【イベントインサイト】未来の工場を支える基盤、MES(製造実行システム)の基本概念と導入のポイント

インサイト
2026.02.19
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製造業では、サステナビリティ対応やAI活用の加速に伴い、その中核を担うMES(製造実行システム)への注目が高まっている。しかし、MESの定義は依然として曖昧であり、多くの企業が導入目的の明確化や費用対効果の算出に苦慮しているのが現状だ。経営と現場をつなぎ、企業の競争力を左右するこの重要基盤をいかにして戦略的に導入すべきか。

本稿では、製造業界のトレンドや最新技術動向を踏まえつつ、MESの基本概念から導入のポイントを解説する。
(本稿は、2025年12月9日~11日 株式会社コアコンセプト・テクノロジーでの当社講演「未来の工場を支える基盤 MES導入のポイント」をもとに再構成しています。)

執筆者情報

  • 阿部 洋平

    阿部 洋平

    Senior Expert

現場改革におけるMESの位置づけ

MES(Manufacturing Execution System、製造実行システム)は、生産計画、実績収集、品質管理、在庫管理、設備連携など多岐にわたる機能を含むため、導入する企業の目的に応じて定義が変化しやすい。MESの導入プロジェクトを成功させるためには、まず一般的に定義されているMESの基本概念を知っておくことが重要となる。

バリューチェーンにおけるMESの役割は、大きく2つある。1つは、エンジニアリングチェーン(ECM)において、製品企画、生産設計、生産準備・試作などの工程で規定された「つくり方」を製造現場に伝えて品質を保証するとともに、規定との差異や問題点をフィードバックすること。もう1つは、サプライチェーン(SCM)において、計画された生産数量・在庫数量を製造現場に伝達し、実績との差異をフィードバックすることだ(図1)。

図1 MESの基本概念

つまり、MESの領域は「エンジニアリングチェーンとサプライチェーンの交差点」に位置する。

次に、企業システム(ERPなど)と制御システム(PLCやDCSなど)を統合するための国際規格である「ISA-95」で定義される、MESの位置づけを見てみよう。

図2のようにISA-95は、製造業務をLevel 0からLevel 4までの5階層に分けて整理している※1。この階層においてMESは、Level 3の製造オペレーション管理、つまりPLC、DCS、SCADAといったLevel 2までの制御系の設備と、ERPをはじめとするLevel4のシステムをつなぐ領域に位置づけられる。

図2 ISA-95で定義されるMESの位置づけ

各階層で扱うデータの粒度に着目すると、Level 4では年・月・週・日といったタイムスパンを基本とし、在庫も品目・ロット・倉庫といった大まかな単位で管理する。これに対してLevel 3では、日・時間・分、場合によっては秒単位であり、在庫もロット・シリアル・棚番などを細かく管理する。Level 1・2の階層にある秒・ミリ秒単位の現場情報を、しっかりと経営の階層まで上げていくために、MESがこれらをつなぐ役割を担っていることが分かる。

また別の観点では、MESはLevel 4で策定された生産計画・製造指図・BOMといった情報を、「何を・いくつ・どのようにつくるか」を示す製造指示・作業手順書・設定値にして製造現場に伝達する。そして、Level 2までの加工実績・測定結果を収集し、着手完了実績・出来高・進捗情報など「何が・どのようにつくられたか」を示す情報に集約してLevel 4に伝える。

さらに企業のシステム構想においては、MESは製造管理、設備保全、品質、倉庫/在庫管理といった相互に関係する業務を連動・統合させて情報を集約する製造デジタル基盤に位置づけられる。同時に、今後AIのように進化するデジタル技術に追随するための基盤、また環境情報を含めたトレーサビリティの基盤としても捉えることができるだろう。

※1 :Level 0:物理的な製造プロセス、Level 1:基本制御(センサー) 、Level 2:監視・制御、 Level 3:製造オペレーション管理、Level 4:経営計画とロジスティクス

MES導入・検討における難しさとは

前述したように、MESのスコープは広範囲にわたる。近年の経営アジェンダの広がり、IT技術の進化、多彩なプレイヤーの出現と相まって、検討すべき要素が多岐にわたっている。これらを背景として、MES導入・検討における難しさは次の3つに整理できる。

①目的の明確化

もともとMESの目的は製造工程のQCD管理だったが、昨今は収益性改善やDX、GXなど変革のテーマとの関わりが求められるようになった。また、MESは投資額が比較的大きいため、QCDにおける費用対効果という観点だけで導入すると仕組みが小さくなり、デジタル基盤として成立しないケースも多い。QCD以外の導入効果をしっかり見極めると同時に、なぜ自社がMESを導入するのかといった「Why」を明確にする必要がある。

②周辺システムとの機能配置

製造、保全、品質、在庫など、工場業務の大部分がMESのスコープに入るため、各関連システムとの機能配置を考慮しなければならない。これらは企業や工場ごとに特化し、競争の源泉になる領域であるため、自社の状況に即したMESの定義、考え方とアプローチが重要になる。

