IoTが捉えAIが導く
DX推進でバリューチェーンを見直す

※本稿は、アビームコンサルティングの「いま」をお伝えする広報誌『ABeam』2019-20年度版から一部記事を抜粋した内容です。

橘 知志 宍倉 剛

IoTで膨大なデータを集め、AIで分析しても、限られた部署やプロセスでの活用にとどまっていたのでは、価値は限定的だ。バリューチェーン全体をデジタル化するなど、新たな価値や協業の仕組みを創出、ビジネスそのものをデジタルの力でダイナミクスを高めてゆくことが必要となる。その実現に必要な考え方や押さえておくべきポイントを、アビームコンサルティングでIoT分野のリーダーを務める橘知志と、AI分野を担当する宍倉剛の2人に聞いた。

プロセスとプロダクト
製造業のDX に不可欠な2軸

企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が叫ばれて久しいが、業務への導入やPoC(概念実証)に取り組む日系企業が急増し、この1~2年の変化は大きい。例えば製造業では、オートメーション化や自律操業が可能な「未来工場」の構想も具体化しつつある。だが一方で、DXはこれまでのバリューチェーンやテクノロジーとは非連続的なものであり、オペレーションの自動化・自律化など、既存の概念の延長線上にはないことを理解できていない経営層や管理職も少なくない。こう明かすのは、執行役員 プリンシパル P&TDigital ビジネスユニット IoTセクター長の橘知志だ。

「これまでは、自動化が“ものづくり”の未来像と考えられていました。ただ、これは、テクノロジーの進化につれてそれなりにできることが増えたにすぎません。このまま漠然と自動化を進めればよいのか、果たしてそれが勝ち残るための戦略として正しいのか、各企業は考え始めています」

こう話す橘は、デジタルテクノロジーはさまざまな用途に応用できる汎用的ツールであり、導入すれば必ず新たなビジネスが生まれると考えるのは、いささか楽観的にすぎるとクギを刺す。製造業のデジタル化といっても、業務のプロセスや領域によって目的や効果は大きく異なる。例えばロボティクスによるオートメーション化は業務の効率化や生産性向上には役立つが、ビジネスモデルそのものの変革や創出となると、また別のテクノロジーや方法論が必要になってくる。こうして起こるのが、技術導入・活用のサイロ化だ。

「特定の部門だけの導入や、部署ごとでバラバラに使っているのでは、いくら最新のテクノロジーでもバリューチェーン全体の変革は期待できません。製品開発から製造、流通、販売までを一気通貫で結ぶ『プロセス変革』。そして、そこから生まれる新しいビジネスモデルに最適化された製品やサービスを生み出す『プロダクト変革』。製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)は、この2つの軸によってバリューチェーンを再構築することが必要です」(橘)

小さな技術改善も
未来への大きな布石に

では、現在のわが国における企業のデジタル変革の取り組み、とりわけIoTやAIの導入・活用はどのような段階にあるのだろうか。「楽観的なデジタルテクノロジー導入」に疑問を感じ、その先に進みかねているケースは多い、と橘は指摘する。

「今までのやり方では埒が明かないが、具体的にどうしたらよいかが見えていない状態です。私たちへのご相談も、『デジタルテクノロジーの積極活用を検討したいが、どうすればよいのか』といった漠然とした問いが圧倒的です。そこで足掛かりとしてご提案するのが、先に挙げた『プロセス変革』と『プロダクト変革』の2軸で捉える手法です」

これには理由がある。かつて日本の製造業は、圧倒的な製品力で世界の市場を制してきた。だが競争環境は厳しさを増し、製品の力だけでは、勝てる世界が限られてきている。これからは、プロセス変革を見越した臨機応変な対応と、製品に付加価値を与え、マーケットインするプロダクト変革が必要となる。その時に必須なのがデジタルテクノロジーであり、いずれ到達すべきデジタル変革実現のためのステップと考えれば、現時点ではまだ小さな技術改善のためのIoT導入であっても、今後に向けて十分に取り組む意義があるとの見立てだ。

一方で、AIはどうか。事例が多いIoTと比べると、まだまだ理解が進むのはこれからの印象がある。企業がビジネス変革の観点からAIに取り組む場合、何を理解すべきだろうか。数年の推移を見てきたダイレクター P&T Digital ビジネスユニット AIセクターの宍倉 剛は、大きく状況が変わってきたと語る。

