プロボノプロジェクト(JANIC)

本業を活かした「プロボノ」活動 事例


国際協力NGOセンター(JANIC)

JANICロゴ JANICイメージ

1.はじめに

会社員などの社会人が本業で培った専門知識やスキルを活かし、社会貢献活動に参加することを「プロボノ(pro bono publico。ラテン語で「公共善のために」という意味)」といいます。アビームコンサルティングでは従来からCSR活動の一環として、社員が本業以外の時間を利用したプロボノ活動に取り組んでいましたが、ソーシャル領域において更なるインパクトを出すため、本業/コンサルティングを通じたプロボノ活動の取り組みを始めました。その一つが、ネットワークNGOである国際協力NGOセンター(JANIC)への支援プロジェクトです。

※本プロジェクトの調査部分に関する詳細な内容はホワイトペーパーとして発行しておりますので、合わせてご覧ください。

 

2.プロジェクト目的・背景・アプローチ

クライアントであるJANICは、1987年に設立された日本有数のネットワークNGOです。「ネットワーク NGO」とは、会員団体(日本のNGO)の能力向上施策や政府への政策提言、市民社会への啓蒙運動等を行い、NGOを育成するサポートセンター的機能を果たす団体です。

JANICが支えてきた日本の国際協力分野では、今日に至るまでNPO/NGOが取り組んできた社会課題解決の現状を十分に可視化することができておらず、「成果/価値が正しく周知されていない」という課題を抱えていました。また、近年では事業活動を通じて持続可能な世界を目指す「サステナビリティ活動/CSV経営」に取り組む企業や、「Social Good Natives」と呼ばれる社会課題解決に意欲的な若者が増えている等、日本の社会課題解決を取り巻く環境も大きな転換期を迎えています。

このようにNPO/NGOだけでなく企業や個人が社会課題に目を向け、その解決に主体的に取り組むという潮流が生まれている現状を受けて、NGOの役割の再定義が求められています。こうした背景を受けて、本プロジェクトは以下3点を目的とし実施しました。

 

  1. これまでの日本の国際協力分野の取り組みとそのインパクトの可視化
  2. 日本の国際協力分野の将来像とそこにおけるNGO/NPOの役割の策定
  3. 将来像仮説実現に向けたロードマップの策定

 

この目的達成に向けて、以下3つのアプローチで取り組みました。

① 俯瞰分析:NGO業界の財務データを1から収集し、市場の状況を可視化する
→国際協力分野の将来像やJANICが取るべき戦略に向けた仮説の立案

② 深堀分析:NGO業界の主要な知見者(26名)にインタビューを行い、生の声をきく
→仮説の検証・ブラッシュアップ

③ 将来像・事業戦略策定:現場でNGOを支える様々な役職の方々(経営層から現場まで)との
討議・ワークショップを通じて、
実現性のある戦略に落とし込む

 

3.国際協力セクターの現状

初めにNGO業界の市場状況を俯瞰して見るべく、業界の市場データの収集を試みました。しかし、日本のNGO業界は財務データの収集及び可視化がほとんど行われておらず、まとまった市場データが存在していませんでした。そこで、主要なNGO約120団体がWeb上で公開している10年分の会計報告資料から財務情報を収集し、1,200行以上に上る財務データベースの作成を行いました。このデータベースに加え、官公庁の公開情報やシンクタンクの公開データ等を用いて、国際協力セクター全体の俯瞰分析を行いました。

NGOの設立状況を見てみると、新規団体の設立数は1990年代の172件というピーク値に対し、2000年代では69件、2010年代では4件にまで大幅に減少しています。国際協力分野以外の団体も含むNPO法人全体の団体数も、直近10年ではどの年も9,000件強とほぼ横ばいとなっていました。新規NGO団体の設立数は大きく減少傾向にあるため、団体数も既存の一定数からほぼ拡大していない状況にあると言えます。

しかし、収集した財務データからNGO業界全体の市場規模を見てみると、収益40億円以上の大規模団体が収益額を年々拡大しているため、市場全体は少しずつ拡大傾向にあると言えます。
 

