調達コスト削減を阻む5つの壁と突破のカギ
第2回 パレートの壁と突破のカギ

2022年8月15日

1. はじめに

本インサイトシリーズの第1回では、企業の調達コストを取り巻く環境と、その削減には5つの壁が存在すること、及びそれらの壁を突破するカギを紹介した(図1)。
第2回では、「パレートの壁と突破のカギ」の詳細について事例を交えながら解説していく。

 

図1 調達コスト削減における5つの壁

図1 調達コスト削減における5つの壁

ポイントとなるのは、以下の5つである。
A )  コスト削減の「宝」はパレートよりもロングテール1の「スパイク2」に眠っている
B )「スパイク」は「購買ガバナンス不全」に陥っている品目に見出すことができる
C )「購買ガバナンス不全」の兆しは外形的に判別できる
D )「購買ガバナンス不全」の視点があれば、ロングテールの中から効率よく品目選定することができる
E )  経費データが整っていない(不揃いな)場合でも、インタビューで補完できる

  • *1 金額の下位20%に当たる少量多品種の品目を指し、金額順にグラフにすると恐竜のしっぽのように見えることから「ロングテール」と呼ばれている
    *2 データをグラフに可視化した際に、棘のように現れる異常値のこと

AとBは第1回で紹介した。今一度まとめると、品目選定では、コスト削減の成果刈り取りを急くあまり、パレート分析による金額上位の品目ばかりに注目してしまい、ロングテール品目に眠る大きな削減余地を見落としがちになるという「パレートの壁」が存在する。この壁を突破するカギは、ロングテール品目にある外形上の「購買ガバナンス不全」を、データ分析での異常値として表れるスパイクのように捉えて品目を選定するスパイク探索にある。
Cの購買ガバナンス不全の外形的な特徴は、サプライヤー視点と現場のユーザー視点で見ると以下のようなものがある。

■ サプライヤー視点
 -  同一の品目で一定数以上に多くの取引先から購買(取引先分散)
 -「単価契約」されておらず、同じ品目でありながら単価差異が存在
 -  特定の取引先への特命発注理由が不明瞭

■ユーザー視点
 - 現場のユーザーとコスト負担部門が不一致
 - 各現場での経費精算が多数存在
 - サービスレベルを現場が定義

さらに、購買ガバナンス不全を抱えがちな企業の調達の傾向として、調達部門はあるものの発注や契約管理などの購買業務が主で仕様決定や取引先選定への関与が不充分であったり、購買が現場に委ねられていたりする。
このような調達組織・機能面の傾向も考慮しつつ購買ガバナンス不全に注目し、また、仮説を持って紐解くことが品目選定のカギとなる。
DとEはこの後の事例を通して解説していく。

2. 購買ガバナンス不全に注目し、コスト削減を成し遂げた事例

2つの事例を通して、購買ガバナンス不全を外形的に発見する視点を持って、ロングテールの中から品目選定して成果を積み増したケースと、経費データが不揃いな中で購買ガバナンス不全の仮説を持ち、インタビューを通して品目選定して成果に繋げたケースを見ていく。


事例1:経費データから外形上の購買ガバナンス不全を紐解き、品目を発掘
大手エネルギーインフラ企業A社では、価格競争力のある競合他社へ顧客が流れている状況下、小売向けの価格競争力向上が喫緊の課題であり、全社的なコスト削減に着手した。経営層からは向こう3年間でのコスト削減目標が示されたため、調達担当者としては、早期に大きなコスト削減を実現したいとの考えから、まずは金額規模の大きい品目を取組対象に選定した。

ところが分析を進めていくと、これらの品目では定期的なコスト適正化に取り組んでいるため追加余地は見込めないことが判明した。そこで、ロングテール品目にも目を向ける必要が生じたものの、調達担当者には経費データの詳細な分析経験やノウハウがないために膨大なデータを前に分析の取っ掛かりをつかめずにいた。また、発注や契約管理などの購買業務に追われる調達担当者にとって、業務負担の大きい分析作業は後回しにされやすく、品目選定は一向に進まなかった。

A社から相談を受けて我々が話を伺うと、調達部門は慢性的なリソース不足で購買業務をこなすので精一杯、競争促進や査定強化によるコスト適正化には取り組めていない実態が明らかになった。そこで、購買ガバナンス不全に陥っている可能性が高いと想定して経費データを分析すると、一品目で多数の取引先との取引がある、各部門が都合の良いタイミングで少量・都度発注しているなどのスパイクが次々と浮かび上がった。これらのスパイクに対して、現場に赴いて契約書や請求明細の現物を見て取引条件や単価、発注ボリュームまで確認することで、削減余地を精緻化していった。

さらに、この分析によって、競争が激しい業界でありながら馴染みの取引先への特命発注が常態化していたため、競争化によるコスト削減を見込める品目や、現行取引先が業界大手ばかりで準大手や中堅へ切り替えることで削減を見込める品目も発掘できた。最終的に算出できた削減余地は総額で年間数億円(当初の目標削減率10%に3ポイント上乗せして13%を達成)と、パレート分析では導けなかった大きなコスト削減余地の発掘に繋がった。


事例2:インタビューを通して組織面の購買ガバナンス不全を紐解き、品目を発掘
大手製造業B社では、将来の発展に向けた原資を確保するために、グループ会社を含めたコスト削減に着手した。B社でも経営層からコスト削減目標が示されたため、調達担当者は早期の成果創出を目指して金額上位の品目から取り組むことで大きな削減インパクトを狙った。

ところがB社では間接材購買がユーザー部門に委ねられ、また、部門によって経費システムが異なることから、各システムから抽出したデータにムラがあり、品目の具体的な調達件名やユーザー部門の担当者、発注数量などが分からないケースが多数見受けられた。このため、データ分析による品目選定がそもそも困難な状況にあった。

B社から相談を受けた我々もまずはデータを確認したものの、データが不揃いで品目選定は困難であったが、ここで立ち止まらずにユーザー部門へのインタビューで補うことにした。インタビューを効率的に進めるために、業務内容から間接材支出が大きいと見込む部門や、グループ全体の福利厚生や不動産管理、広告宣伝などの間接業務を担うグループ会社を優先することはもちろんのこと、より重要なポイントとして、大企業ならではの組織面の購買ガバナンス不全に着眼した。例えば、組織再編を繰り返すうちに品目の管理責任がいずれの部門の分掌からも漏れている、グループ会社を経由する品目では商流が複雑化し、本社からは外部取引先への正味の支出額が分からない、といった不全状況を仮説立てて、インタビューを通して検証をしながら品目の特定と余地の発掘を行った。

インタビューで得られた情報を紐解くと、コスト管理部門がないが故に査定なしに契約の自動更新が長年繰り返されていたり、ひとつの品目をそれぞれの部門が複数の取引先にバラバラに発注したりして、購買統制が取れていない実態が明らかになった。また、既に使用を止めているサービスに対して料金を払い続けている品目までもが発掘され、サービス解約によってすぐにコスト削減に繋がった。

3. 購買ガバナンス不全の探索、仮説立てが品目選定の近道

これらの事例からも伺える通り、購買ガバナンス不全に陥っている品目にはいくつかの特徴が外形的に表れる。これらの特徴を見逃さないこと、またデータが不揃いな場合でも、外形上や組織面の購買ガバナンス不全を仮説立てて実態を紐解くことが品目選定の近道と言えるだろう。
次回の第3回では、選定した品目の削減余地を算出する際にぶつかりがちな仮説思考の壁とその壁を乗り越えるカギを、事例を交えて紹介する。

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