企業価値を向上させるESG経営
【対談】JR東日本 常務取締役 伊藤敦子氏×
アビームコンサルティング 今野愛美氏

企業価値を向上させるESG経営


2022年5月17日

持続可能な開発目標「SDGs」の達成に向け、企業にはESG(環境・社会・企業統治)の観点からの取り組みが求められている。このような中で東日本旅客鉄道(以下、JR東日本)は、グループ経営ビジョン「変革2027」にESG経営を組み込み、ヒトを起点とした事業への転換を進めている。企業はESG経営をどのように捉え、取り組んでいけばいいのか。JR東日本のESG経営をリードする常務取締役の伊藤敦子氏と、デジタルの力でESG経営を支援するアビームコンサルティングの今野愛美氏に話を聞いた。

 

10年後の変化を見据えてヒトを起点とした事業に

伊藤 敦子氏

――JR東日本は2018年にグループ経営ビジョン「変革2027」を策定しました。ポイントはどこにあるのでしょうか。

伊藤 背景にあるのは、人口減少と移動ニーズの減少です。東京圏でも人口は緩やかに減少し、東北地方は2040年までに3割近くの人口減少が見込まれています。また、働き方の変化やEコマースの広がり等で、将来は移動そのものが減ると当時から予測していました。東日本エリアで鉄道事業を手がける当社にとっては、経営に大きなインパクトがあります。

 この変化に対応するため、鉄道中心の事業から「ヒト」を起点とした事業へビジネスモデルを転換していこうというビジョンが「変革2027」です。都市を快適に、地方を豊かに、世界を舞台に、の3つが柱となっています。

 もともと10年後を見据えたビジョンでしたが、新型コロナの出現によって10年後の未来が突如目の前に現れ、早急な対応に迫られました。「航海図」をすでにつくっていたことは幸運でしたが、この変化を社員一人ひとりが自分事として捉え、実現のレベルとスピードを上げなければなりません。

 

今野 愛美氏

今野 様々な場所やチャネルで公開されている情報を拝見し、とてもわかりやすいメッセージだと感じました。企業が考える将来の社会の姿を明確に見通して、そこでは自社の価値を変えていく必要があり、そのために足元の変革に取り組んでいこうとされています。ESG経営にはこうしたストーリーラインが重要なのですが、早い段階からそれがつくられていたことは素晴らしいと思います。

 

 

 

 

「ESG活動」ではなく「ESG経営」の実践を

――なぜESGを「変革2027」の中心に据えたのでしょうか。

伊藤 当社は鉄道事業をベースにしているパブリックに近い企業です。鉄道は環境優位性が高く、これまでも事業を通して社会課題を解決し、地方創生にも注力してきました。また、一人ひとりが究極の安全を追求するという姿勢は当社のGovernance(ガバナンス:企業統治)の原点です。このように考えると、環境、社会、統治というESGは、当社の事業そのものだということがわかります。
 

「ESG活動」ではなく「ESG経営」の実践を

今野 「ESG活動」ではなく「ESG経営」になっているところが重要な要素です。従業員個々の価値観と経営や事業とを融合させることは難しいのですが、それがクリアにされています。

 「変革2027」からはESGの中でもGが基盤となっていて、その上でEとSが位置付けられていることが見えてきます。よほど濃い議論があった中で、企業としての存在意義が統一されていったのではないでしょうか。個々のESG活動だけを見るのではなく企業としての意志やメッセージ性を重視した先進的な事例だと思います。

 

「ESG×事業」という発想で様々な取り組みを展開

伊藤 敦子氏

――ESG経営ではどのようなことに取り組まれているのでしょうか。

伊藤 地球環境問題、人口減少、地域経済の衰退など様々な社会課題が顕在化するなか、ESG経営は今後一層重要になっていきます。特に当社の発展は東日本エリアの発展をおいては考えられません。東日本とともに生きていく運命にある企業なのです。

 これまでは主に鉄道運行を通して地域の皆さまと関わってきましたが、今は事業の範囲を広げてローカルでのDX(デジタル・トランスフォーメーション)や地域のまちづくりなどにも取り組んでいます。

