食品・消費財メーカーにおけるCOVID-19の影響と今後の対応

 

COVID-19は、人々のくらしに様々な変化をもたらした。本稿では、くらしに密接する食品・消費財メーカーの視点から、環境変化や企業活動に与えた影響を体系的に整理し、これらを踏まえ、食品・消費財メーカーが今後どのような対応を取るべきか考察する。

COVID-19による環境変化

まずCOVID-19、そして緊急事態宣言により、食品・消費財メーカーを取り巻く環境にどのような変化が生じたのか、3C(市場・自社・業界)の視点から整理した(図1)。
購買行動の変化や休業、休校の要請により、それまでの需要と供給のバランスは大きく崩れた。そこにリモートワークによる現場体制の縮小やメーカーとしての供給責任が重なった。これらの環境変化が企業活動にどのような影響を与えたのか、経営資源(カネ・モノ・ヒト・情報)の視点から具体的に示していく。

図1:3C視点による食品・消費財メーカーの環境変化の整理

環境変化に伴う需要動向

次に、それらの環境変化に伴い、食品・消費財において何が売れ、何が売れなくなったのかを改めて整理した(図2)。休校、休業、リモートワークなどにより、オフィス社食やオフィス街テナント向けなどの業務用製品の需要が全体的に縮小しただけでなく、外出自粛や在宅勤務により外出機会が激減したことで、化粧品などの嗜好品の需要も縮小した。一方で、巣ごもり、COVID-19の感染防止意識の高まりにより、インスタント食品などの保存食やマスクなどの衛生商品は、在庫が逼迫するほど需要が拡大した。
こうした需要動向を受け、化粧品の落ち込みを衛生商品でカバーできた企業や、業務用の構成比が高く、業績に悪影響が出た企業など、食品・消費財メーカー各社の決算は様々であった。経営資源の“カネ”視点において、事業や製品構成、すなわちポートフォリオによる業績へのインパクトに明暗があったことに違いはないだろう。

図2:環境変化に伴う食品・消費財製品の需要動向

環境変化に伴うバリューチェーンへの影響とその対応

続いて、バリューチェーン上でどのような影響・対応が生じたのかを洗い出した(図3)。
影響は多岐に渡るが、先述の“カネ”以外の経営資源の視点から整理すると、以下となる。

  • 【モノ視点】海外のグループ企業や協力工場、製造委託先での調達機能停止などによりサプライチェーンに混乱が生じた。
  • 【ヒト視点】COVID-19感染リスクを伴いながら、マンパワーで増産などに対応しなければならない状況が生じた。
  • 【情報視点】在庫、商品機能、安全性に関する情報提供を求める問合せが殺到しただけでなく、SNSなどで誤った情報の拡散などが見られた。
図3:環境変化に伴うバリューチェーンへの影響・対応例

COVID-19が映し出した今後の経営アジェンダ

日本国内においては、COVID-19の感染ピークはいったん峠を越えたものの、再び拡大傾向にあるなど、先が読めない状況が続く。とはいえ、完全にBefore COVID-19の状態に戻ることはなく、ニューノーマル(新たな常識・状態)に向けて、企業や消費者は段階的な歩みを進めていくことになるだろう。さらに今後、新たな有事が発生する可能性もある。そうした教訓を踏まえ、我々アビームコンサルティングは、今後への備えについては、経営アジェンダとして向き合っていただきたいと考えている。これまで意識はしながらも、なかなか着手できていなかった領域が、COVID-19を通して、経営アジェンダとしてより鮮明になってきた感覚ではないだろうか。今後の影響を経営視点で整理し、それぞれの経営アジェンダへの対応を次項に示す(図4)。

図4:食品・消費財メーカーの今後の経営アジェンダ

カネ・モノ・ヒト・情報、それぞれの経営アジェンダにどう対応するか

カネ:ポートフォリオの見直し・適正化の観点にはグローバル/国内、事業、製品、エリア、チャネルなど様々ある。まずは改めて今後の企業活動におけるリスクを洗い出し、各観点における目指すべきポートフォリオを検討すべきである。また、環境変化のシグナル、兆候を事前に察知できるような仕組みの構築も合わせて検討したい。

モノ:グローバルサプライチェーンの強化に向けては、調達先や委託先、社内におけるバリューチェーンを繋ぎ、製品の需給状況や製品供給プロセスをリアルタイムで見える化する仕組みを確立することが重要になる。

ヒト:モノづくりの自動化・省人化は、これまでの効率化や品質向上に加え、従業員の安全・衛生の確保という観点が必要となり、ESGやBCPの視点を意識し対応すべきである。

情報:COVID-19を受け、改めて、消費者・従業員といった自社を取り巻くステークホルダーとのあるべきコミュニケーションの再考が求められている。

いずれの対応においても、不確実性を増すビジネス環境下において、一度対応すれば未来永劫安泰ということは1つもない。今後の企業活動においては、アラートをいかに事前に察知し、予防策を講じられるか、その迅速性と柔軟性こそが、グローバルにおける競争力そのものになる。さらに、その実現においてはやはりデジタル化(デジタルトランスフォーメーション)も避けては通れない。図5にそれぞれの経営アジェンダへの対応イメージを整理した。

図5:経営アジェンダへの対応

最後に、COVID-19との戦いはまだ終息していない。一方で、先を見据えて既に事業戦略や投資のリプランに着手している食品・消費財メーカーも複数ある。本稿が、COVID-19を通して改めて期待されている食品・消費財メーカーの社会的役割・責任に対するネクストアクションのきっかけになれば幸いである。

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