スタートアップとの真の「共創」を実現するために
~事業化につながるPoCへの取り組み方~

2022年4月12日

近年、様々な外部環境の変化を受け、多くの事業会社がスタートアップとの連携による新規事業創出に、加速度的にチャレンジしている。そうした中、PoC(Proof of Concept/実証実験)は、事業会社とスタートアップの協業における具体的な取組みの第一歩として位置付けられ、新しい技術やビジネスモデルの有効性を検証する手段として活用されている。
本インサイトでは、事業会社がスタートアップとの連携による新規事業を検討するプロセスの中で、「PoCを通じた検証とアイディアのブラッシュアップ」に焦点を当て、事業会社が直面しやすい課題と解決策について考察する。
なお、PoC実施の前段となる「アイディアの”種”発掘」と「ビジネス案作成」のプロセスについては、『スタートアップとの真の「共創」を実現するために ~出会いからPoCに至るまで~』(前編後編)を是非ご覧いただきたい。

1. 新規事業創出およびその中でのPoC実施にかかる世の中の動向

多くの企業が新規事業創出に向けたPoCに取り組む一方で、PoC実施まで辿り着くのに困難を伴ったり、あるいはPoCを実施できても、結果を評価し、事業化につなげていく過程において、様々な壁にぶつかったりするケースが散見される。例えば、「PoC実施の社内承認に時間がかかる」、「PoC自体がスムーズに進まない」、「PoC結果の評価が難しい」、「PoCの次の事業化検討に進まない」といった声が事業会社から聞かれる。
実際、アビームコンサルティングでも、事業会社とスタートアップの双方から、PoC企画・推進の支援相談や、ワークショップ実施依頼などを頂く機会が増加している。
 

図1 PoC実施~事業化検討の過程で事業会社が直面する「壁」の例

図1 PoC実施~事業化検討の過程で事業会社が直面する「壁」の例

2. PoC実施において事業会社が直面しやすい具体的な課題

上述した壁に事業会社がぶつかる理由の一つとして、新規事業検討プロセスを十分に意識せずに検討を進めてしまうことが挙げられる。その壁を乗り越えるためには、当該プロセスを念頭に置いた上で、先を見通しながら、必要な検討を確実に行うことが求められる。そこで、本インサイトでは、事業会社の新規事業検討プロセスを以下の「①アイディアの”種”発掘」「②ビジネス案作成」「③検証とブラッシュアップ」(=PoC実施など)「④事業化」および「⑤収益化」の5つのプロセスに分けた上で、今回は、アイディアを事業化につなげていくために重要なステップである「③検証とブラッシュアップ」に焦点を当てていきたい。
 

図2 事業会社の新規事業検討プロセス(例)

図2 事業会社の新規事業検討プロセス(例)

本プロセスで事業会社が直面する様々な課題のうち、「PoC実施から事業化につなげるためには」という観点で、アビームコンサルティングのプロジェクト実績などを基に、以下の2つの課題を取り上げたい。

a. 「PoCを実施すること」自体が目的化してしまい、その先にある事業展開プラン(=サービスイメージ、事業化・収益化のシナリオ案など)の検討がなく、次に進めない

b. 仮にPoCが「失敗」に終わった場合、この「失敗」を十分に活かしきれず、「かけたリソースやコストが無駄だった」と見なされてしまう
なお、この「失敗」は、PoCが中断してしまうケースと、PoCで想定された結果が得られなかったケースのいずれも想定

3. 課題に対する解決策

前項で掲げた2つの課題に対する有効な解決策について、「新規事業検討プロセスを意識しつつ、工夫しながら事業化に繋げる」という観点で、アビームコンサルティングのプロジェクト実績・経験、および携わった事例などを基に一例を挙げる。

課題a. “「PoCを実施すること」自体が目的化してしまい、その先にある事業展開プラン(=サービスイメージ、事業化・収益化のシナリオ案など)の検討がなく、次に進めない”に対する解決策

解決策a.- ① PoCのゴール・期待値をすり合わせる
PoCのゴール(何を検証し、検証結果を次フェーズにどのように繋げるか)や期待値は、企業間だけでなく、時には同じ企業内でも同じチーム内でも個々にイメージが異なる。そのため、PoC開始前に、事業会社・スタートアップ間で議論し、共有することは非常に大切である。まず、事業会社側が、自社の狙い・想いと共に、制約・希望条件(期間・予算・人員体制など)をスタートアップ側に明示した上で、スタートアップ側も「自分たちは何をどこまでできるか(技術・リソース面の制約含め)」「PoCとその後の展開で何を期待するのか」を事前に事業会社に明確に伝えることが重要だと考えられる。
この段階で、事業会社とスタートアップのいずれか一方の意向のみが優先されたり、一方が過大な期待を抱いたりすると、PoCを進める中で「こんなはずではなかった」という状況に陥ってしまう可能性がある。互いの立場・意向を相互に理解・尊重し、率直に話し合える信頼関係を築くことも、PoCから事業化に進めるための一つの鍵となる要素である。

