ステークホルダーとの共創DXで
ビジネスイノベーションを加速する

(DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー)

2022年5月19日

2018年に全社横断の専門組織としてDX(デジタル・トランスフォーメーション)センターを発足させた住友商事は、その後、DX技術専門会社の設立、コーポレートベンチャーキャピタルの立ち上げなど変革への動きをいっきに加速させ、2020年には総合商社として初の「DX銘柄」に選定された。

 未来のあるべき姿に向けてDXプロセスを確立する方法論について、同社DXセンター長の芳賀敏氏とアビームコンサルティングの山田貴博氏が意見を交わした。

ステークホルダーとの共創DXでビジネスイノベーションを加速する

住友商事の芳賀敏氏(左)とアビームコンサルティングの山田貴博氏

 

DXセンターが横串を通し事業部横断で価値を創出

山田 御社は2018年にDXセンターを発足されましたが、大手総合商社で初めて全社横断のDX推進組織を設立した狙いは何だったのでしょうか。

芳賀 当社には現在、金属、輸送機・建機、インフラなど6つの事業部門があります。顧客起点で提供価値を高めるには事業部門の枠を超えて対応しなくてはならないケースが増えており、2015年頃から事業部に横串を通す組織の必要性を議論していました。

 そうした中、デジタル技術をベースに台頭したディスラプターが、既存事業の存続を脅かす場面がさまざまな業界で見られるようになり、我々も先手を打って変化しなければならないという危機感が高まりました。そこでグローバルに横串を通す組織として、DXセンターを立ち上げました。

山田 大手企業といえども、新興プレイヤーと同様にデジタルを基盤としてビジネスプロセスやビジネスモデルを聖域なく変革していくことが必要で、DXセンターを軸にそうした変革に他社に先駆けて取り組み始めた御社の経営陣には、不退転の決意を感じます。

芳賀 DXセンターを立ち上げてから最初の2年は、RPAやAI-OCR(注)などのツールを導入し、業務プロセスの効率化と本格的なDXに向けた環境整備に取り組みました。

(注)RPA=ロボティック・プロセス・オートメーション、AI-OCR=人工知能による光学文字認識。
 

 当社グループには約935の事業会社があり、幅広い産業分野でグローバルな現場、顧客接点を持つことが大きな特徴です。そして、それぞれの現場をデジタルでつなぐことで、新たな価値を創出できることが独自の強みでもあります。そこで、この1年半ほどはそれぞれの現場でデジタル技術やデータを活用し、どう価値を生んだかを、再利用可能なユースケースとしてまとめる作業や、総合商社ならではのデータ/デジタル技術を用いた事業開発プロセスの整備も同時に進めています。

 

芳賀 敏氏

山田 DXを支えるテクノロジーはさらに進化し、DXで解決すべき課題もビジネスの現場から社会レベルの課題へと広がっています。御社におけるDXのスコープも変わってきていますか。

芳賀 中期経営計画「SHIFT2023」では、2021年度からの3カ年をDXによる事業創造フェーズと位置づけ、「次世代エネルギー」「社会インフラ」「リテイル・コンシューマー」「ヘルスケア」「農業」の5つを次世代成長戦略テーマとしました。

 産業、事業軸でのDXに取り組み、事業変革をいっそう加速させるとともに、戦略テーマ軸での事業創造を強化し、住友商事グループ全体のトランスフォーメーションを進めます。

 

業界の枠を超えた知見と先端デジタル技術を掛け合わせる

山田 コア事業での提供価値を向上させると同時に、たとえばSDGs(持続可能な開発計画)などの社会課題を解決することで、新たな企業価値と社会価値を創出していくステージへと移ってきたということですね。DXセンターが果たすべき役割や能力も進化が求められるのではありませんか。

山田 貴博氏

芳賀 その通りです。DXセンターは、DXコンサルティング、コーポレートITのほか、DX技術専門会社であるInsight Edge、データマーケティングのSC Digital Media、そしてイスラエル、米国、欧州、中国に拠点を持つコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)も内包しています。

 現場での課題抽出からDX戦略の立案、デジタル技術の実装までを一貫して支援できる総合力をこれまで以上に発揮しつつ、グループIT企業のSCSK、アビームコンサルティングなどの外部パートナー、そして先端技術・サービスを持つスタートアップなどとのオープンなコラボレーションをもっと進めて、DXプロジェクトのクオリティとリターンを高めていきます。

 そのためにいま取り組んでいることの一つが、DXセンターのメンバーが事業会社の現場にもう一度深く入り込んで、グループ全体での価値創出という観点からあらためて課題を洗い出し、DXによってどれだけ価値を高められるのか、そのためにどれだけの投資が必要なのかを具体的な計画に落とし込み、各事業会社の経営陣に提案、実行していく活動です。

山田 たとえばスーパーマーケットやドラッグストアなど、複数事業を横断して顧客起点のビジネスモデルへと変革するようなDX、あるいは脱炭素、MaaS(Mobility as a Service)のように産業やバリューチェーンを超えて多岐にわたるステークホルダーが関わるテーマにおいて、プロジェクトマネジメントを経験することで、御社のDX人材がより高度化していきます。そして、異なる企業同士をデジタルでつなぐことで、新たな価値創出の機会も増えていく。幅広く多様な現場を保有する御社の強みを存分に活かすことにつながる取り組みだと思います。

 より大きな価値を創出するには、生活者や顧客企業、あるいは社会がまだ気づいていない課題を見つけ出し、それを解決していく必要があります。SDGsなどの社会課題への対応も、投資家視点を超えた事業運営上の変革の必要性が増していくでしょう。その時に重要となるのは、生活や産業、社会の10年後、20年後のあるべき姿からバックキャストしてビジネスをデザインできる組織能力です。

芳賀 そのためにも我々はもっと現場に入って、生活者や顧客が気づいていない課題を洞察していくことが大事です。一方で、我々の組織能力だけでは限界がありますから、生活者や幅広い業界の知見、デジタルやデータ活用の実践知を持つ外部パートナーとの共創を強化していく必要があり、その点でもアビームさんに期待しています。

 加えて、当社のグローバルなCVCネットワークを通じて、イノベーティブなスタートアップとの連携機会をもっと増やしたい。たとえば、成長戦略テーマの一つである次世代エネルギーの分野でいえば、グリーンエネルギー、蓄電池、VPP(仮想発電所)といった領域に強いプレーヤーがどこにいるのか、テーマごとに一目でわかる俯瞰図をもとに、スタートアップなどとの連携を深めています。

山田 現在の提供価値と未来のあるべき姿を実現するために必要な価値創造、そして、そのギャップを埋めるために必要な共創とイノベーションをプロットした相関図をつくることができれば、ビジネスイノベーションプロセスの確立に大きく近づくことができるはずです。最後に、DXを通じて住友商事をどのような存在にしていきたいですか。

芳賀 業界の枠を超えた知見と先端デジタル技術を掛け合わせて、ビジネスを変革・創造する「デジタルソリューション総合商社」として、SDGsを含めた社会課題を解決する存在になりたいと思います。

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