社員の挑戦を会社の成長に変える大改革
「個の尊重」時代の人材マネジメントとは
(DIAMOND Quarterly)

2022年5月25日

働き方に対する価値観が大きく変化している中で、従業員のパフォーマンスとエンゲージメントをどう高めるべきか。グローバルカンパニーから伝統的日本企業に転身して人事制度改革を指揮する三菱ケミカルの中田るみ子氏と、プロフェッショナル集団における働き方改革のリーダーを務めるアビームコンサルティングの岩井かおり氏の2人に、「個の尊重」時代の人材マネジメントについて聞いた。

企画・編集|ダイヤモンドクォータリー編集部

 

ウイン・ウインで共創的な組織に変革する

編集部(以下太文字): 2017年に3社(三菱化学、三菱樹脂、三菱レイヨン)の経営統合で誕生した三菱ケミカルは、2019年より本格的な人事制度改革に着手しました。改革に踏み切った背景について教えてください。

中田るみ子氏

中田:まず挙げられるのが、市場環境の変化とグローバル競争の激化、労働人口の減少です。働き手の価値観も大きく変化し、人材も多様化しています。個々が主体的にキャリアを積み上げ、会社もその挑戦を支援し、自社の成長へとつなげていく。そうしたウイン・ウインで共創的な組織に変革しなければならないという問題意識が経営陣にありました。

 外資系製薬会社の人事総務担当役員から2018年に三菱ケミカルへと転身した私は、すぐに全国の拠点を回り、現場へのヒアリングを始めました。その中で感じたのは、社員は真面目で志が高く、仕事に意義を感じてこつこつと頑張るタイプが多いことです。一方で、その能力を存分に発揮できていないように感じることもありました。みんなの可能性をもっと広げてあげたいと強く思いました。

 現場の声と経営陣の思いは、翌2019年に「三菱ケミカルは決めました」と題した30の宣言に結実します。

中田:社員の声に対して会社の想いを届けたいとまとめたのが、この宣言です。発表に当たっては、各拠点の人事や拠点長、役員、労働組合とも議論し、確認を得たうえで行っています。30項目ある各宣言のレベルは「ハラスメントゼロ職場」「育児や介護は貴重な体験」など、社員一人ひとりが具体的な改革をイメージできる粒度にしています。

岩井かおり氏

岩井:現場を巻き込むことで宣言をより実践的なものにし、「決めました」というフレーズに経営の確固たる意志も感じます。

 2021年1月に発表された新人事制度は、等級報酬制度や人事異動公募制など「ジョブ型雇用」への移行が鮮明です。ジョブ型は日本企業にとって難易度の高い改革といえますが、どのような工夫をされたのでしょうか。

中田:管理職には2017年の3社統合時から職務グレード制度を導入しており、職務という考えは理解されていました。よって今回の新人事制度スタートに当たっては、従来のものを一歩進め、全管理職がジョブディスクリプションを作成し、職務評価を行いました。業務上のタスクではなく、自身の役職に課された責任について書いてもらっています。職務評価の結果は、役員とも時間をかけて議論し、組織のミッションを明確にしたうえで管理職にフィードバックしました。

 一般社員には2021年から役割等級制度を導入しました。等級定義に基づいて役割等級を設定し、成果や貢献度合いを評価します。

 ジョブ型はキャリアの固定化につながるとの懸念もあります。ジョブ型スペシャリスト集団であるアビームコンサルティングは、どのようにメンバーの成長を支援していますか。

岩井:スペシャリストとして求められるのは、縦軸(専門性)を深め、横軸(多様性)を広げる「T字型」人材だと考えています。

 縦軸である専門性深化は、担当プロジェクトの現場で学ぶのはもちろんのこと、スキルやリテラシーを可視化し、カウンセラーによるキャリア面談を通じて学習プランを立てるなど、組織としての教育支援も行っています。

 また横軸である多様性確保については、スキルの横展開やピボットにより新たな領域のプロジェクトにも参加させることもありますし、多様な知見や視点を取り込んでもらうために、さまざまな企業とのプロジェクトチーム結成なども積極的に行っています。さらには、業務外で学ぶことも推奨しています。たとえばプロボノとしてNPOを支援するなど、会社とは違うコミュニティに属することで個人としての多様性を高めることができるのです。こうした縦軸と横軸を持ったT字型の人材づくりを進めています。

 岩井さんはプロジェクトを率いるプリンシパルとしてだけでなく、CWO(チーフ・ワークスタイル・イノベーション・オフィサー)も務め、働き方改革のリーダーでもあります。

岩井:私がCWOを引き受けたのは、このポジションをつくった経営の明確な意志に共感したからです。当社の働き方改革は、ダイバーシティ&インクルージョン、スマートワーク、ウェルビーイングの3つから成りますが、人事からコンサルタントまで多様なメンバーで改革チームが編成されていて、これなら本当に改革できると確信しています。私も、コンサルティングサービスの現場を率いるリーダーとしての経験と働き方改革をリードする立場での視点、双方の経験を活かし、現場の課題を解決していきたいと思っています。

 