③MESソリューションベンダーの選定

MES市場は細分化されており、主要なベンダーだけでも多数存在する。ERPのように業界・業種にまたがる寡占企業はなく、海外MESベンダーの進出やスタートアップ企業の参入が激しい中で、導入パートナーや製品選定の難易度は高まっている。

これらを背景として、次項からは目的を明確化するための「MES導入の目的と費用対効果」、自社にとってのMESの定義やソリューションベンダー選定を含む「MES導入の成功ポイント」について、詳細に述べていく。

MES導入の目的と費用対効果

かつてMES導入の目的はQCDの改善に限られているケースが多かった。しかし、2015年頃の「IoT/Industry4.0」によるデジタル化の波、2020年前後からのDXの潮流を受け、現在MESには「製造デジタル基盤」「設計・製造連携(ECM強化)」「SCM高度化」「経営基盤強化」といった価値が求められるようになった。

さらに現在は、AIに対応可能な状態をつくる「AI Ready」、脱炭素の文脈で製造業に要求されるカーボンフットプリントの実現、さらには労働力不足への対応等による事業継続の確保など、MESへの期待感がますます高まっている。

図3は、サプライチェーン、エンジニアリングチェーンにおいて期待されるMESの導入効果をまとめたものだ。MESの囲み内がQCDの直接的な効果であるが、そこからサプライチェーンにおける生産計画、生産スケジュール、需給計画、予算策定、エンジニアリングチェーンにおける製品開発、設備保全、改善活動、さらには教育・ナレッジ・継承にまで、MESの導入効果は広がっている。

図3 広範に広がるMES導入の期待効果の例

また、実際にMESを導入した企業の事例を見ると、QCD改善は当然として、新たに製造デジタル基盤やSCM高度化、経営基盤強化、Green、事業継続、AI Readyなど、2020年以降に出てきた新たなアジェンダが導入目的となっていることも分かっている。

グローバルのトレンドにも目を向けてみたい。世界最大級の産業展示会ハノーバーメッセ2025で開催された「MES Conference」では、エネルギー、AI、データ連携といったテーマが多数見られ、MESの重要性と、そこに求められる要素が増しているという発表が目立った。

特に注目されるMESの役割は、2つある。1つは「エネルギーフットプリントの最適化」である。エネルギーにかかるコストが高騰するなか、いわゆる4M情報(Man、Machine、Material、Method)と消費エネルギーの関係性を分析するなど、MESがエネルギーの省力化にも貢献できる例が提示されていた。

もう1つは「データドリブン実現のためのAI活用」だ。バックオフィスに比べて、製造現場でのAI活用はそれほど進んでいない。AI活用にはデータが欠かせないが、製造現場ではデータ収集及び整備ができていないケースが多いからだ。①データ統合、②データ調和、③データ配信、④データ使用量といった要素は、従来からMESに求められてきたものだが、AI活用においても重要であることが再確認された。

MES導入の費用対効果を検討する際には、工場のQCD改善効果だけではなく、サプライチェーンマネジメント(SCM)・エンジニアリングチェーンマネジメント(ECM)の観点、定性的効果を組み込むことが重要といえよう(図4)。

図4 MES導入における費用対効果の考え方

例えば、経理部門の原価情報データの加工・集計工数削減、設計や生産技術部門への不具合情報共有の工数削減、KPIのためのデータ作成・集約時間削減など、工場以外の部門やシステムにおいてもQCD改善効果を算出できる。

また、可視化による改善実行効果を測ることも重要だ。工場では、設備稼働時間の可視化で利用が適正化されたことによる稼働率の向上、品質ロス原因の特定に伴う不良金額の削減などがあるが、SCM、ECMの観点でも、MESによる利益向上や、品質・生産性の向上などが考えられる。算出においては、過去の自社の改善実績やベンダーの情報なども参照したい。

またデジタル基盤としての定性効果は取り扱いが難しいものの、前述のようにこの領域のテーマは増加しており、重要になってきている。例えば、欧州メーカーが求めるトレーサビリティに代表されるような顧客要求に対し、IT基盤不備のために応えられないことによる失注リスク、熟練工の業務標準化、資格偽装や品質不正などのコンプライアンス違反の防止などがここに含まれるだろう。

MESの導入に向けた検討では、まず「MESに何を期待するか」の明確化が欠かせない。製造現場のみのうれしさを想定していないか。周辺部門など、工場外を含めた業務全体のつながりを踏まえて考えられているか。製造データの基盤としての位置付けを踏まえられているかを再考いただきたい。

MES導入の成功ポイント

ここからは、具体的なMES導入の成功ポイントとして、自社にとってのMESを定義するための考え方とアプローチ、ソリューションや伴走者選定にフォーカスしていきたい。特に先述の「MES検討・導入における難しさとは」で触れた「②周辺システムとの機能配置」「③MESソリューションベンダーの選定」を軸に見ていく。

まず、「②周辺システムとの機能配置」については、自社におけるMESの定義に照らして、既存のサブシステムを含めて機能配置を検討することになる。図5は、ISA-95が定義するLevel 3、4に準拠した分類になっているが、注目したいのは「その他サブシステム/マニュアル」である。

