異業種参入のトレンド、
および成功に向けたアプローチ [総論編]

 

エンタープライズ ビジネスユニット
大野 晃
鬼塚 智義

1. 異業種参入の潮流

近年、政治・法律・政策の変化、世界経済の重心の移動、人口動態の変動やグローバル化による社会・文化の変容、次世代技術による革新を背景として、様々な業界において業界の垣根を超えた異業種への参入が進んでいる。米国の経営学者が提唱するイノベーション理論である「両利きの経営」における「深化 (既存事業の強化)」 と「探索 (新規事業の模索)」 で捉えると、後者の「探索」の有力な一手段として検討を進めている企業もあるのではないか。
特に昨今は、他業界の企業との業務提携やスタートアップへの出資を通して自社の提供価値を多角的に向上するなど、新たな成長の種を模索するような業種を跨いだ取組が増加している。

図1: PEST分析

図1: PEST分析

2. 国内における異業種参入事例

通信事業者や小売事業者による銀行業・決済事業など金融業界参入の潮流はその最たる例であるが、金融業界への参入に限らず、幅広い業界で異業種参入の潮流は加速している(図2)。この背景には、人口減少などによる市場成長停滞からの脱却という動機や、Fintechを始めとする先進テクノロジーの出現による新規事業創出の加速、業法規制緩和によるエントリーバリアの弱化、SDGs等の新たな社会的ニーズへの対応といった様々な要因があると考えられる。また、各企業の参入形態の特徴として、自社が保有する顧客基盤やデータを活用した参入モデルや先進テクノロジーを保有する企業との共創による参入モデルなどが挙げられる。
さらに、コロナ禍による影響は、旅行業界による非旅行事業への参入を加速させるなど、今後、更に幅広い業界へ影響を与えるものと想定される。

図2: 国内における異業種参入の状況

図2: 国内における異業種参入の状況

3. アビームコンサルティングが考える「異業種参入フレームワーク」とその「成功ポイント」

異業種への参入は、事業会社にとって未知の業種・ビジネス領域における検討となるため、参入先業種の規制環境・関連法令に見落としや考慮漏れが発生しやすい。異業種参入シナリオが充分に検討されず、事業が漸く立ち上がる頃に、予期せぬコスト増や関係者との再交渉が生じる、といった事態が起こることもある。更に経営層や既存事業部門を含むステークホルダーの巻き込みのタイミングで、様々な落とし穴やジレンマが待ち構えている。
検討企業の業界内ポジションや置かれた環境に応じて、適切に異業種参入にあたっての検討アプローチを定義することを要するが、弊社の知見に基づき作成された、「異業種参入フレームワーク」を考慮した、フェーズ、ステップで進めていくことを推奨したい(図3)。このフレームワークは、弊社が長年にわたって異業種参入プロジェクトに関わって集積してきたノウハウや経験、そして各社の取組を調査・整理した結果に基づき作成している。
本稿では、成功のポイントとして、”9つ”の要素を取り上げたい。なお、当該フレームワークの詳細は記載していないため、本稿のテーマに興味・関心があれば是非問合せ頂きたい。

図3: 異業種参入フレームワーク

図3: 異業種参入フレームワーク

1.自社資源の棚卸と評価: 
異業種参入先の選定、ならびに参入後の成長ストーリーを描くために、自社経営資源の棚卸を行い、競争優位性のある資源を明確にする必要がある。過度に現行ビジネス上の経済価値に基づく評価をせず、 経営資源の価値を多面的にとらえ、客観的に評価することが重要である。

2.参入先異業種選定の視点:
ビジネスモデルキャンバス(ビジネスの構造を可視化するフレームワーク)上の提供価値以外の競争優位性のある経営資源と、それらの組み合わせにより、新たな提供価値を発掘する。その際、参入先候補事業ドメインに対し、“自社だからこそ”解決できる課題点を明確にすることが肝要である。

3.参入先業種の規制環境・関連法令:
 自社が属する業種における規制・法令は当然ながら把握していなければならないが、未経験の参入先業種における規制・法令は見落としがちである。規制・法令の今後の展望を含め、確認を行う必要がある。

4.不足資源の特定:
参入先業種のビジネススキームを整理し、進出に際し不足している経営資源を明確にする。参入先事業における重要度と調達難易度に応じた分類を行い、両側面で高位な経営資源を中心に調達戦略の検討を行う。

5.既存事業と異業種事業のブランド管理:
既存事業の同列ブランドの一環として異業種事業を推進するか、あるいは、別ブランドとして新たに立ち上げるか、それぞれのメリット・デメリットを把握・検討することが重要である。自社事業・ビジネスに対する消費者意識を理解し、参入先の業界特性、自社事業・ビジネスとのブランド親和性にもとづいたブランド戦略を展開することが重要である。

6.異業種参入シナリオのバリエーションと評価:
異業種への参入シナリオは、不足資源の調達難易度と当該資源に対するガバナンス要否を軸に検討を進める。また、選択シナリオに対する経営影響や、市場の不確実性、参入までのスピードといった観点を加え総合的に決定する。

7.シナジーの定量評価:
資本市場への説明責任を果たすとともに、異業種参入への賛同・協力を得るため、異業種参入による本業へのポジティブ・ネガティブな影響を定量的に明らかにすることが重要である。

8.異業種事業に対するガバナンスの考え方と設計:
グループ戦略の重要性に沿った監督と執行のデザイン・設計を行うことが肝要である。また、ガバナンスを設計通りに機能させるためには、参入先の異業種における経営管理・監査人材を親会社に配置し、深度のあるコミュニケーションを図ることが肝要である。

9.人材確保・調達と外部資源の利活用:
異業種参入時には自社事業・ビジネスと参入業種に対しオープンなマインドセットを持ち、シナジー創出を実現する基盤人材の確保が極めて重要となる。

4. 異業種参入における当社の強み

弊社では、幅広いインダストリーにおける実績に基づく深い理解と経験を有しており、異業種参入においては各社の経営資源の棚卸等に立脚した検討が可能である。通信事業者による金融業参入検討支援、金融事業者によるネットビジネス参入検討支援、情報システム事業者による介護事業参入検討支援など、戦略策定領域でも、異業種参入の方法論やスタートアップとのリレーションなどを保有しており、業界を問わず、様々な企業の異業種参入という挑戦へ、リアルパートナーとして力強い支援をしていく。
本稿では、特定の業種を想定せずに総論として異業種参入に関する潮流やアプローチを解説した。今後、保険、鉄道、地方銀行などの特定業種をテーマとした関連内容の発信を予定しているため、是非ご覧頂きたい。

異業種参入における当社の強み
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