イベントレポート
「ART MEETS BUSINESS~“異彩が新たな価値を生む?”」

~「アート×ビジネス」の視点で未来・社会について考察する~

2023年12月26日

アビームコンサルティングは11月29日、主に知的障害のある作家のアートを軸にライセンスビジネスを展開し、国内外から大きな注目を浴びている福祉実験カンパニー「ヘラルボニー」の代表 松田崇弥氏を招き、「アート×ビジネス」をテーマにした対話型イベント「ART MEETS BUSINESS~”異彩が新たな価値を生む?”」を開催した。

株式会社ヘラルボニーについて

不確実性が高く、経営環境が目まぐるしく変化する現代、企業には未来へのビジョンを定め、社会変革につながる新たな価値を発見することが求められている。しかしながら多くの日本企業は、このような探索の経験や機会が少ないのが実情だ。新たな価値を創出するためには、これまでにない視点を持ち、多角的に自社のビジネス、そして社会課題とも向き合っていく必要がある。その起点の一つとなりうるのが、「アート」である。

唯一無二の視点を持ち、常識や固定概念に囚われない“異彩”を放つアートが投げかけてくる”正解のない問い”に向き合うとき、我々は何を発見できるだろうか。そしてそこにビジネスとの関連性を見つけ出し、未来にどのような変革をもたらすことができるのだろうか ———企業のCxO層をはじめ数多くのビジネスパーソンが集い、対話し考察していく機会をつくることが、本イベントの目的である。

なお本イベントは、さまざまなステークホルダーとのコラボレーション創出をテーマにした当社オフィスの共創スペース「As One Stage」にて開催し、会場にはヘラルボニー社と契約する作家のアート原画を展示した。“異彩”を放つ数々のアートが並ぶ空間でビジネス、そして未来について考える、「一夜限りの展覧会」となった。

写真:イベントの様子(開会挨拶:アビームコンサルティング 執行役員 プリンシパル 小山元)
写真:イベントの様子(開会挨拶:アビームコンサルティング 執行役員 プリンシパル 小山元)​​

 

Art meets Me:
アートを原動力に社会課題を解決するビジネスを創り出す ヘラルボニー社の創業背景

アートは世の中を変える力を持つものとして近年注目が集まり、ビジネス界においても目にすることが増えてきた。経済産業省から本年発行された「アートと経済社会について考える研究会」の報告書において“これからの時代の経済の原動力としての創造性”として、アートやデザイン等を通じた創造性や感性、地域固有の文化を価値創造の主軸に据えることが提唱されるなど、その意義はビジネス界全範囲に及ぶとの認識が一般的になっている。特に昨今、アートとの関りや活用を通じてさまざまな社会課題の解決を目指すビジネスにも注目が集まっている。

ゲストとしてお招きした松田氏が代表を務めるヘラルボニー社は、アートを通じて社会の課題を解決するだけでなく、新たな価値創造につなげる数多くの取り組みを推進している。同社の起業も、まさに松田氏(Me)とアートの「出会い」が契機だった。

松田氏は本イベントの講演内で、ヘラルボニーの起業背景を語った。
4歳年上の兄に自閉症を伴う重度の知的障害があるというバックグラウンドを持つ松田氏は、24歳の時に岩手県花巻市の福祉施設に併設する「るんびにい美術館」で展示されていた知的障害のある作家が描いた作品に出会った。その時、目の前の作品が放つ無限の可能性を感じるとともに、このような作品を「支援」や「貢献」の文脈だけではなく、「アート」として世に発信し資本主義社会の中で評価される存在に昇華させることを通じて、障害に対する社会の見方を変えていきたいと考え、2018年に株式会社ヘラルボニーを立ち上げた。

写真:株式会社ヘラルボニー 代表 松田崇弥氏
写真:株式会社ヘラルボニー 代表 松田崇弥氏

 

