マーケティング施策/新規事業を成功に導く
Design×Research

本稿では、日本企業のマーケティング施策策定/新規事業進出に対して、Design×Researchが有効な手段の1つであることを解説したい。

1. 利益とその使途のトレンド

日本企業において、企業が一事業年度で得た最終利益である当期純利益は、リーマンショック前の2007年度を100として指数化すると2018年度には2.73倍へと増加している。
当期純利益の有効な使途は、「株主への分配」、もしくは「企業成長への投資」である。「株主への分配」を示す配当金は、同期間2.21倍に増加している一方、「企業成長への投資」を示す設備投資、及び研究開発費は、それぞれ1.14倍、1.04倍と著しく低い増加率に留まっている。

<当期純利益・配当金・設備投資・研究開発費の推移>

利益とその使途のトレンド
  • 2007年度を100として指数化
    2007年度の当期純利益、設備投資、配当金は金融・保険業を除く
    研究開発費は年度ではなく暦年
    出典:法人企業統計調査、科学技術研究調査よりアビームコンサルティング作成

2.「企業成長への投資」に資金が回らない背景

なぜ、「企業成長への投資」に資金が回らないのだろうか。
ここでは企業成長を売上拡大と捉えて、人口増加期と人口減少期に分け、それぞれの投資要因について考察する。
人口増加期には、市場規模が成り行きで拡大するため、企業は業界シェアを維持しさえすれば、売上も拡大する。そのため、既存事業の拡張に投資して、業界シェアを維持しさえすればよいので、投資に踏み出しやすい。
一方で、人口減少期には成り行きでは市場規模が縮小するため、業界シェアを維持したとしても、売上は減少する。人口減少期にある現在の日本で企業成長を実現するには、業界シェア拡大に向けたマーケティング施策の策定、もしくは市場開拓に向けた新規事業の立上げへの投資が必要である。どちらの手段も、これまでの方法の枠組みを超えたアイディアや発想による新しいアプローチを求められるが、アプローチの有効性を裏付けるファクトがない、または想定できないリスクがありうるため、容易に投資へ踏み出せない。

3. Design×Researchの概要

当社は新たなアプローチを検討する際に、その有効性を裏付けるファクトやリスクの具体化と極小化を図ることのできる方法論として「Design×Research」を提唱している。

Design×Researchの特徴は、確度の高い仮説の「Design」、分析を前提とした市場の「Research」による仮説検証により、高い成功確率の「Approach」となる事業方針策定ができることである。Design×Researchの成功要因は、既存及び新規事業立ち上げ先の知識を有する業界有識者、HCM(ヒューマンキャピタルマネジメント)、CRM(カスタマーリレーションシップマネージメント)、ITシステム等の専門家(以下、「サービススペシャリスト」とする)、様々なアンケート/インタビュー等の調査経験があるアナリストを揃えたうえで、自社のビジネスや業務を把握している企業担当者とのワークショップ(協議)を実施することにある。

業界有識者は、顧客の既存業界全体及び競合の動向に対する知見や差別化に繋がるアイディア、新規事業立ち上げ先の業界動向に対する知見により、新しいアプローチ方法の策定を支援する。サービススペシャリストは、事業方針策定に求められる専門分野(HCM、CRM、ITシステム)に対する知見や最新情報の提供により、新しいアプローチ方法の実現手段策定を支援する。また、アナリストは、数多くのアンケート/インタビュー等の調査経験から蓄積した調査票の設計・分析手法により、新しいアプローチ方法におけるターゲティングやプロモーションの成功確度を高める施策策定を支援する。
通常の仮説検証を前提としたマーケティング手法では、自社内の社員のみで過去の経験に基づく知見からアプローチ方法を策定するため、独自性に欠けたアプローチ方法や具体性の乏しい施策になりやすい。業界有識者、サービススペシャリスト、アナリストを揃えたうえで、Design×Researchの方法論を活用することにより、独自性のある新しいアプローチ方法やその具体的な施策の策定が可能になる。