スライド_NGO収益総額

一方で、収益4億円未満の中小規模団体は成長にばらつきがあり、特に収益1億円前後の小規模団体には、成長率の低い/伸び悩んでいる団体が一定数存在していました。
 

続いて、NGOを取り巻く国際協力業界の状況を把握するため、各ステークホルダーからNGOへの協力資金額を調査しました。

外務省(ODA)からNGOへの協力資金額は近年成長が伸び悩んでおり、他国と比較しても成長率が低い状況です。
 

一方、個人による寄付市場を見てみると、寄付者数は増加しており(2009年:3,766万人→2016年:4,571万人)、さらに1人あたりの寄付金額も順調に増加していました(2009年:14,485円→2016年:16,968円)。また近年では、10年間入出金を行っていない口座の預金がNPOの活動への助成金の原資となる「休眠預金」制度や「遺贈寄付」制度、「贖罪寄付」制度など、様々な寄付形態も登場してきているため、今後個人寄付は益々増加する見込みがあります。
 

NGOに助成金を出す財団の設立数もバブルの崩壊以降急落しており、近年僅かに増加してはいるものの、未だ大幅な回復には至っていません。また、法人からの寄付は、大規模な災害の発生と共に緩やかに増加してきましたが、寄付をする法人数の成長率は停滞傾向にあります。

しかし、民間企業が中心となり行っている社会的インパクト投資(財務的な利潤と並行して社会的・環境的インパクトを生み出す意図をもって行われる投資)の金額は急激に増加(2016年:337億円→2019年:4,480億円)しており、SDGsと紐づけた投資を行う企業も一定数存在しています。

また、ESG投資(環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資)も2014年以降世界・日本共に拡大傾向にあり、ESG評価が高い企業ほど企業価値が高い傾向にあるとの研究結果も出ているため、今後益々拡大が見込めそうです。
 

さらに、近年ではNGOのように国際協力分野の社会課題解決に取り組むプレーヤーとして、事業の持続可能性を実現しながら、社会的な利益も追求するソーシャルビジネスが展開されています。ソーシャルビジネス事業全体の売上と組織規模は順調に拡大しており、今後ともさらに拡大していく見込みです。

日本におけるソーシャルビジネスの代表例としては、アジアの途上国で雑貨・アパレル製品の生産し先進国で販売を行うマザーハウスや、途上国の農家収入安定化ビジネスや貧困層の雇用拡大ビジネス等多岐にわたる活動を行うボーダレス・ジャパンなどが挙げられます。ボーダレス・ジャパンの起業家支援事業は、事業で生まれた余剰資金によって新たな事業を立ち上げるエコシステムにより急速に成長しています。

ソーシャルビジネスと同様に、現地のスタートアップ企業も社会課題解決を行う新たなアクターとして着目されています

近年、東南アジアやアフリカのスタートアップに対する資金流入が大幅に増加しています。NGOが低所得者層を支援対象としている一方で、現地スタートアップ企業は高~中所得者層をターゲットとしているため現在のターゲット層は異なりますが、現地スタートアップ企業は徐々に低所得者層へターゲット層の拡大を図っており、さらに世界のボリュームゾーンが低所得者層から中所得者層へ移行しつつあるため、将来的にはNGOのターゲットと重複すると考えられます。
 

4.国際協力セクターの将来像

上記の現状を踏まえた上で、国際協力業界の知見者26名にインタビューを行いました。設立間もない小規模団体で理事として活躍する20代の方から、NGOという言葉が普及する前から50年近くに渡り業界の第一線で活躍してきた方まで広く伺った声を基に、国際協力分野ならびにNGOセクターが目指すべき将来像を策定しました。

こうした業界分析とインタビュー内容を総合した結果、国際協力セクターが目指すべき姿とは「複数のメガNGOと中小規模の団体が多様性を持ち共存しつつも、各々が規模を拡大し安定化していていくようなエコシステム」であり、そのためにはNGOセクターは全般的に財務規模の拡大を志向すべきという結論に至りました。

これまで、NGO業界の一部では「Small is beautiful」と呼ばれる価値観があり、“財務規模の成長よりも質の高い支援や草の根支援を重視する”という傾向がありました。しかし今回の調査では、途上国の現地で着実な事業インパクトを生むためには、「Small is beautiful」の価値観を大切にしつつも、
ある程度の財務の拡大を目指し事業インパクトに拘ることも必要だという、価値観へと転換しつつあることを示唆する結果となりました。
 

