スタートアップとの真の「共創」を実現するために
~出会いからPoCに至るまで~(前編)

1. 新規事業創出に関する新たなトレンド

近年、外部環境の変化を受け、多くの事業会社が、スタートアップとの連携による新規事業創出(いわゆる「共創」)に取り組んでいる。その中でも、自社と他社・他団体という1:1の組み合わせで、自社の既存事業領域で新規事業に取り組むだけでなく、複数の事業会社や複数のスタートアップとタッグを組み、積極的に異業種に参入する動き(「n:n」の「共創」)が増えてきている。昨今はコロナ禍の影響等もあり、ビジネスモデルの見直しをより一層進める事業会社が増加しており、異業種参入の動きは今後さらに加速していくと予想される。

「n:n」の「共創」事例

・業界を超えた企業間連携によりさまざまな課題の解決を目指すMaaS(Mobility as a Service)コンソーシアム

地方自治体と事業会社・スタートアップによる、IoTを活用した「スマートシティ」や「次世代ヘルスケア」事業

・多様な複数の事業会社・スタートアップが参画する「情報銀行」ビジネス

・複数の金融機関・スタートアップによるブロックチェーンの活用に関する協業

また、上記の動きをサポートする体制も多様化している。スタートアップ向けには、「アクセラレーター」と呼ばれるプログラムや運営組織(例:Plug and Play Japan)が事業会社とのマッチングやメンタリング等を行っており、支援するスタートアップの数・領域共に拡大しながら、ここ数年存在感を高めている。一方で、事業会社向けには、スタートアップとの交流イベントが日々多くの場所で開催されている他、オンラインでのマッチングプラットフォームサービスも登場している。さらには、従来、事業会社の事業戦略策定支援を担ってきたコンサルティングファームも、クライアントに対しスタートアップとの「共創」支援を行う動き等を強めている。

新規事業創出のトレンド

上記の通り、事業会社とスタートアップによる「共創」への取り組みやサポート体制は広がりつつある中で、全ての事業会社が新規事業検討を順調に進められている訳ではない。特に金融機関、エネルギー、鉄道、製造業等、大規模な顧客基盤とインフラを抱え、長年にわたって既存事業を拡大してきた事業会社(いわゆる「大企業」)が、様々な壁にぶつかるケースが散見される。まずは、事業会社の新規事業検討プロセスを整理したうえで、事業会社が直面する課題と解決策を考察していきたい。

2. 事業会社の新規事業検討プロセス

事業会社の新規事業検討プロセスには様々なパターンがあるが、実証実験(PoC:Proof of Concept)を含むケースが多いことを踏まえ、今回、以下の「①アイディアの”種”発掘」「②ビジネス案作成」「③検証とブラッシュアップ」(=PoC実施等)「④事業化」および「⑤収益化」の5つのプロセスに分けて議論を進めたい。ここでの重要なポイントは、「③検証とブラッシュアップ」の前段階として、「①アイディアの”種”発掘」と「②ビジネス案作成」の2つのプロセスがある点である。

事業会社の新規事業検討プロセス(例)

「①アイディアの”種”発掘」は、世の中の動き等から顧客ニーズを把握し、スタートアップや他の事業会社の新規事業担当者との出会いを活かしながら、「共創」アイディアの”種”(=「お互いがどのような強みを持ち合い、それらをどう活かし、何の価値を生み出すのか」という、「共創」のコアとなる部分)について、スタートアップと共通認識を持つことを指す。また、「②ビジネス案作成」は、市場性・事業性も考慮し、「アイディアの“種"」をビジネスモデル(具体的な事業構造・収益スキーム)に落とし込み、ビジネス・技術などの有効性を、次のプロセス「③検証とブラッシュアップ」で仮説として検証できるレベルの「ビジネス案」に具現化することを指す。

新規事業検討時の失敗例の一つとして、「①アイディアの”種”発掘」から「③検証とブラッシュアップ」(PoC)に一足飛びに進み、PoCが上手く進まないというケースが挙げられる。「②ビジネス案作成」の検討が十分に行われていないために、「何を検証すべきか」の認識が事業会社とスタートアップの間でずれており、PoCのゴール設定が甘くなる、単にスタートアップの技術やソリューションを試すだけで終わってしまう、「④事業化」の検討まで進まずPoCまでで完了してしまう、といったことが起こってしまう。「③検証とブラッシュアップ」以降のプロセスを確実に進めていくためにも、「①アイディアの”種”発掘」と「②ビジネス案作成」を通じて、事業会社とスタートアップが「目指すべき姿」の認識を合わせておくことは非常に重要である。

しかし、「①アイディアの”種”発掘」や「②ビジネス案作成」の重要性を理解し、各プロセスを踏んだとしても、実際には、スタートアップとのディスカッションを上手く軌道に乗せられず、つまずいてしまう事業会社も多い。次章では、これら2つのプロセスで事業会社が直面する課題について、これまで見聞きしてきた事業会社やスタートアップの声を参考にしつつ、まとめていきたい。

3. 事業会社が「①アイディアの”種”発掘」と「②ビジネス案作成」で直面する課題

様々なスタートアップとの出会いは、事業会社が新規事業のアイディアを考える際の入口の一つである。先述の通り、スタートアップと出会う場が豊富にあり、イノベーション担当者や若手を中心に、足を運ぶ社員も増加傾向にあるが、出会いの多さに対し、スタートアップと共にビジネス案の検討を進め、PoCまで至っているケースは、現状限られていると言える。特に、スタートアップから事業会社に提案された内容がそのままでは受け入れられない時に、その時点で協議が止まってしまうことが多い。実際、事業会社の新規事業担当者からは、次の理由から、「新たなビジネスモデルが描けない」、「期待していたレベルのビジネス案を創れない」といった声が挙がっている。

  • スタートアップの技術やサービスが自社の事業にマッチしない、マッチするアイディアを出せない
  • 新しいビジネスアイディアを判断できる人材が少ない
  • 技術やサービスの活用方法がわからない
  • 多くのスタートアップと出会う機会はあるが、社内で共感を得られず、その先に進まない

一方、スタートアップ側からも、次のような意見が挙がっており、中にはスタートアップの存続に関わるような声もある。

  • 事業会社と出会っても具体的な協業検討が進まない
  • 自社の技術が事業会社のビジネスに上手く適合できない
  • 事業会社と検討のスピード感に差があり、時間が経過する間に運営資金がショートしてしまいかねない

これらの声も踏まえてまとめると、事業会社は、「①アイディアの”種”発掘」では「スタートアップと”種”の方向性がすり合わない」という課題、「②ビジネス案作成」では「アイディアの具現化が進まない」という課題に直面していると考えられる。これらの課題を乗り越えられなければ、「③検証とブラッシュアップ」以降のプロセスに進むことは難しく、スタートアップとのせっかくの出会いが無駄になってしまう。

事業会社が「①アイディアの”種”発掘」や「②ビジネス案作成」で直面する課題

これまで(前編)では、新規事業創出に関する新たなトレンドと、事業会社の新規事業検討プロセス、およびその初期段階で事業会社が直面する課題について考えてきた。

(後編)では、弊社の日頃のメンタリング経験等を基に、上記課題の真因と解決策を明らかにしていきたい。

 

『スタートアップとの真の「共創」を実現するために

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