 昨年11月にサービス開始から20周年を迎えたSuicaは、多くの方々に受け入れていただき、決済や認証など日常生活の中で利用されています。このSuicaをマイナンバーカードと紐づけて住民割り引きを適用したり、地方のバスでも使える地域連携ICカードを各地で展開する取り組みも進めています。将来はSuicaひとつで街を歩ける、暮らしが整う、そんな世界を創っていきたいと思います。また、「MaaS」(モビリティ・アズ・ア・サービス)によって移動をより便利にすることにも取り組んできました。オンデマンド交通や電子チケットなどの機能を盛り込んだ地域・観光型MaaSを日本各地に展開することで、地域の足をサステナブルに、地方を元気にしていきたいと考えています。

 

今野 愛美氏

今野 ESGは今後の日本企業の価値を高める必須要素です。ESG経営を実践、継続していくためには、ESGと企業価値の関係性を認識し、その向上に結びつけていくことが重要です。そのためには、ESGのみに着目するのではなく、ESGと他要素を融合した「ESG×◯」という発想です。JR東日本はESGと事業の掛け合わせでESG経営を実現しています。

 

 

デジタルの力を駆使して経営管理にESGを組み込む

――アビームコンサルティングは「デジタルESG」を提供しています。これはどのようなソリューションでしょうか。

今野 経営や事業とESGを別々に捉えてはESG経営は実践できません。そこでESGの要素を含む様々な非財務指標を経営管理に有効活用する仕組みとしてデジタルESGを提案しています。経営層が財務諸表に経営データを落とし込んで見るのと同じように、ESGについても可視化させ、企業経営のための判断に資するようにしたいという発想です。

 難しいのは財務諸表のようにオーソライズされた指標やルールがないということです。定性的な情報が多い領域なうえ、企業によっても見ている指標や定義が違っています。そこで自社として重要な要素を突き詰めて、定量的に可視化していくことが必要です。そのためにはデジタル技術を駆使していくことが求められます。

 例えば、環境という面ではCO2の排出量や水の使用量などが指標としてありますし、社会という面では、ダイバーシティーの状況や従業員の働き方、健康経営などの指標があります。これらの情報を収集するとともに、企業価値に与えるインパクトを分析していきます。

デジタルの力を駆使して経営管理にESGを組み込む

伊藤 2020年からグループ全体のESG経営の取り組みを「JR東日本グループレポート」にまとめていますが、ESGに関連した非財務データの分析はこれからの課題です。Wellーbeingの時代、ESG情報の定量化により、企業価値を高めていきたいと思います。

 

ESG経営の課題解決は企業変革そのものに

――今後はどのような展開をお考えでしょうか。

伊藤 ESGのEについては、2020年にグループでの「ゼロカーボン・チャレンジ2050」を宣言しました。今後、その実現のカギは水素の活用です。この春には、水素をエネルギーとして燃料電池で走る「水素ハイブリッド電車」の走行試験を始めます。今後、自営火力発電所での水素発電へのチャレンジや水素ステーションの設置など、様々な企業と連携し、当社としても水素社会の実現にコミットしていきます。

 Sの領域では、首都圏と地方のリアルなネットワークを強みに、ワーケーションの後押しや、多拠点での暮らしなど地方創生に向けた取り組みを進めます。観光はもちろんのこと、新幹線による地域産品のお届けや当社のECサイト「JRE MALL」を通じてのふるさと納税など、モノの交流、ヒトの交流を活発にすることで、地方を豊かにしていきます。また、企業立病院であるJR東京総合病院の建て替えにあたってサステナビリティボンドを活用するなど、ファイナンスにおいてもESG経営を重視していきます。

ESG経営の課題解決は企業変革そのものに

今野 当社の強みは課題解決力とデジタル技術で企業変革を支援できることです。デジタルESGによってESG経営の課題を明らかにした次の打ち手は、継続的な取り組みが実現できるように企業変革を実行することです。そこでも当社の強みを生かすことができます。

 今後は課題を見つけ出して企業変革を実行するというESG経営のサイクル実現を更に進めていきたいと思っています。すでに2019年ごろからいくつかの企業で実施してきました。今後もより多くの企業を支援させていただきたいと考えています。

「ESG経営の実現」は目的ではなく、あくまで企業の持続的な成長を支える基盤です。アビームコンサルティングは、企業が保有するESGを含む非財務情報と企業価値との関係性を解き明かすことで「ESG経営」を実現し、企業の更なる企業価値向上に貢献したいと考えています。

  • ※2022年2月7日~3月6日に日経電子版広告特集にて掲載。
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