「3年前は『AIとは何か?』だったものが、現在は最初から業務に利用するスタンスで取り組む企業がほとんどであり、大きく理解は進んできました。ただ、本格的なディープラーニングのような例はまだ限定的で、従来のデータ活用の延長線上といった状況です。今後、より精度の高い予測や自動化への地盤固めをしている段階といえます」(宍倉)

技術的にはある程度方向性が見えてきており、この先は「いかに自社の業務プロセスをドラスチックに変えていくか」といった、意識変革のレイヤーへ移行すると宍倉は分析する。

2つの未来工場

IoT×AIが実現する
新しい知見

国内でIoTやAI を活用した業務改革のベストプラクティスはあるのだろうか。アビームコンサルティングでは、4年前からあるプリンターメーカーの取り組みを支援してきた。

「この事例は、プリンターの設計開発プロセスを、データドリブンなアプローチで改善するものです。プリンターの稼働データをIoTで収集し、それをAIで分析、発見された課題を設計にフィードバックしています。これによって継続的に設計品質を向上させていくのが目的です」(宍倉)

すでに設計部門と一部の工場内でのデータ利用の仕組みが整ったが、最終的には販売先の顧客の使用機器までを含めたデータ収集とフィードバックの体制構築を目指している。

「ここで重要なのは、集めたデータを評価するアルゴリズムは、一度開発すれば将来的にバリューチェーンのあらゆる場所に展開できる点です。例えば検査部門だけで使っていた評価手法を生産部門や物流部門にも応用すれば、一つのアルゴリズム開発が、バリューチェーン全体の、ひいては企業レベルの業務改革につながっていく可能性があります」(橘)

さらにこのバリューチェーン変革にAIを組み込んでいくことで、単なる業務プロセス改革の枠にとどまらず、より創造的な領域にまで踏み出せると宍倉は付け加える。

「一つの製品のバリューチェーンでも、実際のプロセスは企画、開発、製造などに分断されています。私たちはAI を使って一連のプロセスを横断的に分析し、仮に問題が発生した場合は、どのプロセスに原因があるのかを究明していきます。その結果、開発段階のチェック項目を増やすとか、問題が起きた際の調査手順をルール化することができるようになります。つまりIoTにAIを組み合わせることで、データを収集・蓄積するだけでは見えなかった新しい知見が得られるのです」

ハイテクメーカー バリューチェーンをつなぐ

ビジョン実現に向け
デジタル活用に挑む勇気を

バリューチェーンを通じた横断的なプロセス改革のツールとして、IoTやAIを活用する。この段階が見えてきた今、次に目指すべきはどこか。橘は、「プロセスの差別化」と「プロダクトの差別化」を最も重要なキーワードとする。

「これには、2つの側面があります。1つは自社が何で勝つのか。今後の市場は、日系企業の得意としてきた高品質や高スペックだけでは勝てません。そこで需要予測までを含めたプロセスの最適化が必要になりますが、これはバリューチェーン全体がうまく連携できていないと不可能です。さらに、既存のプロダクトで勝負するのではなく、製品に付加価値を与えて提供し(製品+サービス)、新たな収益源を確保すること。この2軸でビジネス変革させ、ビジョンを実現していくことが重要です」(橘)

そうしたバリューチェーンの差別化に、情報精度の側面から貢献するのがAIだ。例えば企業がインターネット上で広告を配信する場合でも、AIの活用によって対象の絞り込みやパーソナライズにより高精度を実現するなど、プロセス全体に適用されている実例も既に存在している。

最後に橘は、「必要なのは、全体のプロセスを通じて何を実現し、どうビジネスに生かすかというビジョンです。これが明確でないとデジタル変革は困難です。ビジョンが明確なら、テクノロジーはそれを具現化するツールとして強力にドライブしてくれます」とデジタル変革に挑む企業の背中を押す。

IoTやAIそれ自体の活用が目的になったり、プロダクトや一部のプロセスがデジタル化したりするだけではDXは達成できない。ゴールにあるのは、プロセスやサプライチェーン全域、すなわちビジネス自体のデジタル化であることを認識しなければならない。

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