様にDXの足掛かりとして、クラウド化、基幹システムアップグレードへの投資が盛んである。BPR(Business Process Re-engineering)との組み合わせで経営基盤の強化に取り組み、DXを推進の原動力にしている企業もある。特徴的なのは、こうした取り組みが、日本本社ではなく、中国現地法人や中国拠点を主導に進められている点だ。やはり変化対応のスピードを確保するためには、投資判断も実装も現地の即断即決が成否を分けることを、現地トップが身をもって知っているからだ。

内部改革に関するもう一つのトレンドは、中国で現地採用する人材への見方の変化だ。「中国は世界の工場だ」と標榜して参入していた日系企業が、製造現場の自動化、効率化に伴い、人材を「代替が効く労働力」ではなく「現場改善や人育育成を担う人財」へと捉え方を変えた。こうした人材は現地企業との取り合いになるため労働市場で得難く、採用コストが高くなっていることから、人材の定着率を上げることが企業の課題となっている。人材の最適配置や育成も含めた人材管理にデジタルツールを導入している企業が中国で増加している背景には、こうした人材戦略の転換がある。

3.日系企業が中国で取り組むべきこと:三つの提言

それでは、今、日系企業が中国で取り組むべきこととは何だろうか。まずは、言うまでもないことだが、中国市場での自社のポジション、強み弱み、競争優位性をふたたび正確に見極めることと、次に、本稿で何度か触れてきた中国特有の変化スピードに取り残されないことだ。

そのうえで、中国で日系企業がさらにもう一段階成長していくためには、現地法人や現地拠点のさらなる挑戦が求められていると、私たちは考える。具体的には次の三つを提言する。

提言1 中国拠点独自の戦略構築力とスピード対応力の強化

提言2 中国での自律的な自社変革への挑戦

提言3 経営レジリエンスを高めるためのガバナンス強化

提言1:中国拠点独自の戦略構築力とスピード対応力の強化

否応なく押し寄せる変化の波を、企業はさまざまな方法で乗り越えようとしている。例えば、変化対応の方策を中国で興隆する最新技術に求めようとすると、現地新興ベンダーがソリューションを次々と開発する潮流に乗り、即時適用してデジタル化を進めることもできる。技術進展の速さは今や日本を凌ぐとも言われる中国であれば、デジタルソリューションの幅も種類も、新規性も担保されるだろう。しかしながら、経営と現場の双方に効果をもたらすためには、根本的な戦略の確かさに依拠しない限り、ソリューション導入だけで解決できる領域は限られ、短期的な成果を得るにとどまってしまう。

その戦略の確かさは、中国での変化は日本とは様相が大きく異なるため、本社が主導する経営戦略や事業戦略に全面的に立脚するのではなく、中国の社会環境・ビジネス環境と自社のポジショニングに依拠したものである必要がある。そうなると、中国法人や中国拠点が独自の戦略を構築し実行するには、考慮すべき要素が多岐にわたり、分析の精緻さも保証するには、企業によっては非常に挑戦的な取り組みとなる。仮に、自社単独で戦略構築や実装を達成するノウハウが必ずしも十分でないとき、また、本社の戦略と現地での「肌感覚」との大小のギャップを埋めるのに困難があるときには、コンサルティングファームの支援も一つの解決手段である。
実際に、アビームコンサルティングが中国で支援している日系企業のプロジェクトは、かつては日本本社が主導するものが大半だったが、今や現地法人・現地拠点が主体となるプロジェクトが半数を占めるほどになった。

提言2:中国での自律的な自社変革への挑戦

事業活動と並行して、今や経営アジェンダに挙げられるESGやカーボンニュートラルも、政策のもと法整備が進められ、企業も避けて通れないものになっている。この領域も、企業価値向上や持続可能な経営のためには、中国が自ら方針を決定し、実行を推し進めるべき取り組みだ。
中国では、ESG領域の法制度化が進展し、国民意識も高まりを見せているため、企業は適切な対応によりESGリスクを回避、低減する必要に迫られている(中国市場向けESG対応支援サービス)。これは日本本社の方針に沿うのみでは実現できないことであり、現地の要請に応じた現状把握、方針決定、アクションプラン策定を中国拠点が自ら実行していかなければならない。ここでも、提言1と同様に、中国特有の外部環境を踏まえた戦略構築が前提になる。加えて、ESGでは非財務情報をどのように指標化し、企業価値向上にどのように結びつけていくかを明確にステークホルダーに説明していくことが要諦であり、データ収集・分析にとどまらず、指標と企業価値の関連付けと外部へ発信するストーリーづくりには高度なノウハウが求められる。

