「コト」ビジネスを創りだす新たな視点

「コト」ビジネスを創りだす新たな視点 の編集

久保田 圭一

P&T Digital ビジネスユニット
Sports & Entertainment セクター長
執行役員 プリンシパル

スポーツは究極の「コト」ビジネス

2018年6月、この記事を執筆している今まさにFIFAワールドカップが開催されている。日本代表にとって初戦となるコロンビアVS日本戦が行われ、日本が勝利したタイミングでもある。監督交代劇などもあり前評判が悪かっただけに、こんなに気分のいい裏切られ方はない。日本中が興奮と感動に包まれている。

スポーツは感動を与えるもの - 言い方は悪いかもしれないが、感動がビジネスになっている。
例えば、以下のような事象がある。

  • テレビやスマホで試合が見れるのにわざわざスタジアムになぜ足を運ぶのか
  • 甲子園や全国高校サッカーなど、知らない高校生同士の試合を見てなぜ涙を流すのか
  • 用途のない芝生がなぜ売れるのか(FCバルセロナのスタジアムでは実際に売っている)

これらの事象はロジックでの説明は難しい。いわゆる機能的な価値を売る「モノ」ビジネスではなく、「感動」、「世界一のサッカー選手であるメッシが踏んだ芝」という、情緒的な価値が訴求されているからである。

したがって、スポーツビジネスでは、「モノ」ビジネスとは異なる視点・思想が必要となる。

「コト」ビジネスの分析フレーム SET分析

「コトを売る」、つまり情緒的な価値(楽しむ、癒される、意欲が向上するなど)を提供する商品・サービスを創り出すためにはどのような視点が必要なのだろうか。
従来の「モノ」ビジネスでは、事業の方向性を検討する際に3C分析(顧客ニーズはあるか、競合はいるか、自社のリソースで実現できるか)を使っている。
しかし、実際に我々がスポーツビジネスのコンサルティングにおいて新たな価値を創造しようとするとき、この視点では十分な分析ができなかった。

そこで我々は、3Cに加えた新たな視点として、「共感を得られるものは何か(Sympathy)」、「誰と組むべきか(Ecosystem)」、「顧客のどの時間を奪えるか(Time)」という視点を加えることにした。
それぞれの頭文字をとって「SET分析」と呼ぶ分析視点である。

 

「共感を得られるものは何か(Sympathy)」

例えば、ニュージーランドのラグビー代表チーム「ALL BLACKS」。彼らが試合前に踊るHAKAは有名だが、HAKAとはそもそも少数部族のンガティトア部族が敵からの攻撃で全滅しそうになる中、生き残った喜びを表現したものである。ニュージーランドの子供達は誰でもその意味を知っており、子供の頃からHAKAを踊り、それをいつか大舞台で披露することを夢見ている。こうした歴史から、ALL BLACKSのメンバーは、HAKAを踊ることで誰にも負けないパワーを得られ、どんな敵にも立ち向かうというストーリーがある。
こうしたストーリーが「強さへの憧れ」という“共感”を創り、ファンの獲得に繋がっている。
こうした共感を生み出せる自社(リーグ・チーム)のコンテンツが何かを明確にすることが、「コト」ビジネスの成功要因である。

「誰と組むべきか(Ecosystem)」

“共感”を顧客に伝える方法は実に多種多様である。スタジアムの試合に来てもらうこと、ネットでグッズを買ってもらうこと、リアルショップでユニフォームを買ってもらうことなど様々だ。動画コンテンツを見て楽しんでもらい、ファンを継続してもらうことももちろんそのうちの1つとなる。
“共感”は形があるものではないので、様々な方法で伝達することができる。その方法を全て自社でカバーすることは容易ではない。
さらには、スポーツは一度に数万人を集客できる集められる稀有なコンテンツであるが、その価値を十分に活かせていないという現状がある。例えば、スポンサーシップにおいて、リーグ・チームとスポンサー企業との関係を見ると、ロゴ掲載の値段でその関係が成立しているケースが多い。スポーツが提供できる”共感”の力とスポンサー企業の強みを組み合わせられればもっと違う価値を提供でき、スポーツビジネスの発展に繋がるはずである。それが本来のスポンサーシップの関係ではないだろうか。そのような観点からも、エコシステムという切り口でスポーツビジネスの大きなポテンシャルを探ることが大切である。

「顧客のどの時間を奪えるか(Time)」

“共感”を顧客に伝える方法が多種多様であるということは、実はいつでも顧客に”共感”を伝えられ、できるだけ多く伝えてロイヤルティを高めることができるということでもある。
つまり、顧客が日々過ごしている時間をできるだけ奪い”共感”を伝えることが必要となる。
我々の生活は、通勤時間、会社にいる時間、食事時間など数多くの区分に分解できるが、例えば通勤時間であれば、ゲームをする代わりに自社のサービスをスマホで使ってもらうように仕向ける、会社にいる時間であれば仕事で使えるようなデータを提供して使ってもらう、などその時間を奪うことは可能である。
このように、競合を「会社」と捉えるのではなく「顧客の時間を奪っているもの全て」と捉えることで、ロイヤルティを高め、収益強化に繋がるサービスの検討の幅は広がると考えられる。

スポーツを観る人であれば、家にいる時間、家を出て駅までに行く時間、電車でスタジアムの駅まで行く時間、駅からスタジアムまでの歩く時間、スタジアムに入って試合が始まるまでの時間、試合中の時間、試合後の時間・・・などに時間が分割される。リーグやチームはそこでどのように顧客(ファン)に価値を提供するかを考えればよい。

上記のSympathy、Ecosystem、Timeを視点としたSET分析は、スポーツのみならず、他の業界においても「コト」ビジネスを創出する上では有効な視点となりえる。

これらの視点はまだまだ新たなものであり、急激に世の中が変化する中で常に精査が必要である。
しかしながら、スポーツ界は急速な成長を期待されているマーケットであり、我々も新しい視点を持って、その成長を牽引していきたいと考えている。

そのためには、SETのようなこれまでの枠組みにとらわれない発想で、我々を含むスポーツビジネスに関わるプレイヤーがそれぞれの強みを連携させて価値を創り出し、マーケットを拡大していくことが必要なのではないだろうか。

執筆者

久保田 圭一

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