爆発的な広がりを見せつつあるデジタルレイバーの真価

安部 慶喜

「デジタルレイバー」の導入が、爆発的な広がりを見せている。これは従来人手で行われていた事務処理などを、RPAと呼ばれる自動化技術でロボット(ソフトウエア)に置き換えるものだ。今、デジタルレイバーに注目が集まる背景や導入メリット、今後のデジタルトランスフォーメーションに向けた可能性について、アビームコンサルティングの安部慶喜が読み解く。

安部 慶喜

戦略ビジネスユニット
執行役員 プリンシパル

人手不足、働き方改革社会の変化が求めるデジタルレイバー

デジタルレイバーは日本語では「仮想知的労働者」と呼ばれ、デスクワーカーが行ってきた定型業務などを、代わりに行うものです。このデジタルレイバーを支えているのは、RPA(Robotic Process Automation)です。

アビームコンサルティングでは、すでに2011年からデジタルレイバーを社内で利用し、一部のお客様にもサービスを提供してきました。2016年前半までは、国内での需要は年間2~3件程度でしたが、同年7月頃から急激に増加しました。日本RPA協会とアビームコンサルティングの共同調査では、2017年1~6月の半年間で、約4,000件の問い合わせがあり、その件数からもいかに注目されているかが分かります。

背景にあるのは、急速に進む少子高齢化とそこからくる人手不足、働き方改革です。労働人口が減り、長時間労働が見直される中、グローバルで成長を続けていくためには限られた人手と時間を最大限に活用し、より効率的に生産性を高めなくてはなりません。この社会的ニーズがデジタルレイバーという新しいソリューションにマッチし、現在の爆発的な普及につながっているのです。

少ない人手で生産性を向上させるという課題は、国内だけでなく海外に進出する企業も同じです。日本の本社ほど多くの人員を抱えることのできない海外の支社でも、デジタルレイバーへの期待が高まっています。今後さらに広がっていくのは確実で、すでにアビームコンサルティングでも、アジア地域で複数のプロジェクトを進めているところです。

単純作業から解放しよりクリエーティブな業務に人材を振り向ける

デジタルレイバーについてよく聞かれるのは、「処理の自動化と効率化ならばERPも同じではないか?」という質問です。確かにその部分だけ見れば同じでしょう。しかし両者は、その導入の仕方も改善効果も大きく異なっています。

まずERPは「ビックバン導入」という言葉があるように、既存のシステムやプロセスを一挙に移行することで効果を発揮します。ERPパッケージというのは、ソフトウエアと業務プロセスを組み合わせた、いわば「業務のベストプラクティス」 であるため、導入規模に改善メリットが比例する特性があるのです。

一方、デジタルレイバーは、大規模なシステム化を検討するほどではない業務や、システムを入れても人による処理が残ってしまうような煩雑な業務で大きな効果を発揮します。この部分の作業をデジタルレイバーに代行させれば、社員は単純作業から解放され、その力を企画や戦略などの、よりクリエーティブな業務に充てることができるのです。

また従来の業務システムは、ソフトウエアの機能に業務を合わせなくてはならず、肝心の業務がシステムに制約されることもしばしばでした。RPAは、業務に合わせてツールの機能を最適化できるため、自社の仕事の仕方を変えずに、業務プロセスをデジタル化できるのです。

近年、デジタルレイバーはさまざまな業種・業態にユーザーを広げつつあります。アビームコンサルティングのアンケート調査では、これまで導入の多かった金融業に加え、最近は製造業やサービス業が急速に増えています。生産性向上が売り上げに直結するため、単純作業をロボット化するメリットが大きいのです。

また、デジタルレイバーというとバックオフィスのイメージが強いのですが、前述の調査では、バックオフィスとフロントオフィスが半々という結果が出ています。

例えばフロントオフィスでは、自社製品の売れ行きを Webで確認する、為替相場や市場価格をリアルタイムで取得するといった業務をこなします。こうしたマーケティングツール的な利用において、ロボットの情報収集・分析の能力は人間の比ではありません。デジタルレイバーは単なる事務処理ツールではなく、「労働力」そのものです。

ロボットによる作業は人手を介さないため、情報セキュリティーやガバナンス強化につながる点も、見逃せない効果です。

事務作業自動化ツールを脱しデジタルレイバープラットフォームへ

「単純作業の完全な自動化」がデジタルレイバーのゴールではありません。それは、より大きな変革のきっかけに過ぎません。デジタルレイバーが企業のさまざまな部署や業務に存在し連携するようになれば、それらは一つの大きな業務処理プラットフォームというべき存在となります。これを「デジタルレイバープラットフォーム 」と呼んでいます。

現在、ビジネスの世界に限らずAIをはじめとした技術が次々に登場し、クラウドを軸に多様なサービスとして提供されています。デジタルレイバーは今後、これらのサービスと企業ユーザーを結ぶ役割を担うと考えています。つまり、デジタルレイバープラットフォームを介して、最新のクラウドサービスから自分たちの業務に使えるものを選んで接続し、不要になればすぐに切り離す。そうしたビジネスのニーズや変化に即したサービスの選択・導入・廃棄のライフサイクルが、デジタルレイバーによって実現するのです。

 

CASE STUDY

デジタルレイバー導入事例

SAP ERPの財務会計データからデジタルレイバーで管理会計レポートを生成
大和ハウス工業株式会社

住宅総合メーカー最大手の大和ハウス工業では、競争力強化に向け、早くからホワイトカラー業務の生産性向上に取り組んできた。その一環としてRPAテクノロジーズ社の新機能である「Device Automation」を採用。アビームコンサルティングを要件定義や開発のパートナーとして導入を進め、2017年7月から利用を開始した。
RPAの適用範囲としては「働き方改革の推進」をはじめ、内部統制業務やコンプライアンスの強化、また決算会計および情報収集の効率化などが挙げられる。
その中で「経営管理の高度化」では、SAP ERPの財務会計データをRPAで収集・分析し、管理会計レポートを生成する業務をロボット化する先進的な取り組みを実施。担当者をレポート作成業務から解放し、戦略策定や試作検討に注力することを狙いとしている。

執筆者

page top