一方、カーボンニュートラルへの取り組みも、中国政府は「3060目標」(2030年までに二酸化炭素排出量をピークアウトし、2060年までに実質排出量をゼロにする)を掲げており、さまざまな分野での技術革新と投資促進が期待されている。実際に、データ収集、IoT、AIなど技術への投資の波をうけ、世界的に環境テックブームが起こっている。
中国に拠点をおく日系企業は概ねエネルギー需要家であるが、とりわけ製造業はバリューチェーンも長く、関連企業も多いことから、例えば製造プロセスにおけるエネルギー利用の最適化や二酸化炭素排出量の提言あるいは排出枠の取引に限っても、かなり大がかりにカーボンニュートラルに取り組むことになる。排出量を把握するためのデータ収集ひとつとっても、製造の川上から川下までの連携、自社だけではなく関連企業との連携など、あらゆる「壁」を超えた体制構築とプロセス整備が求められる。

提言3:経営レジリエンスを高めるためのガバナンス強化

コロナ禍は、企業のレジリエンス(弾力性・回復力)を試される機会でもあった。中国でビジネス環境の成長加速度には対応できていた企業も、全面的かつ長期の経済停滞で業績悪化に直面したことはなかったのではないだろうか。プロフィットセンターのみならずコストセンターも、経営層から現場まで、会社全体で動きが止まったと言ってよい状況だったはずだ。
このコロナ禍に代表されるように予測不能な経営環境、いわゆるVUCAの時代にあって、レジリエンス経営という言葉もあらためて脚光を浴びたところである。企業のレジリエンスを高めるためには、一つには予防の観点から、ガバナンスを強化して危機に備えることが有効だ。
コーポレートガバナンスは、「会社が透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」と定義される(出典:株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」)。
意思決定を行うには、インプットとして適切な判断材料をタイムリーに入手することが肝要で、仕組みづくりにあたっては、昨今データの活用も盛んだ。

ガバナンス強化は施策の性質上、グローバル規模でグループ一律で進められることも多く、日系企業の場合は日本がリードしているケースが主流である。ただ、その実装や運用の段階では、地域や国の特性、現地でのマネジメントに応じた細かい調整が生じる。例えば、ERPで基盤の共通化と業務の標準化を進めると、日本企業のリードが中国では遅い、長いと受け止められることが多い。アビームコンサルティングがクライアントに聞くところでは、半分程度の時間に短縮できればベスト、というスピード感だという。「日本品質」と「中国スピード」を両立させるべく、方法論のアレンジ力が試される。

4.アビームコンサルティングの支援

中国現地法人や中国拠点には、本社の戦略をオフショア拠点として実現するだけではなく、中国という特徴あるビジネス環境に即して戦略を構築し、実現していく役割への期待が、今後より大きく寄せられることになる。それをかなえるためには、中国の法人や拠点が、主体的に自己変革していくことが不可欠だ。

私たちアビームコンサルティング(ABeam Consulting China)は、日系企業の変革パートナーとして、コンサルティングスキルとテクノロジーケイパビリティを、20年にわたって培い、発揮してきた。
中国進出のフェーズでは、マーケティングレポート、各種調査、拠点設立のサポート、戦略コンサルティングを行っている。また、事業開発では、ビジネストレンドの調査、企業ニーズに合わせたスタートアップのマッチング、後続するプロジェクトのサポートなどでクライアントに伴走している。DX領域でも、基幹システム導入のコンサルティングから実装は大規模なプロジェクトも多数手がけており、蓄積されたテクニカルナレッジから新しいデジタルソリューションを開発し、支援領域を拡大し続けている。
何より、プロジェクト単位での実務的な支援だけではなく、日系企業の中国トップと関係を構築し、日本本社の経営戦略、中国のビジネス環境、現地での自社課題を理解共有していることが、私たちの強みである。私たち自身が日本に拠点を置き、中国でコンサルティングビジネスを展開している点で、クライアントと同じ立場にあるからこそ、画一的なメソッドや先進テクノロジーの表層的な応用による解決策の提案ではなく、あるべき中国ビジネスの姿に立脚した自己変革を構想し、実現への道のりをともに描けるのだ。

企業運営の根本的な悩み・課題を解決するうえで、日系企業の強みや日本流のアプローチを生かした企業への寄り添い方が、中国では非常に有効であるという手応えを、私たちは実感している。日系企業の特性・強みを、中国のリソースと掛け合わせ、ビジネスの発展にどう最適化させるかには、コンサルティングファームの知見を活用する価値がある。加えて、中国クライアントの支援実績から得られた知見やノウハウを適切にナレッジ化させ、日系企業の中国ビジネス支援に応用できるケイパビリティも有している。

日本を中心にグローバルで培ってきたコンサルティングスキル、業界・ソリューションの知見を掛け合わせ、日系企業の中国ビジネス発展に貢献していきたい。

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