また、日本のNGOは古くから「社会課題を生み出す社会構造自体を変えたい」という “運動性”を原点に活動してきましたが、経済成長や課題解決手法の高度化が顕著な現代では、「NGOから現地の受益者への支援事業」という“事業性”が強くなっています。この変化を業界知見者の多くが課題と捉えており、「NGOは事業性としての活動に注力しすぎていて、運動体として様々な人と関わり社会を変革していく本来の役割を果たせていない」との声が多くありました。

そのため、これからは事業性と運動性を両立するため、NGOセクターにとどまらず、民間企業や市民など多様なアクターを巻き込んだ社会課題解決の仕組み(コレクティブ・インパクト)が求められます。私たちビジネスセクターからも社会課題にアプローチすることで、他セクターと相互に効果的な力を発揮することに繋がると言えます。
 

5.JANICの事業戦略

上記の将来像の実現に向け、JANICが取り組むべきこと/事業戦略の策定を行いました。

具体的には、支援すべきターゲットの再設定を行いました。これまでJANICは、日本発祥のNGOと海外NGOの日本支部を支援ターゲットとしてきましたが、今後はソーシャルベンチャーや一般企業・影響力のある個人までターゲットを広げることで、多様なアクターを巻き込む社会課題解決の仕組み(コレクティブ・インパクト)に繋げるべきであると、ターゲットを再定義しました。新たにターゲットとなるーシャルベンチャーや一般企業に対しては、社会課題解決手法の提案やソーシャル領域における最新トレンドの知見提供を行い、関係性構築を目指します。
また、従来のターゲットであるNGOに対しても、
NGOの規模やタイプに応じて支援ニーズが異なることに着目し、セグメントごとに最適なサービスを提供する形へとターゲットを細分化していくこととしました。

そして、国際協力セクター全体が目指すべき将来像と、上記で定めたターゲットから、JANICの目指すべき事業モデルは、社会課題解決主体の支援サービス、ネットワーク、人材を結び付ける「プラットフォームモデル」だと結論づけました。

しかし、一足飛びにプラットフォーム事業を行うのではなく、まずは課題を持つNGO団体に見合った個人や団体の紹介を行う「コーディネーターモデル」事業、その後はNGOのスキルアップを目的とした研修を実施・紹介する「研修モデル」事業、ソーシャルセクターにおける最新トレンドを把握し、調査・分析する「シンクタンクモデル」事業と少しずつステップアップし、JANICがネットワークや実行力の礎を強化することが必要です。

コーディネーター事業では既存のネットワークを更に拡大しつつ、業界内におけるJANICの魅力を広めることで、新規会員獲得にも繋がります。研修事業ではJANICのケイパビリティを底上げすると同時に研修受講団体のスキルアップも着実に行い、研修参加費を受取ることでJANICが継続的に価値を発揮するための収益性も担保されます。
 

そして、こうした事業を実現するためのロードマップとして、短期・長期における具体的な施策案と、各々求められるケイパビリティの変化をまとめました。

これらのステップを踏むことで、様々なアクターが交流し助け合うプラットフォーム事業の展開へと繋がり、最終的にはJANICの関与有無によらず各アクター同士の積極的・自発的な交流が促される状態が実現すると考えています。

6.おわりに

今回のJANICへの支援PJでは、NGOセクターにおいてほぼ調査されていない市場の状況を可視化するところから始まりました。そして、JANICが今後さらにネットワークNGOとしての価値を発揮し、国際協力分野の社会課題解決を促進させるための事業戦略を立案する上で非常に重要な情報の調査・整理を行いました。

アビームコンサルティングは、日本発・アジア発の経営コンサルティングファームとして、これまで培ってきた問題解決のノウハウや、NGO、企業、政府といった様々なステークホルダーとのリレーションを活用することで、今後とも価値あるプロボノ活動に取り組んで参ります。

 

PARTNER'S VOICE

本調査では、改めてグローバル共生社会を共創するには他セクター連携が重要であるとわかりました。JANICはこれを「生態系・エコシステム」と見立て、育む触媒役として役目を果たしていきます。また、今回プロボノとしてご協力いただきました社員の皆さまに感謝を申し上げると共に、今後とも「生態系・エコシステム」を構築していく上で、一緒に歩んでいけたらと思います。
 

本木恵介
認定 NPO 法人 国際協力 NGO センター 理事長
認定 NPO 法人 かものはしプロジェクト 理事長
NPO 法人 新公益連盟 幹事
本木 恵介 様

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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