 Design×Researchは、仮説の「Design」から始める。「Design」は「事前調査」と「仮説立案」のステップに分かれる。「事前調査」では、既存事業や新規立ち上げ先の業界の動向を分析する。「仮説立案」では、「事前調査」の調査結果を様々な角度から議論して仮説を立てていく。
企業担当者だけではなく、業界有識者、サービススペシャリストを交えたワークショップの実施により、既存の業界を超えたアイディアや発想による独自性の高い仮説立案、客観的な事実による確度の高い仮説立案が可能になる。

次に「Research」は、「調査設計・実査」、「仮説検証」のステップにより構成される。「調査設計・実査」では、アナリストが設計した質問内容に基づき、実際に市場へのインタビューやアンケート調査を実施する。「仮説検証」では、アナリストが調査結果を分析してわかりやすい図表や適切な表現の解釈にしたうえで、仮説に対する検証結果とその判断理由を明確にする。
ここでは専門のアナリストによる見込顧客のセグメント(個人:性別、年齢、金融属性等、法人:売上高、取扱商品、取引金融機関等)や具体的な施策(Product、Price、Place、Promotion等)による分析を前提とした調査設計を行うことにより、期待効果の高い見込顧客や施策の示唆導出が可能になる。

最後に「Approach」の「方針策定」では、「Research」から導き出された示唆を基に、新しいアプローチの事業方針を策定する。
ここでも企業担当者だけでなく、業界有識者、サービススペシャリストを交えたワークショップを行うことにより、期待効果やコストを考慮した実現性のある方針策定が可能になる。

<Design×Researchの全体像>

Design×Researchの全体像

4. Design×Researchを活用した事例紹介

新規顧客への金融商品販売を狙ったマーケティング施策策定について、Design× Researchを活用した金融機関に向けた当社事例を紹介する。

ある金融機関では、新規顧客への金融商品販売が拡大しておらず、既存顧客の高齢化や相続発生で、金融商品残高の減少や資金流出に悩んでいた。そこで、新規顧客開拓を目的としたマーケティング施策策定に、Design×Researchを活用した。

まず、「Design」では、企業担当者と、業界有識者としての当社コンサルタント(リテール金融担当)との事前調査を基にしたワークショップにより、金融商品の枠を超えた「世帯全体の収支診断」サービスの提供と、そこから得られる顧客情報を活用した新規顧客獲得といった独自性のあるマーケティング施策の仮説を立案した。
次に「Research」では、仮説検証した結果により、「世帯全体の収支診断」サービスの提供による新規顧客獲得の有効性を確認しただけでなく、そのサービスに同じ年代平均値との比較を可能にする機能の追加により、さらに興味・関心を惹きやすくなることを明らかにした。加えて、結婚や出産等のライフイベント後の顧客層が金融商品に対して高い購入意欲があること、この顧客層に対してインターネット広告によるアプローチ手段が効果的であることを分析結果として明らかにした。
最後に「Approach」では、改めて企業担当者、当社コンサルタント、ITシステムのサービススペシャリストを交えたワークショップを行い、インターネット広告から結婚や出産等のライフイベント情報を収集して、顧客管理システムに登録を行い、「世帯全体の収支診断」サービスをライフイベント後の顧客に提案する施策の実現方法とロードマップを策定し、投資対効果の有効性を明らかにしたのである。

このようにDesign×Researchは、企業担当者、業界有識者、サービススペシャリスト、アナリストを揃えることにより、「企業成長への投資」に踏み出すために求められる確度の高い事業方針策定を可能にする。

<Design×Researchの事例(一部)>

Design×Researchの事例(一部)

総合コンサルティングファームであるアビームコンサルティングでは、金融/社会インフラの業界有識者、業界横断で特定サービス領域を専門とするサービススペシャリスト、アナリストといった1つの企業で全てを揃えることが難しい多様な人材を擁しており、これまでにもDesign×Researchの活用により、マーケティング施策策定/新規事業進出を多数支援している。

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