解決策 a.-② PoC前の「アイディアの”種”発掘」~「ビジネス案作成」のステップを大切にする
事業会社がスタートアップと出会った後、「とりあえずPoCを行う」ことを目指すのではなく、PoCに至る前の「アイディアの”種”発掘」~「ビジネス案作成」に時間を割くことも重要である。PoCはあくまでも全体構想の中の一部分を検証するものという位置づけを明確にすることで、PoC終了後の道筋が描きやすくなる。また、仮にPoCの結果が想定通りでなくても、全体構想におけるPoCの位置づけが明確であれば、代替プランも考えやすくなると想定される。
事業会社・スタートアップともに、事前検討にかけられるリソースは限られているケースもあるが、いざPoCを実施する際には、よりコストがかかり、ステークホルダーも増える可能性が高い。そのため、事前準備をおろそかにするのは得策ではないと考えられる(「アイディアの”種”発掘」~「ビジネス案作成」の詳細は、『スタートアップとの真の「共創」を実現するために ~出会いからPoCに至るまで~』(前編後編)を参照いただきたい)。特にスタートアップ側のリソースは限りがあるため、事業会社側が、外部の知見なども活用しながら、積極的に考え、提案・推進する必要があると考えられる。

図3 事業会社が直面する課題と解決策①

図3 事業会社が直面する課題と解決策①

 

課題b. “仮にPoCが「失敗」に終わった場合、この「失敗」を十分に活かしきれず、「かけたリソースやコストが無駄だった」と見なされてしまう”に対する解決策

解決策 b.-① :柔軟な姿勢で「失敗」から積極的に学ぶ
PoCの結果、事業化が難しいという判断に至ったとしても、PoCの経験自体は、次回あるいは他の新規事業検討に活かすことができる。新規事業創出には「経験」も必要なため、会社として経験を重ねながら、社内メンバーのマインドの向上や、人材育成に繋げていくことも大切である。
また、先述の通り、PoC実施前のゴール設定は非常に重要だが、PoCが上手くいかない場合、ゴールにこだわり過ぎず、「別の事業に結び付けられないか」と視野を更に広げることで、せっかく生まれたアイディアの”種”を活かせる可能性も出てくる。PoC結果の検証・評価は当然ながら、PoC実施後の振り返りと他のアイディアへの展開可能性の検討まで、事業会社とスタートアップが協力して行い、双方にとってその後に活かせる経験とすることも重要である。
加えて、PoCが中断してしまった場合も、すぐに関係を解消してしまうのではなく、中断の原因と課題分析を共に丁寧に行うことが、双方の学びのためだけでなく、信頼関係継続・強化のためにも必要だと考えられる。

解決策 b.-② :複数社の枠組みで取り組む
昨今の「n:n」(複数対複数)の”共創”への取組増加のトレンドも踏まえ、1事業会社:1スタートアップのみではなく、複数社での共創PoC実施にチャレンジすることも、解決策の一つとして想定される。 
なぜなら、複数社で実施する場合、諸条件や役割分担などの事前調整は通常以上に必要となるが、1社あたりのコスト負担が小さくなるため、PoCに取り組みやすくなる可能性があるからである。特に、自社のPoC経験が少ない場合、PoC経験が豊富な事業会社をパートナーとすることで、PoCがよりスムーズに進むと共に、PoC実施のノウハウも得られやすくなると想定される。また、複数社の強み・発想力が掛け合わさることで、PoCから派生した新しい事業案に発展しやすくなるという相乗効果も見込まれる。

図4 事業会社が直面する課題と解決策②

図4 事業会社が直面する課題と解決策②

このように、PoCを事業化につなげるためには、まず新規事業検討のプロセスを意識しPoC前の検討・準備を入念に行うこと、そして、PoCの経験自体を様々な検討に繋げることや、複数社での「共創」の枠組みを活用するなどの工夫を行うことが重要となる。
アビームコンサルティングでは、事業会社・スタートアップとの幅広いネットワークと多様な業界・ソリューションの知見を有しており、ビジネスアイディアの壁打ち・ディスカッション、事業会社・スタートアップとの共創検討支援、アイデアソン企画・運営、メンタリングなどを行う機会が増加している。今後もより一層、業界を問わず、様々な事業会社の挑戦をサポートしていきたい。

『スタートアップとの真の「共創」を実現するために

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