まず、ヤマハグループ全体の戦略として、購入後の顧客体験に関わるサービスを実施する際の基本となる、グループ共通の考え方・方針を策定した。この中で、顧客のライフタイムバリュー(顧客生涯価値)向上を目指すにあたりヤマハ・顧客双方の視点での目指すべき姿とその実現に向けた指標を整理し、その指標を基準にサービスを検討していくことにした。
ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)の名が示す通り、顧客の生涯の中にはその商品・サービスとの接触機会が複数存在する。例えば幼少期に親に連れられてピアノを習い始め、受験で離脱したものの学生になって今度はバンドを始める、子どもが生まれたら一緒に楽器を楽しむ、定年後の趣味として再開するなど。そのようなライフステージごとの機会に、顧客基盤に蓄積された情報を活用することで顧客に最適なサービスを提供しアップセル・クロスセルを促すことで、顧客の生涯を通じて自社の利益を拡大させていくという発想を持つ必要がある。
この時、ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)の「バリュー」とは一般的に1人の顧客から得られる収益のことであり、当然それが大事なことであるが、一方でそれは完全に企業側のロジックであるとも言える。
では、顧客側のロジックで考えるとどうだろうか。
顧客にとっての「バリュー」とは、それにより顧客自身の課題や不満が解消され、何らかの理想が実現できることである。つまり楽器の場合は楽器の購入そのものではなく、楽器を使って上手に演奏できることにより得られる達成感や、その結果“周囲から褒められたい”という承認欲求が満たされることなど、体験価値やその先にある感情価値のようなものこそが「バリュー」である。ヤマハではこれを「夢の実現」という言葉で表現し、顧客視点の「目指すべき姿」に据えた。
ところで、この顧客視点の「目指すべき姿」を実現するには、「楽器が思うように弾ける」という充実感が非常に重要になる。顧客にとってのバリューを生み出すには、楽器が思うように弾けなければいけないのだ。そのためには、当然練習しなければならない。そう考えると、この「練習すること」に代表される「行動量」が実は重要なKPIになることがわかる。そして、練習により少しずつ楽器を扱えるようになると、「より上位機種を買おう」「ピアノの調律をしよう」など、結果的に企業側の求めるバリューにつながっていくのである。
つまり、企業側のロジックで考えるライフタイムバリュー(顧客生涯価値)とはあくまで受け手側の話であり、最初に重視すべきはあくまで顧客側のバリューである体験価値なのだ。これをもとにバリューを構成することが非常に重要である。あとは、それがきちんと企業の事業にはね返ってくるメカニズムを構築すればいい。
このようにヤマハでは、ライフタイムバリューを「ヤマハにとっての顧客生涯価値(≒売上)と、顧客にとってのヤマハと繋がる価値(≒体験価値)の双方を指すもの」と定義しなおし、これをライフタイムバリュー(顧客生涯価値)向上に向けた取り組みの根底となる考え方として根付かせている。