デジタル変革の波を捉え日本企業の「稼ぐ力」を強化する

※本稿は、アビームコンサルティングの「いま」をお伝えする広報誌『ABeam』2018-19年度版から一部記事を抜粋した内容です。

宮丸正人 四十谷裕之

日本企業の株主に対する収益力を示すROE(自己資本利益率)は改善傾向にあるものの、グローバル企業との比較では低水準に留まる。一方、デジタル技術の加速度的な進展に伴い、企業経営を取り巻く不確実性は増大している。日本企業が「稼ぐ力」をさらに高めるには何が必要か。アビームコンサルティングで製造/コンシューマビジネスユニットのリーダーを務める四十谷裕之と、戦略ビジネスユニットのリーダー宮丸正人の2人に聞いた。

宮丸正人
戦略ビジネスユニット長 兼
経営企画グループ長
執行役員 プリンシパル

四十谷裕之
製造・コンシューマビジネス
ビジネスユニット長
執行役員 プリンシパル

デジタル化の進展に伴い企業のライフサイクルは短命化

ROE8%以上という明確な数値目標を打ち出し、資本効率を重視する「ROE経営」に大きな影響をもたらした「伊藤レポート」の成果なのか、日本企業のROEはここ数年改善傾向にある。2017年度は初めて10%超えを達成するなど、海外投資家から見ても投資対象としての魅力は増しつつある。しかしながら、ROEが中央値で12~15%前後の水準にある欧米企業と比べると、日本企業の「稼ぐ力」の向上は「道半ば」といったところだろう。

売上高、純利益ともに過去最高を更新しながら、日本企業はなぜ本質的な「稼ぐ力」において劣後するのか。要因の一つに、稼いだキャッシュを新たな投資に振り向けられていないことが挙げられる。企業業績は比較的好調な半面、社内に残る利益、すなわち「内部留保」は6年連続で過去最高を更新した。稼いだキャッシュを自社株買いや配当に充当することで株主還元を高める企業は増加しているが、本来的には、稼いだキャシュを成長領域に再投資するからこそ、企業は自らの「稼ぐ力」を継続的に向上させられるのである。

日本企業の投資に対する消極的な姿勢は、研究開発費からも明らかだ。主要国企業、特に米国、中国の研究開発投資は着実に増加する一方、日本企業の伸びは鈍化傾向にある。

「デジタルテクノロジーの進歩や不確実性の増大など、かつて経験したことのない環境変化が、日本企業の競争環境にパラダイムシフトをもたらしていることについては、日本企業の経営層も異論のないところでしょう。しかしながら、ディスラプション(創造的破壊)の波は次々に押し寄せ、あらゆる業界を巻き込んだゲームチェンジが加速する事態となっています」。こう切り出したのは、執行役員 プリンシパル 戦略ビジネスユニット長の宮丸正人だ。

宮丸正人

デジタルディスラプションの波が強くなるとともに、企業のライフサイクルの短命化も加速している。米国の株価指標S&P500に残る企業の平均期間は1960年には60年程度だったが、デジタル化の進展や製品サイクルの短縮化などにより、2025年には15年程度になると予想されている。また、日本企業を見ても競争優位は短命化の傾向にあり、「競争優位=業界平均を上回る営業利益率」を維持できた期間は、00年と15年を比べると約3分の2に短縮したという。

「これらが示しているのは、既存事業が十分な顧客価値を生み出せる期間が短縮化し、必然的に早いサイクルで新たな競争優位を創出することが求められる時代が到来したということです。もちろん、日本企業も新たな競争優位の獲得に向けて、オープンイノベーションの取り組みや、コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)を通じたスタートアップ投資を加速するなど手は打っています。しかしながら、成功例はまだまだ少ないと言わざるを得ません」と宮丸は指摘する。

企業の本源的な「稼ぐ力」を「創出価値の大きさ」×「存在価値の長さ」で表した時、日本企業は事業の効率化や現場改善に注力し、利益水準を維持しながら延命を図る、すなわち「存在価値の長さ」を維持しようとする傾向が多い。

