新規事業開発の検討支援に関して、経営層や経営企画といった全社に関わる部門のみならず、特定の事業部門や外部との共創などを推進する組織など、多種多様な部門から相談をいただくようになりました。検討のきっかけは組織によって様々ですが、新しい挑戦をしなければという危機感は、共通のものであると感じています。そうした危機意識の中でも、とりわけ変革における影響力を持つケースは、社長や経営層などのトップマネジメントを起点とする検討です。
今回は、世界的な機器メーカーのトップマネジメントがグローバル規模で新サービスのローンチを対外的に発表したことで、突然未知の領域へ挑戦することになった検討チームの新規事業検討支援に関する課題感や実行推進の工夫についてご紹介します。
本件における難しさの背景は、まだ、検討の種となる曖昧なコンセプトしかない状態からの検討スタートだった点と、経験したことのない領域において、すべてのタスクを検討チームが主体的に組み上げていかなければならない点の2つが同時に存在していたことでした。さらに、経営陣の強いコミットメントによって短期間で検討を進めるために、考えながら実行する必要があったのも、検討チームを悩ませる要因にもなりました。
検討チームは、コンセプト設計、事業計画、実行計画の策定などの段階をスピーディーに進めるために外部専門家の力を借りながら、不足するケイパビリティ(組織能力)を補うために新しい人材を内外から集めるなど、同時並行で様々な取り組みを仕切っていくリーダーシップを発揮する必要がありました。
そうした中でも、本件で特に大変だったのは、以下の2点です。
① 顧客や関係者の本質的な課題をつかむための現場の巻き込み
② 新たな取り組みに対する非当事者意識の克服
① 顧客や関係者の本質的な課題をつかむための現場の巻き込み
事業拡大の成功要因としては、まず、実行・拡大にあたって事業コンセプトの「練り直し」が必要になります。その際、サービスや商品の利用顧客と接点を持っている営業や顧客サポートと、実装を支援している事務や経理、調達なども巻き込み、様々な観点で「顧客の本質に沿っているのか」「関連担当者やパートナーの思いと沿っているのか」を繰り返し問うことが重要になります。その質問に回答出来るのは、一定期間現場にいる人であり、彼らの信頼を得て「本音」を語ってもらうことが必要で、そのためには外部メンバーなどを活用することや、一緒に業務を実装し自分で「本質を体験」することで理解してもらうことが有効です。このように、本質に迫っていくにあたり、事業を担当する様々な現場メンバーを巻き込み、それぞれのメンバーの思いや意見を取り入れることで「練り直し」作業を自分事にすることが重要になります。
しかし、現場メンバーは、従来の既存事業のプロセス(営業・顧客サポートなど)を担っているケースが多く、彼らが協力のために時間を取られすぎてしまうと、事業が回らなくなる場合があります。したがって、彼らを巻き込むためには、事前に上位者に目的や必要な時間などを共有し、調整してもらう必要があります。
今回のプロジェクトでも、事業の責任者は「既存事業を回す」ことを最優先にしており、現場へのヒアリングの時間を頂くことが難しい場合がありました。また、筆者が関わっていた別の案件では、上位者と合意し、業務時間前後や、シフト勤務の時間の外でお願いしてワークショップを開催するケースもありました。その調整の許可を得るためにも、既存事業のオーナーに必要性の説明などを実施していました。
今回のプロジェクトでは国内だけではなく、様々な拠点を巻き込む必要がありました。それぞれの国によって、マーケットや組織の環境、仕事に対しての文化や思いも違うので、それぞれの環境・組織・文化に合わせて現場メンバーを巻き込み、事業の「練り直し」を実施していくことも重要でした。
特に欧米などでは各部門の担当のミッションが決まっており、自分が抱えている目標に直接関連しない活動やリソースの活用に対して積極的でないケースもありました。そういったビジネス文化の中で「人を動かす」ことは簡単ではありませんが、様々な方法を活用して成功につなげていきました。例えば、欧州の拠点では、拠点の顧客サポートの責任者はワークライフバランスを重視していて、加えて既存事業に追加機能などがリリースされたばかりだったため、サポート体制に余裕がない状態でした。それでも、彼と彼のメンバーから顧客課題に対しての認識の確認や既存のコンセプトに対してのフィードバックが必要でした。そのため、一部サポートを数日間他の拠点からカバーできるように調整して時間を作ってもらい、経営トップからもその時間でのワークショップ開催の重要性をメールで各メンバーに共有してもらうよう促しました。
② 新たな取り組みに対する非当事者意識の克服
また、企業によっては現場のメンバーが今まで感じていた事業の懸念点や顧客の本音を共有できていなかったり、新しい取り組みに対して「自分の仕事や義務ではない」という意識を持っていたりする人が多いこともあります。そのためにも「当事者意識」と「信頼性」を構築し、彼らを導くメンバーが必要になります。
米国の拠点での例として、商品のデプロイメント(初期設定)のチームで我々がシャドウイング(業務を一緒に体験)し、実業務(ハードウェアの準備、配送、設置、ソフトウェアやネットワークの設定、顧客対応など)を共に行いながら、彼らの考えを収集しました。そこから得られた情報がサービス成功の要因になってくるケースが多いです。
例えば、デプロイメントのチームと業務を経験したところ、一部の顧客のセキュリティーソフトとネットワーク環境の設定が一部サービスやデータ転送を阻止していることが分かりました。この件はサービスの品質維持や顧客体験に影響する一方、設定変更やカスタマイズはデプロイメントメンバーのスキルセットとは異なっていたので、商品自体のネットワークの設定の方針などを再検討しました。このように、業務を一緒に行い、課題の顕在化や解決策の模索まで行うことで、これまで当事者意識が希薄だったメンバーの関与度合いを強めることができました。