本格的な実用化段階においてカギを握るAIモデルマネジメントとは

室住 淳一

AI(人工知能)がいよいよ本格的な実用化段階を迎えようとしている。知能である限りは、人の脳と同じように連続的に成長するばかりではなく、環境変化によって退化することもある。再学習による強化、あるいはAIモデルそのもののリプレイスを継続的に行い、適用領域ごとに最適な状態を維持するAIモデルマネジメントが、今後大きな課題となってくる。

室住 淳一

P&T Digital ビジネスユニット AIセクター長
執行役員 プリンシパル

AIは先端分野であるからこそ技術の成熟度を確かめる必要がある

昨今、メディアの報道でAIという言葉を目にしない日はありません。ビジネスの分野でいえば、開発、生産、マーケティング、人事など企業活動のさまざまな分野でAIの実証実験や導入が始まったといった報道を目にします。

ただ、そうした報道の中には、本当にAIを使ったものなのか、既存のITをAIと呼び変えたものなのか、判断がつかないものもあります。

また、AI 活用の波に遅れてはならないと急いでPoC(概念実証)を始めたものの結局うまくいかず、AI活用を断念したという話も耳にします。こうしたケースでは、具体的にAIを自社のビジネスにどう取り込むかというイメージがないままにPoCを始めてしまったことが、失敗の要因ではないかと考えられます。

AIはまだ成熟していない進化中の分野であるだけに、国際学会の最先端の研究成果に触れるなどして、技術の成熟度を確かめていく必要があります。その上で、自社のどの事業、どの業務の領域でAIを活用するのか、それによってどのような効果や価値を創出するのか、そこをよく見極めることが出発点になると私は考えます。

数百、数千単位のAI モデルを企業が活用する時代が来る

AIは、アルゴリズムに大量のデータを学習させることによって作成・育成されるものです。ですから、どのアルゴリズムを使うか、どんなデータを学習させるかで、その育ち方はまったく異なります。逆に言えば、適用すべきビジネスや業務によって、最適なアルゴリズムと学習データは異なるということです。

そして、ぜひ知っておいていただきたいのは、世界中のAI研究者たちが日々、新しいアルゴリズムやモデルを複数組み合わせて新しいモデルをつくるといったユニークなアンサンブル学習を研究・発表しており、その多くは論文として公開されるので、オープンソースとして活用が可能だということです。

ですから、その中から使用目的に最も合ったアルゴリズムを選択し、データにより学習させることでオリジナルのAIモデルを作成・育成すればいいのです。

例えば、ある消費財メーカーが自社製品の需要予測にAIを活用するとします。新製品と既存製品に分けられ、それぞれに定番品とスポット品があるとすれば、最低でも4つのカテゴリーに分類することができます。カテゴリーごとに売れ行きに影響する変数は異なりますから、それぞれ異なるデータセットと最適なアルゴリズムを選択すれば、4つのAIモデルが生まれます。

こういうことを申し上げると、「オリジナルのAIモデルを複数作成して配置できるほどのリソースがわが社にはない」と、懸念を示される企業もいらっしゃるかもしれません。

そうした懸念に対する解決策をここで一つだけ提示するなら、例えばAPI(Application Programming Interface)を通じて、クラウド上に構築されたAIプラットフォームと連携する方法があります。

適用する業務領域においてすでに有用性が確認され、かつ常に進化した状態のAI をAPI 接続で活用するのです。そうしたAIプラットフォームを実際、当社のABeam Cloud上でも用意しています。

大量のデータを高速処理することが可能となった今日では、製品カテゴリーをさらに細かく分類してそれぞれにAIモデルを配置し、高精度な予測をすることも不可能ではありません。製品ラインごと、シーズンごとにAIモデルを配置して、全体では数百、数千単位のモデルを使うことも将来的には可能になると思います。

AIモデルマネジメントが企業にとって大きな課題になる

今後、企業がさまざまなAIモデルを生成・設置するようになれば、多数のモデルをどのようにマネジメントしていくかが大きな課題になります。これをアビームコンサルティングでは「AI モデルマネジメント」と呼んでいます。

どんなに高精度なAIモデルを生成しても、継続的にパフォーマンスを発揮することはできません。また、置かれた環境が変わることで能力を発揮できなくなったり、退化してしまったりすることもあります。つまり、AI も人と同じで、環境変化に左右されるのです。

例えば、製造機械の故障予知にAIを活用しているケースを考えてみましょう。製造機械が設置されている生産ラインが変わった、同じ機械を違う地域の工場に設置したというだけでも、温度や湿度などの使用環境、機械の稼働状況などは変わります。それによって、故障予知の精度が落ちてしまうことがあるのです。

つまり、どんなに高精度なAIモデルを生成しても、継続的にパフォーマンスを発揮することはできません。

ですから、AI のモデルごとにパフォーマンスを常にモニタリングし、精度が落ちた場合は、再学習によってAIを強化し、それでも成長しない場合はAIモデルをリプレイスするといった措置を取らなくてはなりません。

この「モデル構築・活用・評価・再学習(またはリプレイス)」のサイクルを継続的に回していくのが、AIモデルマネジメントです。

組織的な観点からは、AI モデルマネジメントのサイクルを誰が回すのかという点も課題となります。これに関してはいろいろな議論がありますが、私自身は業務に関わるシステムをIT部門が管理するように、業務に関わるAIはデータサイエンス部門がそれを担うべきだと考えます。データサイエンティストがいない企業は、そうした人材を新たに雇用するか、育成する必要があります。

さらに言えば、AI 活用は今後、企業のあらゆる事業や業務分野に広がっていく可能性があります。どの領域からAI導入のPoCを行い、有用性や投資リターンを判断し、業務改革・システム開発へと進んでいくか。そのロードマップを描くのは、少なくともCxOレベルの経営幹部が担う必要があります。

AI活用がデジタル変革の重要な要素であることを考えれば、CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)がその責任を果たすべきではないか、というのが現時点での私の結論です。

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