組織全体をつなげ破壊される競争構造に向き合う

赤石 朗

モバイル、クラウド、ソーシャルメディアを前提に、デジタルトランスフォーメーション(DX)時代のビジネスモデルを構築するディスラプター(創造的破壊者)が、ビジネスの競争構造に大きな変化をもたらしている。この変化に対応するためには、グループ全体で組織がつながっていること、さらには顧客とも強固な接点でつながっていることが求められる。

赤石 朗

P&T Digital ビジネスユニット長
プロジェクトサポートグループ長
執行役員 プリンシパル

今は「前DX時代」まだグループ全体がつながっていない

企業の基幹システムにコンピューターが本格的に入ってきたのは、1980年代後半のこと。当時は、購買システム、会計システム、販売システムなど業務ごとに区切られた仕組みの中でシステム化が進みました。アナログ処理をデジタル処理に変えた「デジタイゼーション」の時代です。

1990年代後半からERPのように全体的に統合された仕組みに変わり「デジタライゼーション」の実現期となりビジネスプロセスが一貫した仕組みで動く時代になりました。ただ、一つの組織の中はデジタライゼーションによりつながりましたが、子会社、関係会社を含めたグループ全体は、必ずしもつながってはいない状態でした。

2010年頃からデジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が叫ばれるようになり、そこで初めて、実はデジタライゼーションがきちんとできていなかった、つまり、まだグループ全体がつながっていなかった、ということに多くの企業が気付かされることになります。

例えば、製品や勘定項目などのコードが事業を展開している国によって違っていると、在庫がどういう状態なのか、どれだけ利益が出ているのかを迅速かつ正確に把握することはできません。今はこうした「前DX時代」とでも呼ぶべき状況にあると考えています。

一方、コンシューマーの環境に目を向けると、2000年代は本格的なインターネット時代の幕開けとなりました。個人が高速通信を行えるネットワーク環境が広く普及し、誰もがどこにいてもつながる状態になりました。それを追い掛けるようにして企業もWebシステムを構築し始め、個人と企業の初期のコネクトが始まりました。

そして2010年代はモバイル、クラウド、ソーシャルメディアが個人に根付き、ここでも一歩遅れて企業システムにもその波が押し寄せます。いわゆるコンシューマライゼーションの波です。

海外進出の過程で生じたデジタライゼーションの不完全性を解決しDXへ

デジタライゼーションの遅れ、あるいは不完全性が浮き彫りになった大きなきっかけの一つが、グローバル化の進展です。

1990年代以降、日本企業の海外進出が加速しました。進出先市場が増えると、生産拠点も増えていきます。ある国で構築したシステムを他の国にも展開していくうちに、いろいろなシステムを継ぎ足していくことになり、気が付けば元のものとは似て非なるシステムが混在する状態になってしまい、その過程でコードの標準化・統一も形骸化してしまった。あるいは、M&Aでいろいろな会社をグループ内に取り込んでいくうちに仕組みがばらばらになってしまった。そういうケースをよく耳にします。いずれにせよ、海外進出によって、デジタライゼーションの不完全性を、多くの企業が痛感することになったのです。

国ごとにばらばらの仕組みで動いていると、月次、週次の数字を確認したくても、連結ベースで見られるのは2週間先、3週間先といったことが起こり得ます。もちろんこれでは迅速な意思決定はままならず、スピード経営は不可能です。

ではどうすればよいのでしょうか。同じシステム基盤上で同じコードで統合された仕組みを持っていること、つまりデジタルでつながっている必要があるのです。こうしてグローバルにデジタルでつながっている状態、デジタライゼーションの実現があってこそ、次のステージであるDXへと進めるわけです。今の日本企業は、いち早くこのステージに到達する必要があります。

しかし一方でDXのステージは、スピード経営を競うディスラプション(創造的破壊)のステージでもあります。

ウーバーテクノロジーズやエアビーアンドビー、そして国内でも、アメリカに進出を果たし、日本のベンチャー企業として初めてユニコーン企業(評価額が10億ドル超の非上場のベンチャー企業)になったメルカリなど、従来の競争構造を破壊するディスラプターと呼ばれる新興企業が、あっという間に市場を奪い去っていくステージです。求められる経営のスピードは格段に速くなります。

DX時代のディスラプターに共通しているのは、起業当初からモバイル、クラウド、ソーシャルメディアが存在する環境を前提としてビジネスモデルを構築していることです。それらにより、彼らの経営スピードはこれまでの企業と比べ圧倒的に速く、顧客との接点も非常に強固なのが特徴です。

エンタープライズシステムがクラウドにつながれば企業はDXへとシフトする

では、従来型のエンタープライズシステムで日々の事業活動を行っている企業が、ディスラプターたちの経営スピード、顧客接点の強さに対抗するにはどうすればいいのでしょうか。

その答えは、クラウド化にあると私たちは考えます。既存のエンタープライズシステムの拡張やバージョンアップで戦おうと思っても、DX時代の経営のスピードにはついていけません。しかしクラウド基盤なら、最新のテクノロジーやベストプラクティスが次々と提供されており、そのサイクルは驚くべきものがあります。これらをフルに活用すれば、ディスラプターのスピードに伍する経営が可能です。クラウドを活用してエンタープライズシステムをグローバルに「つなげる」ことは、これからの成長の大きなカギとなります。

私たちはクラウドとエンタープライズシステムの組み合わせによるグローバルなグループ全体のつながりが、スピード経営を求めるDXのステージでも競争優位を発揮すると考えています。この先は、ユーザーが好みに合わせた製品を個別に発注し、すぐに生産・発送ができるなど、エンタープライズシステムとコンシューマーがつながり、サプライチェーン全体がコネクテッドの方向に向かっていくだろうと考え注視しています。

いずれにしても、DX時代を力強く疾走する企業が1社でも増えるよう、私たちも支援していきたいと思っています。

執筆者

赤石 朗

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