DXの「目的」が問われている
デジタル産業革命を乗り越える企業変革とは

※本稿は、アビームコンサルティングの「いま」をお伝えする広報誌『ABeam』2019-20年度版から一部記事を抜粋した内容です。

宮丸 正人

宮丸 正人

戦略ビジネスユニット長
経営企画グループ長
執行役員
プリンシパル

いま、DX(デジタルトランスフォーメーション)は、その「目的」が問われている。デジタル産業革命によるビジネスのパラダイムシフトは、20世紀を生き抜いてきた世界中のエンタープライズ企業にゲームチェンジを迫っている。アビームコンサルティング 戦略ビジネスユニット長の宮丸正人は、次の10年を見据え、既存企業のDXには、「自分ごと」のゲームチェンジに挑むマインドセットと、「合目的」な自己変革へのアプローチが必要であると説く。

パラダイムシフトを
乗り越えるためのDX

DX(デジタルトランスフォーメーション)はスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が2004年に提唱した「ITの浸透が人々の生活をあらゆる面でよい方向に変化させる」という概念に由来します。そこから14年が経過した2018年 12月、経済産業省は、DX推進ガイドラインの中で、 DXとは、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しました。

その後、2019年7月には、デジタル経営変革のための「DX推進指標」と「DX推進における取締役会の実効性評価項目」も公表されています。日系企業のDXに関する経済産業省の考え方の背景には、政策的な思惑も含めてさまざまな文脈が存在しますが、一言で表現すれば、「日系企業は、このままではデジタル産業革命の到来によるパラダイムシフトを乗り越えられないので、正しくDXに取り組むことによって、抜本的な自己変革を加速させなさい」ということになるのではないでしょうか。確かに、デジタル技術の指数関数的進化によって起きつつあるパラダイムシフトが、既存企業のビジネス環境に与えるインパクトは大きく、変化のスピードも速いことから、多くの既存企業は、過去と未来の関係を不連続に捉えることを迫られています。

「自分ごと」のゲームチェンジ
DX に取り組むマインドセットが大切

DXをテーマにお客様と議論する機会は年々増えています。その際、一番重要になるアジェンダは、その「目的」だと思います。議論の場で企業の経営層や経営企画の方々に、デジタル革命は、過去の産業革命に匹敵する大きなパラダイムシフトと認識していただいたら、私からこうお伝えします。「パラダイムシフトの先にあるゲームチェンジ後の世界でも『需要(Demand)』を創造し続けることをDX の「目的」と位置付けるべきではないでしょうか」と。

そして、この未来の需要を創造し続けるために、「組織としてDXに取り組むマインドセットをどのように醸成するか、一緒に検討しましょう」と申し上げます。また、DXに取り組むマインドセットとして、「(A)デジタル革命による『脅威』に備えてあらゆることを『Ready』な状態にしよう」と考えるか、「(B)デジタル革命による『機会』を捉えて新しいゲームの世界に『Move』しよう」と考えるか、どちらを選択するかがマインドセットの分岐点になるはずです。

恐らく、前述の経済産業の「DXの定義」や「DX推進指標」の背景にある考え方は、(A)に近いのではないでしょうか。とにかく脅威に備えるマインドセットです。一方、私の講演やセミナーに参加する方の95%以上は、(B)を選択します。個人としても、組織としても、主体的に自らの未来を創造したいという本能的な思いが(B)を選ばせるのだと思います。

既に未来に向けた自分たちの存在意義を「パーパス」や「ビジョン」として再定義する既存企業は増えています。デジタルの発展がもたらすパラダイムシフトを新たな「機会」と捉え、実現したい未来を旗印にすることで、「自分ごと」のゲームチェンジとしてDXに取り組むマインドセットを醸成することが求められています。

「合目的」な自己変革への
アプローチが重要成功要因

既存の組織にとって、DXによる自己変革の道は険しいものになるはずです。なぜなら、ゲームを勝ち抜くために蓄積しきた、あるいは最適化してきた、これまでの資産や価値創出の仕組みが、新しいゲームの世界では足かせになるからです。大きな変化が求められる時、組織が抱える「現状維持バイアス」とも言うべき足かせを乗り越える手段として、経営戦略論の世界では、「両利きの経営※1」、すなわち新旧ビジネスの進化と深化をマネージすることにスポットを当てた考え方や、「DX実行戦略※2」のように既存の組織のもつれを解消することにスポットを当てたものなどに注目が集まっています。

いずれの戦略・アプローチもDXを成功に導くという意味で重要な視点やアプローチ方法を示していますが、これらが、全ての既存企業や既存組織に有効なわけではありません。定める未来も、これまで蓄積したアセットやリソースも企業ごとに違うからです。

では、DXを成功に導く自己変革アプローチとはどのようなものでしょうか。私たちは、変革アプローチにおける各活動が、とにかく「合目的」であることが成功要因になると考えています。パラダイムシフト後の世界で「需要」を創出し続ける、本源的な目的に適合する活動こそが、DXプロジェクトの中核になるはずです。私たちが実践する「合目的な」変革活動を例に挙げると、①未来の構想を描き、ストーリーを紡ぐこと、 ②デジタル(な世界・手段)をとことん活用して、実際に未来の「需要」に迫る活動を繰り返すこと、③組織をパラダイムシフトの先へと駆動する固有の変革プログラムを持つこと、④「合目的」な変革活動を継続する経営チームの決断力と実行力をバージョンアップし続けることなどになります。

加えて、これらの活動を通じて素早く試行錯誤を繰り返す組織へ変貌すること。これが既存の組織のDXを成功に導くもう一つの重要成功要因となるはずです。

  • ※1『両利きの経営』チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン(著)より
    ※2『 DX 実行戦略 デジタルで稼ぐ組織をつくる』マイケル・ウェイド、ジェイムズ・マコーレー 、アンディ・ノロニャ、ジョエル・バービア (著) より

執筆者

page top