「人材データ」とデジタルテクノロジーを活用
人材マネジメントはピープルアナリティクスへ

※本稿は、アビームコンサルティングの「いま」をお伝えする広報誌『ABeam』2019-20年度版から一部記事を抜粋した内容です。

全 大忠

全 大忠

P&T Digital ビジネスユニット
HCM セクター
ダイレクター

ビジネスのグローバル化と複雑化を背景に、人事領域においてもその環境の変化に柔軟かつ迅速に対応することが求められている。そのために、人事部門に閉じていた人材データを、意思決定や人材育成、生産性向上など、さまざまな局面で活用できる仕組みに注目が集まっている。人材データと最新のテクノロジーを組み合わせた「ピープルアナリティクス」の可能性について、数多くの企業の人材マネジメントを支援してきた全大忠が解説する。


閉ざされた静的データでは
これからの人事は語れない

タレントマネジメントの概念は決して新しいものではありません。すでに「人材の見える化」などに取り組んでいる企業もあるでしょう。取り組みの早い企業であれば、次のフェーズとして「グローバルでの人材の見える化」まで進めているところもあります。ただ、中身を見てみると「どこに誰がいるか」といった段階にとどまっていることも少なくありません。

最近になって企業から、「人材に関して蓄積しているデータを活用できないか」という相談を受ける機会が増えています。背景の一つに働き方改革があります。長時間労働の是正だけでなく、生産性を向上させることも大きな目標です。そのためには社員の才能を引き出し、より高いパフォーマンスを発揮できる環境を整えていく必要があります。

社員の評価や業務のアサインを適正に行うには、一人一人の詳細なデータが不可欠です。しかし多くの企業では、これが「人事部門に閉ざされたデータ」であり、かつ「静的なデータ」となっています。

「人事部門に閉ざされたデータ」は、そのデータに経営層や事業部門がアクセスすることができないため、採用や配属、異動などが人事部門任せになってしまいます。情報の共有不足から「人事は現場のことが分かっていない」「せっかく採用した優秀な人材を現場がつぶしてしまう」という声につながりかねません。

一方「静的なデータ」は、データそのものの更新頻度が低いことを指します。氏名や入社年次、所属部署などの基本情報の他、評価、資格、受講研修、適性検査などのさまざまな情報があったとしても、年に1回、半年に1回といったアップデートでは、変化を十分に捉え切れません。

会社に対する不満が募って優れた人材が辞めてしまう、あるいはメンタルヘルスの不調で入院するといった事態を未然に防ぐには、直近の変化をタイムリーに反映できる動的な人事データ基盤が必要なのです。

人材のマネジメントは年々複雑化しています。要因の一つに、社員の働くことに対する価値観の多様化が挙げられます。これまで社員の満足度を向上させるには、昇給や昇格などの物質的欲求、自己顕示欲求を満たせば解決することも多かったのですが、お金よりも親和欲求や学びの欲求、やりがいや承認欲求が強く、それらの充足を目指してパフォーマンスを発揮する人材が増えています。

このような社員には、インセンティブを示しても響きません。会社側と意識がマッチしなければ離職の要因にもつながりかねません。社員のパフォーマンスを上げるためには、個々のこうした特性に合わせた緻密な人材マネジメントが求められる時代になっているのです。

他方、企業のビジネスを取り巻く環境がグローバル規模で急速に変化していることも、人材マネジメント高度化が求められる要因になっています。多様なバックグラウンドを持つ人材が共に働くようになり、単一の価値観では判断できなくなったのです。

人材データとデジタルテクノロジーを
掛け合わせる最新の試み

社員の中には「上司の関与度を減らした方が高いパフォーマンスが得られる」タイプもいれば、「上司が積極的に関与した方がよい」タイプもいます。それぞれの特性に合わせたコミュニケーションは容易ではありませんが、それを手助けするのがデータです。

例えば「要関与タイプ」の社員にも関わらず、上司が出張などで一定期間会話ができていないなら、メールなどでフォローする必要があるでしょう。ここで大切なのが、情報を上司が自分で確認しなくても、自動的にアラートが発信される仕組みになっていることです。

今回アビームコンサルティングが、SAPジャパン、日本マイクロソフトと共同開発した「Advanced workforce analytics solution for talent management」は、こうしたことを可能にするものです。

Microsoft 365の電子メールやカレンダーから得られる社員の活動量を分析、組織内の連携や時間の使い方に関する知見を得ることができるWorkplace Analytics と、人事に関する業務からタレントマネジメントまでを総合的にカバーするSAP® SuccessFactors®の機能を組み合わせて完成させたピープルアナリティクスのツールです。

これにより社員の適性検査などの特性と、上司や同僚との会議・メールなどのコミュニケーション頻度を組み合わせた分析が可能になります。例えば、上司とのコミュニケーション量が多いメンバーと少ないメンバーの資質(性格)をクロス分析し、評価を比較することもできます。

この他、評価の高い社員と低い社員でメール、会議、フォーカス時間(高い集中力でテーマに対応する時間)の配分がどのように異なるか、といったことも可視化できます。このようなデータを分析することで、適性の低い社員の成果を高めたり、新しく着任した部下の特性に合わせたマネジメントができたりするようになります。

ただ、ここで大切なのは「自社の成長戦略を実現するためにどのような人材が必要なのか」を見極めることです。その上で人材を発掘して育て、起用をアシストする仕組みを構築しなければ意味がありません。多くの企業の人材マネジメントを見てきた経験から、強くそれを感じます。

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