カーボンニュートラル実現に向けた
GX(グリーントランスフォーメーション)戦略

第1回 エネルギー需要家におけるGX戦略 [前編]

 

 

山本 英夫

エンタープライズビジネスユニット
エネルギー担当 
ダイレクター

脱炭素化社会実現に向けた市場環境の変化

COVID-19によるパンデミックはグローバル経済に大きな影響を与えており、今後もその影響は当面継続する。その一方で、欧州を中心とした「2050年カーボンニュートラル」による脱炭素化社会の実現に向けた動きは加速している。
国内においても10月の菅首相の所信表明演説において「2050年実質的なGHG(温室効果ガス)排出ゼロ実現」が宣言されたことにより、12月25日政府の成長戦略会議にて「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」(注1)が提示された。今後国内の全ての業種の企業において脱炭素化の実現に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)は避けることができない経営アジェンダの一つとなる。

今回のインサイトでは5回シリーズにて「2050年カーボンニュートラル」への実現へのコミットによる「エネルギー需要家」企業および「エネルギー供給」企業それぞれの視点からの影響と戦略の方向性について解説していく。
第1回、第2回ついては企業の経済活動においてエネルギーを消費する「エネルギー需要家」企業が今後COVID-19のパンデミックによる影響が継続し、厳しい経営環境の中2050年カーボンニュートラル実現に向けどのようなGX(グリーントランスフォーメーション)戦略を構築すべきかに解説していく。
さらに、第3回、第4回、第5回においては、エネルギー需要家における脱炭素化実現ニーズが拡大するとともに、エネルギー自由化競争が進展する中、「エネルギー供給」企業は、いかに顧客のGX戦略を実現化するエネルギーバリューチェーン変革を図るべきかその方向性について解説していく。

企業バリューチェーン全体におけるGHG排出量の定義

企業バリューチェーン全体におけるGHG排出量についてはグローバルで定義されているGHGプロトコルに基づき排出源の種類により3つに区分される。石炭、石油、天然ガスの直接燃焼によるGHG排出(スコープ1)、系統からの電力や熱供給の使用による間接排出(スコープ2)、および原料製造時の排出、原料や製品の輸送時の排出など企業の経済活動におけるサプライチェーン全体でのGHG排出(スコープ3)である。

図1:企業バリューチェーン全体でのGHG排出定義

図1:企業バリューチェーン全体でのGHG排出定義

現在、企業の脱炭素化に向けた取り組みの枠組みは複数存在しており、どの枠組みに参加するかにより脱炭素化に向けた目標設定は異なる。
例えば、企業が自らの事業の使用電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアティブ「RE100」については自社の電力使用のみが対象となっており、電力使用(自家発による燃料直接排出も含む)における2050年での100%再エネ調達が目標となっている。
一方、機関投資家に対する情報開示および企業の持続可能性の訴求が目的となっている「SBT(Science Based Targets)」では、電力だけでなく企業活動全体でのGHG排出量の削減が求められるため、スコープ1、2、3までを含めた5年~15年先のGHG排出削減に向けた目標設定が必要となる。そのため、企業としては、どの枠組みで自社の脱炭素化の目標設定をするか自社で定義した上で具体的なGHG削減対策を検討する必要がある。
今後COVID-19によるパンデミックの影響により厳しい経営環境の中、企業としては企業財務への影響を最小化し、GHG削減効果を最大化するアプローチが重要となる。

スコープ2削減オプション

具体的に企業はGHG排出削減のためには何をすべきか。まずは多くの企業において最も取組の方向性が明確である電力使用に伴う間接排出(スコープ2)の削減方法について解説する。
スコープ2を削減するためには、GHG排出を伴わない電源(再生可能エネルギー)の構成比率を拡大する必要がある。実現方法としては主に4つのオプションがある。

図2:スコープ2GHG排出削減オプション

図2:スコープ2GHG排出削減オプション

① オンサイト発電;需要家の敷地内に再エネ電源(太陽光発電、風力発電、バイオマス発電等)を設置し、事業所内で自家消費することによりGHG排出を削減するスキーム

② オフサイト発電;需要家の敷地外に再エネ電源(太陽光発電、風力発電、バイオマス発電等)を設置し、自営線もしくは電力ネットワークを活用し自己託送にて自社へ供給することによりGHG排出を削減するスキーム

③ 再エネクレジット/証書調達;再エネ証書もしくは再エネ価値のクレジット(グリーン電力証書/Jクレジット)の購入により電力使用により発生するGHG排出をオフセットするスキーム

④ 再エネ電力メニュー;小売事業者が提供する再エネ電力(非FIT電源/FIT電源+非化石価値)もしくはカーボンフリー電力メニューを契約することで、電力使用におけるGHG排出をゼロとするスキーム

スコープ2削減対策の方向性

企業としては再エネ電源比率向上による財務への影響を最小化することが必須となるため、投資対効果の高い対策から優先的に実施することが必要となる。
既に太陽光発電の発電単価は系統電力の単価と同等レベルとなる「グリッドパリティ」に到達しているためオンサイト発電(オプション①)やオフサイト発電の自己託送(オプション②)を活用することで系統電力よりも安価に電力調達できる可能性がある。まずは太陽光発電によるオンサイト発電およびオフサイト発電にて調達する可能性について検討が必要となる。
一方、再エネクレジット/証書調達(オプション③)、再エネ電力メニュー(オプション④)については、現状の電力調達コストは上昇する。そのため財務上の影響を最小化するためは、同時にコスト削減可能となる運用改善や調達改善を実施することで、再エネ導入によるコストアップを最小限に抑制する取り組みが重要となる。
特に今後のエネルギー市場環境の変化を考慮すると電力調達に関する改善対策は重要である。国内電力市場における再エネ発電比率の拡大に伴い、電力卸市場価格のボラティリティ(変動性)が拡大する予想される。
実際、COVID-19による緊急事態宣言以降、電力需要減少と再エネ発電量の拡大に伴い、日中の卸市場スポット価格は前年(2019年)より低価格で推移したが、2020年12月末から1月中旬の寒波およびガス火力発電の燃料となるLNGの調達量不足等の複合的な要因により2021年1月13日には卸市場スポット価格(前日24時間平均)が154.57円/kWhまで上昇し、電力卸市場価格が高騰した。
今後電力小売事業者は卸市場価格の変動リスクを考慮し小売価格が上昇すると予想されるため、需要家としては競争入札を実施し価格競争力の高い小売事業者を選定するプロセスの構築が必須となる。
また、ガスコージェネレーション設備や自家発等を保有している需要家では、電力卸市場から直接電力調達するスキームを導入し電力市場価格の変動に応じて自社発電か系統電力調達を判断することで、運用コストを最適化することも有効となると想定される。

カーボンニュートラル実現に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)戦略

専門コンサルタント
山本 英夫
山本 英夫
Hideo Yamamoto

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