Art meets You:アートを媒介とした「対話」が切り開く、新たな視点と発想

様々な解釈が成り立ち、一人ひとりに異なるメッセージを残す“アート”と向き合うことで自らの創造性を駆動させ、他者との対話を通じて更に新たな視座を得る。自らへの内省を深める。そして変革への着想に到達する——。
不確実性の高まるビジネス環境におけるクリティカルな課題解決のアプローチとして、そしてビジネスパーソン同士のコミュニケーション手段としても「対話型鑑賞」が注目されている。定型化標準化されていない情報である“アート”の観察を通じて観察力や思考力、言語化力を鍛えることができる対話型鑑賞は、昨今では人財開発の現場でも多く活用されつつある。

本イベントでも、対話型鑑賞のメソッドに基づいたプログラムとして、ヘラルボニーの契約作家が描いたアートを用いた対話プログラムを実施し、それぞれの参加者(You)がアートと向き合った。4人1組となり、全員が初対面同士のグループもいる中で、作品名が伏せられたアートと向き合い、作品から感じたこと・発見したことをそれぞれ共有した。
連続性のある描写やさまざまな色彩が複雑に混ざり合う作品を前に、作品のタイトルや創作の背景に対する想像など、それぞれの多様な視点の交差が思いもよらないアイデアを生み出す瞬間を体験した。

このように正解を求めない自由な思考を働かせ、それを表現することで自己や他者と向き合うことが、これまでになかった新たな視点の発見に繋がっていく。日本企業が今まさに求められている「創造性」にも通じていくのではないだろうか。

写真:アートを媒介とした対話型プログラムの様子
写真:アートを媒介とした対話型プログラムの様子

 

Art meets Business:不確実な未来に向けてビジネスの可能性を広げるアート

ビジネスが過去の成功体験から得られた経験則に基づいて推進できた時代必要なものは「再現性」と「予測」であった。しかし未来の予測が困難な今日、企業としてこれからの社会とどう関わるべきか、自らがどういう存在であるべきかを考えることが重要なポイントとなっている。その点において、アートを企業活動と連動して考えることで、社会とどう繋がるか、自社がどのような姿を目指すかを考える視点を得られる可能性がある。

また個人の観点でも、人的資本として社員一人ひとりの視点が一層重要となり、個々人の個性や生き方が認識され、強みとして活かされる社会が求められている。DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)を実現する上でも、さまざまな表現を通じて多様性を受容・体現するという点で、アートは大きな力になる。

アートによるビジネスへのインパクトはその最たるものとして、「不確実な未来に向けて視野を広げ、他者の視点を受容するとともに新しい視点を提供し、新たな価値を創造していくこと」にある。そしてそれは、アートに限らず社会・文化に関しても同様である。企業活動が社会と接点を持つなかで、アートをどう活かせるか。その視点で考えることで、企業活動は広がりを見せていくだろう。

写真:トークセッションの様子(左からアビームコンサルティング 小山、ヘラルボニー 松田氏)
写真:トークセッションの様子(左からアビームコンサルティング 小山、ヘラルボニー 松田氏)

 

Creativityをコンサルティングに組み入れ、新たな価値を創造する

アビームコンサルティングは「社会変革アクセラレーター」として、不確実な未来に向けた価値創造をクライアントと共に実現するために、積極的にCreativityの視点を組み入れている。
従来のコンサルティングファームが強みとしてきた「事実・データ・ロジックに基づいた、確実性・蓋然性の高い最短距離での課題解決」のみならず、「不確実で正解のない(VUCA)未来を見据え、ありたい未来を提唱し、クライアントをはじめとしたパートナーと共に模索しながらデザイン・具現化する」ために、Creativityの視点が重要であると考えるからである。

今後も創造性を持った視点でクライアントの未来を描き、ビジネスに新たな価値を創り出し、さらには社会変革へと導いていくため、これまで培ってきた多種多様なケイパビリティを活かし、一層推進していきたいと考えている。

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