「自らの価値」を問い、対話を通じて
経営のフロンティアを切り開く

※本稿は、アビームコンサルティングの「いま」をお伝えする広報誌『ABeam』2018-19年度版から一部記事を抜粋した内容です。

狗巻 勝博

「コーポレートガバナンス」は、長らく不祥事対策やコンプライアンスと同義と捉えられてきた。流れを変えたのが、コーポレートガバナンスを企業の成長につなげようとした政府主導の経営改革だ。企業の競争力を回復し、「稼ぐ力」を引き出そうとするこのパラダイムシフトは、失われた30年を過ごした日系企業に具体的な行動を求めている。経営は大きな岐路に立っている。その直面する課題と処方箋について狗巻勝博が考察する。

狗巻 勝博
戦略ビジネスユニット
執行役員 プリンシパル

企業の成長に資するコーポレートガバナンス

2012年に発足した安倍内閣は、いわゆる「3本の矢」政策の一つ、「民間投資を喚起する成長戦略」の中で、コーポレートガバナンスの強化を掲げました。

企業の成長を促すというコンセプトは新しく、14年に「日本版スチュワードシップ・コード」、続いて15年に「コーポレートガバナンス・コード」の適用が開始されるなど、先例のない早さで環境整備が進みました。

投資する側と投資される側、双方の行動規範がそろったことにより、日本のコーポレートガバナンス改革が本格的に動き出すことになります。

コーポレートガバナンスがなぜ企業の成長に資するのか。それは、コーポレートガバナンスの強化が、外部の力と内部の力を最大限に活用・発揮できる仕組みをつくり出し、それが持続的な企業価値の向上を実現しようとする試みにつながるからです。

「外部の力」の活用とは、投資家との対話や社外取締役の活用を含む取締役会の活性化などが考えられます。アクティビストなども含めた投資家との対話を通じて、お互いの違いを理解し、共通の目的に向かって進んでいくためには、非数値情報を含む多面的な情報開示が求められます。

このような情報開示に耐えられる経営は、外部からの企業評価、ひいては企業価値を高めることにつながるでしょう。社外取締役など、企業内の人材だけでは得られない視点や知見、経験に基づく助言を生かしていくことにも大きな意義があります。

「内部の力」の発揮については、14年8月に公表された「伊藤レポート」を読み解くのがいいでしょう。この中で、ROE(自己資本利益率)8%という具体的な数字(指標)が取り上げられています。

株主価値を高めるには「資本コスト」の概念が重要です。資本コストを上回るROEが達成されて初めて、経済的付加価値が創造され、企業価値が向上する、という考え方です。

多くの日本の経営者は、この資本コストに対する意識が長らく欠けていました。ROE8%は、PBR(株価純資産倍率)=1の水準の分水嶺ともいえ、この視点からも意識することが重要になります。

では、ROEを高めるにはどうするか。例えば、ROIC(投下資本利益率)という指標があります。ROICは、分母が有利子負債+株主資本、分子が当期純利益です。

この指標では、カルチャーやブランド、知的資産、人的資産などの無形資産を蓄積することがポイントになります。分母に入らない無形資産の価値を高め、分子を稼ごうという発想です。これは、従業員にとっても大切な存在であろうとする日系企業の考え方にも合っており、「稼ぐ力」を強化することにもつながると考えています。

日系企業に必要なガバナンス「攻め」と「統治」の二つの視点

日系企業がコーポレートガバナンスの強化を検討するには、現時点では二つのポイントについて考慮すべきでしょう。一つは、国内で議論が盛り上がっている「攻めのコーポレートガバナンス」。もう一つは、海外事業に対して統治、またはコントロールという側面で整備すべき「グローバルガバナンス」です。

前者については、長年問題視されてきた低収益状態から脱却し、企業価値の持続的な向上を目指すことができる仕組みを考え、さまざまなステークホルダーと対話をしていく、という強い使命感を、経営者が持つことが重要です。

後者については、海外進出やクロスボーダーM&Aの勢いがいまだ旺盛な中、トップラインの拡大を優先するあまり、海外における権限委譲などのルールやガバナンスの整備に遅れが目立ちます。同じガバナンスですが、グローバルガバナンスについては、まず企業統治という側面からガバナンスを考え、仕組みを整えていく必要があります。

両者は、いずれは統一のプラットフォームとして議論されるべきものと考えますが、現時点では分けて考える方が、効果を発揮する近道といえるでしょう。

日系企業にふさわしい新たな経営フロンティアを求めて

一連のガバナンス改革は、原則を示した上で、具体的な方法論は企業に委ねる「原則主義(プリンシプルベースアプローチ)」としている点が大きな特徴です。

曖昧に感じるなど、戸惑う場面も多いと思いますが、「コンプライ・オア・エクスプレイン(遵守せよ、そうでなければ説明せよ)」というのは、最終的な判断をマーケットに委ねているという前提において、強制力としては有効に機能しているのではないでしょうか。

例えば、前述のROEに代表される経営指標も、あくまでも一つの指標ということです。他の指標でも問題はありませんし、企業独自の目標や指標があってもいいと思います。

今回改訂されたコーポレートガバナンス・コードを読めば、企業が株主だけを特別に大切にすべきとうたっているわけではありませんし、「稼ぐ力」を強化するといっても、短期的な視点だけを重視しているわけではないことも分かります。

コーポレートガバナンスの要諦は、「そもそも自分たちは何者であるか」について、徹底的に考えることです。そして「何をしたいのか」「どんな存在を目指すのか」といった本質的な部分について、自社が関わるさまざまなステークホルダーと対話してほしいと思います。

つまり、投資家やマーケットを意識すればするほど、企業の本質的な価値を見つめ直すことになる、ということです。

こうした真剣な対話を通じて、互いの立場の違いや価値観の違いを乗り越えたその先に、持続的な企業価値向上を実現できる、日系企業にふさわしい経営の姿を見ることができると考えています。

執筆者

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