しかし、ディスラプションの波は、「創出価値」と「存在価値の長さ」の両方に圧力をかけ、その事業を破壊するだけではなく、業界の構造すらも破壊したり、再定義したりする。ディスラプションが常態化する時代にあって、「『創出価値の大きさ×存在価値の長さ』を最大化するために、経営が10~15年後に実現したい姿を描き、『稼ぐ力』を最大化するために、主体的に新しい競争優位を創りに行けるかどうかが、日本企業の本質的な経営アジェンダになる」と宮丸は言い切る。

ROEの国際比較(分布)

ビジネスモデルを再構築し新たな価値を提供する「構想力」

では、デジタル変革の波を捉えて、日本企業が「稼ぐ力」を最大化するには、何が必要なのだろうか。

一つは、「構想力」である。“ビジョンとストーリーを描く力”と言い換えてもいいだろう。自社を取り巻く業界の変化を見極め、顧客のジョブ起点による顧客価値の創造と新たなビジネスモデルの再構築を行い、最終顧客にこれまでに無い新たな価値を提供していくことが重要になってくる。

「企業のライフサイクルが短命化する時代においては、常に顧客のジョブ起点で提供価値を見直し、創造していくことが事業を継続する上で不可欠となってきます。私たちアビームコンサルティングでも、エコシステムを通じて「Connected Enterprise」というコンセプトを提唱していますが、自社のみならず、外部のアセットや技術、人材を融合させることによって、マーケットトレンドに即した新しいオファーリングを創出し、これをクライアントに提供できると考えています。このような既定路線の延長ではない新たな『構想力』が日本企業の『稼ぐ力』の最大化につながっていくのではないかと考えています」。こう話すのは、執行役員 プリンシパル 製造・コンシューマビジネス ビジネスユニット長の四十谷裕之だ。

トヨタ自動車の豊田章男社長が「100年に一度の大変革の時代」と言う自動車業界を例に変化の本質を捉えてみると、業界の垣根が消滅しつつあることが挙げられる。従来は、完成車メーカー、部品メーカー、販売店といったプレーヤーが自動車産業を構成してきた。ここにコネクテッド(Connected)、自動運転(Autonomous)、シェアリング(Shared & Services)、そして電動化(Electrified)という新たな考え方が押し寄せてきたことによって、電機メーカーやハイテク企業、インフラ企業、保険会社、IT企業に加えて、さまざまなベンチャー企業など、多様なプレーヤーが自動車産業に参入することとなった。いわゆる“Beyond Mobility”である。

「所有から使用へ、顧客のジョブが変化する中、群雄割拠のマーケットで勝ち抜いていくには、自動車業界に関わる企業の経営者は、自動車そのものを販売するだけではなくて、自動車にまつわるサービス、すなわちMaaS(Mobility as a Service)をどう提供していくかを、最終顧客起点で構想する必要があります」と四十谷は説明する。

四十谷裕之

業界の垣根を越えたデジタルディスラプションが起きているのは、流通・小売業界も同様だ。日本では旧態依然とした総合スーパーやショッピングセンターの売り上げは低迷し、米でも百貨店の老舗であるシアーズが存亡に関わる危機に陥る一方で、インターネット通販大手アマゾンの独り勝ちの状態が続く。これに倣い、日本の小売企業も相次いでEC事業に参入し、「アマゾンエフェクト」に対抗すべく各種施策に取り組んでいるが、品ぞろえの強化や低価格の訴求だけに終始するケースが多く、差別化するポイントが見当たらないのが現状だ。アマゾンの脅威と戦う日本企業の経営者は、いま何を「構想」すべきか。

「あるクライアントの事例ですが、同社は『日本らしい、究極のお買い物体験』という明確なビジョンを掲げています。この構想には二つの側面があり、一つは、UX(顧客体験)の実現。もう一つは、これを実現するためのサービス基盤の構築で、これら二つに対して経営資源を積極的に投入し、右肩上がりの成長を遂げています」(四十谷)。