社員の可能性を広げる「公募制」の人事異動

 三菱ケミカルの人事制度改革の本丸といえるのが、「人事異動の公募制」です。組織や社員にどのような変化をもたらしましたか。

中田:公募制は社員の主体性や能力を伸ばすための要の施策です。年4回のチャンスがあり、これまで約800人が応募し、約500人が新たな部署に異動しました。円滑な運用には上司と部下の日頃のコミュニケーションが不可欠なため、1on1で、キャリアや仕事観を双方が共有する形にしています。これ以外に年1回のキャリア面談も設けています。

 また、非異動者にも好影響が出ています。さまざまな公募異動を目の当たりにすることで、「自分の仕事を見直す機会になった」「主体的なキャリア選択ができるので、中長期的にキャリアを考えるようになった」という声が挙がっています。さらには上司のマネジメント力向上にも直結します。部下がいつ公募異動でいなくなるかわからないので、1on1の重要性をあらためて認識し、部下のキャリア志向を把握するよう努めているようです。

岩井:優秀な部下が出ていくのを嘆くのではなく、流動性を前提にした人材育成と組織運営の計画を立てることが管理職に求められますね。その意味で、公募制は新たな組織カルチャーも生みそうです。

 とはいえ多くの企業で、現場の中核を担う中間管理職のタスクは増えるばかりです。「忙しすぎるミドル」にどう対処しますか。

中田:当社でも、この問題は切実です。ミドルの声を聞き、デジタル化による効率化も含めて日常業務の負担軽減に取り組んでいますが、簡単に解決できる問題ではありません。業務上のタスクではなく、自身の役職に課された責任は何かを理解し、そのうえで権限委譲を進める、業務のプロセスを見直すなど、いくつかの施策を組み合わせて改善していきたいと考えています。

岩井:アビームでも、マネジャーには「判断」する仕事にフォーカスするよう働きかけています。一定の定型業務を社内のシェアードサポートサービスに集約したり、ワークフローをデジタル化するなど、業務軽減に対応しています。優秀な人ほどハンズオンの業務から離れがたいようですが、仕事を手放す勇気を持ち、経営視点で意思決定や部下育成ができるミドルを目指してほしいですね。

 

「個の尊重」を重視した制度改革とダイバーシティ&インクルージョン

 コロナ禍によるリモートワーク加速もあり、近年は場所に縛られない働き方、特に大企業の「転勤廃止」が注目されています。

中田:当社も、2021年から本人同意のない一般社員の転勤禁止、勤務地継続や勤務地希望を申告できる制度を導入しました。その結果、地方で暮らしながら東京本社の部署に所属し、基本はリモートで働き、必要に応じて東京に出社する、そんなワークスタイルを実践する社員が増えています。これは社員のワークライフバランス向上だけでなく、地方の優秀な人材を獲得できるチャンスとして採用面でも大きなメリットがあるといえます。

岩井:アビームは、働く場所を選べるフリーロケーション制を採用しています。プロジェクト始動時は対面の場をつくるために出社し、後工程はリモートなど、臨機応変に組み合わせが可能です。フルリモート制度もあり、配偶者の転勤や家族の介護などで地方に転居しても働き続けることができます。日々のオンライン会議では、「今日はどこから?」というあいさつが、みんなの口癖になっています。

 いま日本企業は「ダイバーシティ&インクルージョン」を進めていますが、多様性はよい意味で遠心力が働く一方で、行きすぎると組織はまとまりを失いかねません。そこで近年では、求心力となる「パーパス経営」が注目されています。

中田:当社は「KAITEKI」というコンセプトの下、「化学の力で地球を救う、あなたと共に未来を創る」をミッションに掲げました。そのミッション達成のため、「たゆまぬ挑戦」「とらわれない心」など日々の行動指針ともいうべき5つのバリューも定めています。当社のKAITEKI経営を実現するのは、ほかでもない社員一人ひとりです。彼らが安心してともに挑戦できる組織づくりのため、これからも改革を続けていきます。

岩井:アビームでは多様性の中で求心力を生む工夫として、ブランドステートメントやスローガンに加え、社員全員が目指す姿として「ABeam Business Athlete®」を掲げました。プロのアスリートがパフォーマンス最大化のためにさまざまなメンタルやフィジカルトレーニングを行うように、我々ビジネスプロフェッショナルも、個人、チームとして最大限の力を発揮するためにコンディションを整えて自律的に成長すること。機会や場面に応じて最大の結果を出し、変化や挑戦にもしなやかに対応できること。それが重要です。

 また、クライアントニーズが多様化、複雑化する中で、個性豊かなメンバーの力をチームとしての大きな力に変えて課題解決に挑むためには、働きやすさと働きがいの両立が不可欠です。「働きやすさ」とは、結婚や育児、介護などのライフイベントに直面しても働き続けられる制度があり、それをみずから選び使える環境があること。そのうえで会社の理念に共感し、ここにいることで自分が成長していると実感できる「働きがい」があることが大切です。コンサルティングファームは、人こそが価値の源泉です。個々が活きいきと幸せに働くための土台づくりに、CWOとしてこれからも取り組んでいきます。

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