図5 MESにおけるERP、MES+サブシステムの切り分け

現場力の高い日本の製造業の場合、既存の業務負担や現業務の習熟度なども含めて、サブシステムを残すのか、MESに置き換えていくのかを1つ1つ熟慮することが重要となる。

また、Fit to Standardで業務をシステムに合わせるERPと異なり、MESでは「QCDに与える影響が大きい」という特徴を加味して業務設計をしていく必要がある。例えばタクトタイムが20秒と短いラインに、MESの処理が2秒入れば生産性が1割落ちてしまう。ものづくりの品質やコストに影響が出ないよう業務設計を行うことがポイントとなる。

図6は、自動倉庫を含んだ在庫管理業務における機能配置の例だ。このケースでは、ERPは指示・実績情報と在庫の増減の最終形を保持し、基本的にMESで作業者のオペレーションを行う。自動倉庫やAGVはIAS-95でいうLevel 2に当たるが、MESはこれらに常に連携して制御を行うイメージだ。

図6 自動倉庫を含む在庫管理業務をMESの機能配置で行う例

また、システムを切り分け、プロジェクト状況に応じて段階的にMESを導入するケースも多い。ある企業では、初期はMESを最低限で実装。品質管理は検査対象の抽出とOK・NGの判定機能を中心に構築。MESがある程度定着した後に、ステップ2として品質系機能を大幅に強化し、ペーパーレス化も実現した。

続いて「③MESソリューションベンダーの選定」について見ていきたい。MESソリューション及びその伴走者となるベンダー選定においても、まずは自社のMESを定義し、スコープを整理したうえで選定することが不可欠だ。図7は、選定における「よくある失敗」とその原因、選定時のポイントを示したものだ。

図7 MES選定に関わるよくある失敗と選定時のポイント

MES製品・導入ベンダーの業界構造は把握が難しく、標準機能の考え方も製品ごとに異なる。また、開発型パッケージにするか、カスタマイズなしですぐに使えるアウトオブザボックス(OTB)型でFit to Standardを目指すか、といった選択も判断の分かれるところだ。

普段つき合いのあるベンダーに丸投げすることは避け、専門家のアドバイスも参考にしながら、ソリューションベンダーの訴求ポイントが自社にとっても重要な要素であるかを精査すべきだ。その時、判断の基準となるのは、取りも直さずMES導入の目的となる。

そのうえで複数システムと連携ができるか、自社要件を理解する力やノウハウが十分にあるか、豊富な導入実績を持つプロジェクトメンバーが実際にアサインされるか、テンプレートがある場合、それに何を期待するかなどを見極めていただきたい。

MES/MOM導入を促進する「MES標準機能一覧」とは

MESソリューションベンダーの選定において、さまざまなポイントを見極めるためには、自社のMESを定義し、スコープを明確化しておく必要があることはすでに述べてきたとおりだ。

そのスコープ検討には、これまで製造業の情報システム化を推進する国際的業界団体であるMESA(Manufacturing Enterprise Solutions Association International)が発行するフレームワーク「MESの11機能」がよく活用されてきた。

しかし、このフレームワークは1つ1つの機能が意図する内容が分かりづらく、実際の業務にひもづけにくい。また、作成から25年以上経っており、バージョンアップはしているものの日本にはその内容が浸透していない。

そこで、一般財団法人エンジニアリング協会(ENAA)が設置するスマート工場研究会では、これまでのMES導入推進プロジェクトで培った知見を生かし、MESの標準業務機能のリストおよび概略図、関連図を定義した「MES標準業務機能一覧」を作成。2025年10月に正式リリースした。

MES機能と周辺システムの機能配置にはグレーゾーンも多いが、このMES標準業務一覧では、主要な周辺システムとの関係性に踏み込み、連携の仕方もある程度可視化している。概略図や関連図はExcelの一覧にも反映し、機能ごとにMES以外の代替可能システムもまとめて記載している。正式版は、現在ENAAのホームページで入手可能であり、本質的なMES構想を円滑に策定する上で、有効に活用することを推奨したい。

おわりに

本稿では、MES導入が単なるシステム刷新ではなく、企業の競争力を築くための戦略的基盤構築であることを改めて整理した。AI活用やサステナビリティ対応など、MESのスコープは今後さらに拡大していく。この変化に対応するには、導入目的を明確にし、自社に最適なアーキテクチャを描く構想策定が不可欠である。
アビームコンサルティングでは、サプライチェーン、エンジニアリングチェーン、バリューチェーン全域を対象に、経営アジェンダに直結する戦略立案から業務・システム変革、そして効果創出に至るまでの一貫した実行支援に強みをもっている。今回のテーマであるMESに関しても、「目的の明確化」といった初期フェーズから、各企業に適したソリューションの選定・導入、そして海外拠点への展開など高度な段階に至るまで、幅広く支援できる体制を有している。

アビームコンサルティングは、経済価値(事業継続性)・顧客価値・社会価値の向上に向けて、引き続き企業のサプライチェーン変革を支援していく。


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