UXについては、一般のECサイトでは取り扱うことの難しい商品なども、各種免許を取得して品ぞろえを拡充。二つ目のサービス基盤については、決済と配送において顧客の利便性を徹底的に追求し、柔軟かつ“おもてなし”に配慮した配送サービスを実現する物流プラットフォームを構築した。

物流倉庫では、AI やロボットをフル活用し、多品種の商品を翌日に配送する仕組みを整備するとともに、配達時に、配送先の家庭環境をあらかじめ考慮し、小さい子どもがいる家庭では玄関のチャイムを鳴らさない、単身者の場合は配送時間に気を配るなど、配送ドライバーの属人的な判断に頼らず、顧客データに基づいたきめ細やかなサービスを実現している。

「このケースは、日本の流通・小売企業が勝ち残るための一つの方程式を示唆しています。データの利活用がますます重要になる中で、これをいかに“ 日本らしい”One to One のコミュニケーションに生かしていくかは、アマゾンの脅威と戦っていく上でも重要なカギとなります」と四十谷は話す。

新たな競争優位の創出を機軸とする経営戦略への転換

新たな競争優位の源泉は思いを浸透させる「実現力」

日本企業の「稼ぐ力」を最大化するもう一つのポイントは「実現力」にあると両名とも指摘する。前述の「構想力」で描いたビジョンとストーリーによって社内外に共感の輪を広げ、顧客価値を核に能力やリソース、組織、プロセスを向かうべき方向に束ねることが不可欠だ。「事業におけるコアの部分以外は、外部のリソースをうまく活用しながら共創していくことが重要です。加えて、AIやVR/AR、ロボティクスといったデジタルテクノロジーをいかに活用して、スピードを生み出していくかが、企業の今後の競争力を大きく左右する要素になるでしょう」と宮丸は言う。

つまるところ、不確実性が増すデジタル時代において、競争力を高めるために日本企業がとるべき指針は、「構想力」と「実現力」をもって、「新たな競争優位の創出」を基軸に置く企業経営にシフトすることと言える。

「新規事業の重要性を理解している日本企業であっても、事業化には至るものの、既存事業との衝突が妨げとなるケースが見受けられます。また、日本企業の場合、事業開発の0→1の探索期、1→10の確立期までと、そこから10→1,000にスケールする加速期との間に断絶がある例も少なくありません。非線形の成長を実現するには、マネジメントチームがこの衝突と断絶を当事者として解消することが必要です」(宮丸)。

新規事業の成功の確度を上げるためには三つの類型があると宮丸は言う。一つは、「カーブアウト型」。本社から新規事業部門を切り出し、独立して事業を行わせる独立ポートフォリオ型のアプローチで、Googleなどが典型例だ。対極にあるのが、GEのように全社レベルでデジタル時代の新たな競争優位に取り組む「全社DX型」だ。

「日本の企業に適しているのは、本社の既存ビジネスから離れた環境で新たな競争優位に取り組む『出島型』だと思います。出島環境にすることで共創を促進し、スピードを追及することが可能になりますし、前述の衝突や断絶を解消することも可能になります」と宮丸はアドバイスする。出島環境で育てた新規事業が成長し、既存事業が衰退した場合には、前者を本業の中に取り込んで、リソースをシフトしたり、事業の統合・再編を図ったりすることも可能だ。

「『全社DX型』は、過去の成功体験とレガシー資産を抱える日本の製造業にとっては、10年程度の期間では実現が難しい。リスクも高く、成功する確度は低い。『カーブアウト型』は、例えば、孫正義さんや永守重信さんのようにカリスマ性のある創業経営者の強いコミットメントによって実現されるケースが多く、多くの日本企業にはあまりなじまないでしょう。『出島型』で取り組んだ方が、結果も分かりやすく、成功した時に次のステージに進みやすいでしょう」と四十谷も同調する。

本社から切り離された環境で異なるルール・文化・プロセスの下、新規事業による新たな競争優位を創出するには、マネジメントチームがビジョンを示し、0→1の探索期、1→10の確立期、10→1,000の加速期というすべてのフェーズにおいて、自らの責任で推進する「実現力」こそが問われている。

(広報誌『ABeam』2018-19年版 TOP MESSAGEより抜粋)

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