「日本企業の”攻めのDX”実態調査」
~成功と失敗の分岐点~

2022年9月12日

1. はじめに

かつてないほど、短命化する企業の競争優位性、パーソナライズ化されたニーズへの対応、そして業界の垣根を超えた競争環境の変化などに対応するため、デジタルテクノロジーを用いた変革は待ったなしの状態である。
アビームコンサルティングが2020年10月~11月に実施した「日本企業のDX取り組み実態調査」では、日本企業の約6割は新規事業の創出、ビジネスモデル変革、新サービス・製品開発などの“攻めのDX”を最も重要なテーマに設定していることが明らかになった。
そこで、アビームコンサルティングは、日本企業の“攻めのDX”の取り組みトレンドの把握とその成功と失敗の分岐点を明らかにすることを目的に「日本企業の“攻めのDX”実態調査」を2021年6月に実施した。
調査結果によると、多くの企業が“攻めのDX”に関連する取り組みを行っているものの、成功に至っている企業は約8%であることが判明した。これは、企業にとって変革プロジェクト自体の難易度が高いうえに、新規事業の創出や既存事業の売り上げ向上のためのビジネスモデル変革を目的とするDXの取り組みの難易度がさらに高いことを示唆している。
そこで、本インサイトでは、“攻めのDX”の成功要因をさらに深堀するために「日本企業の“攻めのDX”実態調査」の結果をもとに、日本企業の“攻めのDX” の取り組みのトレンドと、その成功と失敗の分岐点を明らかにする。そして、それらの分岐点を乗り越え、成功へと導くためには何が必要なのかを示唆として提示する。

2. 日本企業の“攻めのDX”の取り組みトレンド

「日本企業の“攻めのDX”実態調査」は、年間売上高 1千億円以上の企業に所属し、DXの意思決定に関与したことがある部長職以上(1,030名)を対象に実施した。調査結果によると、売上高の成長率と“攻めのDX”の成功率には相関関係が見られた。
過去5年間の売上高CAGR(年平均成長率)が20%以上の企業グループでは、“攻めのDX”の成功確率(成功したと回答した層)が約34%なのに対し、成長率が0%~20%の企業グループでは成功確率が約6%、成長率が0未満の企業グループでは成功確率が約3%に留まった(図1)。

 

図1 過去5年間の売上高CAGR(年平均成長率)別のDX成功割合

図1 過去5年間の売上高CAGR(年平均成長率)別のDX成功割合

3. "攻めのDX"の成功と失敗の分岐点

本調査では対象企業を“攻めのDX”の成功グループと失敗グループの2つに分け、各グループの“攻めのDX”への取り組み度合いを比較した(図2)。
その取り組み度合いの差異の大きさを分析すると、“攻めのDX”の成功と失敗について3つの分岐点が浮かび上がってきた。

 

図2 "攻めのDX"の成功と失敗の3つの分岐点

図2 "攻めのDX"の成功と失敗の3つの分岐点

1つ目の分岐点は、データマネジメントやシームレスなITの整備である。
成功グループでは、競争力の強化のためのデータマネジメントに加え、基幹システムとフロントサイドのシステムがシームレスに連携できており、最適な状態に整備されていた。
失敗グループの中でも、"働き方改革"などに代表される"守りのDX"のみ成功している企業グループではこのデータマネジメントやシームレスなITの整備ができていない企業が多い傾向が見られた。

2つ目の分岐点は、DXマネジメントの強化である。
成功グループでは、DX戦略・施策における適切な責任・権限の統制や移譲を行い、DX計画・ロードマップの可視化に加え、柔軟な投資配分のコントロールとモニタリングを行っていた。
失敗グループでは、DX計画・ロードマップの可視化はできているが、投資配分のコントロールとモニタリングに関しては手が追い付いていないという回答が約46%にのぼり、成功と失敗の分岐点がより鮮明に表れている。

3つ目の分岐点は、DX人材の確保・育成である。
成功グループでは、人的リソースの確保と計画的な育成に加え、トライ&エラーを許容する組織風土を醸成していた。
失敗グループでは、約60%の企業が「表向きは挑戦や失敗を推奨しているが、実態として失敗が許されない」と回答しているのに対し、成功グループでは「経営から現場まで挑戦や失敗から学ぶことが推奨されている」と回答している企業が70%近くに達しており、表向きだけでないトライ&エラーを許容する組織風土が成功には欠かせないということが読み取れる。
 

4. 分岐点を乗り越え、"攻めのDX"を成功へと導くためには何が必要なのか

上述した3つの分岐点を乗り越えるために、アビームコンサルティングは、3つの取り組みの必要性を提言する(図3)。

図3 デジタル変革実現に向けた3つの提言

図3 デジタル変革実現に向けた3つの提言

① 裏のデジタルを活用した価値創出組織・機能の整備
“攻めのDX” をECやスマホアプリ導入などの表面的なデジタル化に留めず、本格的なビジネス展開を行うには、データ基盤(=裏のデジタル)の整備が欠かせない。顧客に商品をネットで届けるだけでなく、顧客の特性や反応に対し、機敏に対応するビジネスモデルや業務プロセスを構築しないとその価値が限定的になるからである。またデータ基盤構築だけというのも不十分である。データを蓄積しやすい組織・機能、蓄積したデータを起点とした新たなサービス・提供価値を創出しやすい組織・機能を作り上げることが重要である。「自らの新たな強みを再構築し続けること」ができなければ、“攻めのDX”の成功とは言えない。

② 未来起点マネジメント手法の磨き上げ
デジタルの世界では、既存事業のように案件を一つひとつ積み上げ経験によって稼ぐ力を高めていくビジネスでなく、不確実性が高い状況のなか、事業が急成長する変曲点を見極め、変化の発現を早期化させるマネジメントが肝要である。バックキャストでスケールシナリオの仮説構築とアップデートを繰り返すことや、DXビジョン実現に向けた投資ポートフォリオマネジメントなど、未来起点マネジメント手法を磨き上げることが重要である。

③ 挑戦風土への経営陣とミドル層の役割アップデート
デジタルをテコに事業および組織を変えていくには、既存事業と切り離した新規事業に特化した組織、いわゆる「出島組織」を組成することも有効である。しかし、単に組織を組成するなどのハード面の整備だけでは不十分であり、経営陣による強いリーダーシップ、すなわち未来起点マネジメントへの腹決め、評価制度への踏み込みといったソフト面の変革こそが不可欠である。
加えてミドル層(部・課長)による現場変革、具体的なビジネスプラン作り、下位メンバーへの頻度の高い1on1の実施なども有効である。これらの現場で変革の風土を作っていくには最初から多くの従業員を変えようとする必要はなく、デジタル変革の中心的役割を担う、全社の16%程度の割合(キャズム理論が提唱する、伝播するために必須となる浸透割合)でアントレプレナーを戦略的につくり出していくことで、全社の変革に繋げていくマネジメントを推奨している。
 

  • *キャズム理論とは、新しい商品やサービスが市場でシェアを拡大するためには、超える必要のある大きな溝(キャズム)が存在するという考え方。市場におけるユーザー層は消費の早い順から下記の5つに分類され、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間にキャズムが存在するとされている。
    ・イノベーター(2.5%)
    ・アーリーアダプター(13.5%)
    ・アーリーマジョリティ(34%)
    ・レイトマジョリティ(34%)
    ・ラガード(16%)
     

日本企業の”攻めのDX”実態調査(2021年6月実施)

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