デジタル地域通貨
~地方自治体、地域金融機関から見るその意義~

2022年9月26日

地方自治体、地域金融機関を中心に、近年、地域通貨に注目が集まっている。一方、地域通貨と聞くと、2000年代前半の発行ブーム以降は下火になっているテーマだと感じる人も多いだろう。それでは、なぜ今、再び地域通貨に注目が集まっているのか。キーワードはデジタルである。デジタルの力で、地域通貨は今あらためて注目されるテーマになっている。
一方、地域通貨を地方自治体や地域金融機関が取り組む意義がどこまであるのか、ビジネスとしてどう収益性を考えれば良いのかといった点は、大きな論点として存在する。実際、事業として検討するに際して、このような論点は我々にも度々寄せられるものである。
そこで、本インサイトシリーズでは、「デジタル地域通貨」をテーマに、上記のような論点も踏まえながら、地域通貨を取り巻くマクロ環境、地域通貨の定義とその意義、地域通貨の種類、ビジネス上の検討ポイントについて考察していく。

1. 地域通貨を取り巻くマクロ環境

地域通貨の発行が検討されている背景の1つに、地域の過疎化や、経済の脆弱化がある。地域通貨はその社会課題の解決に向けた一手段として検討されている。
日本の人口推移は2010年の約1億2800万人をピークに減少し、2060年には約9300万人まで減少すると推計されており*1、この傾向は地方にいくほど顕著である。
また、図1に見られるように、過疎関係市町村の歳入に占める地方税収割合は13.9%であり、全国の34.0%に比べて著しく低い。これは、過疎地域が自主財源に乏しく、財政構造が脆弱で中央依存的であることを示している*2。
人手の減少、経済の脆弱性と依存体質だけでなく、社会関係の希薄化や、コミュニティ自体の消失といった事態までが社会的に懸念されている。

図1 歳入構成における地方税収の割合

図1 歳入構成における地方税収の割合
  • 引用:総務省「令和2年国勢調査」をもとにアビームコンサルティングにて作成

過疎化という文脈で社会課題が顕著になる一方、その課題解決の一助として、地域通貨が検討されてきている。特に地域通貨が近年注目されている背景としては、キャッシュレス化の促進、地域通貨プラットフォームの浸透、ブロックチェーン技術の発展など、デジタル地域通貨に関する環境醸成が大きい。

2. 地域通貨とは何か

そもそも地域通貨とは何であろうか。簡単に地域通貨の定義を整理したい。
本インサイトでは、地域通貨は大きく以下4つの特徴を持つ通貨だと定義する。
(1)法定通貨ではないこと
(2)特定地域でのみ流通すること
(3)交換手段、価値尺度、蓄積手段という通貨の基本機能を有すること
(4)社会的価値を有すること

(3)について補足する。地域通貨は特定地域で物品などと交換可能であり、域外への資金流出を阻止し、域内の経済循環を促す役割がある。また、地域通貨は独自の通貨単位を用いており、価値尺度がある。ただし、その通貨単位は日本円と等価である場合が多い。また、地域通貨は蓄積手段にもなり得る。ただし、地域通貨はあくまで地域での利用を目的としたものであり、蓄積としての位置付けは限定的である。そのため、多くの地域通貨は有効期限を設定していたり、時間と共に減価する仕様を持たせていたりする。利子=資本増殖の機能も、あえて排除している。

また、(4)については、地域通貨は経済合理性以上の社会的価値を有している。あえて利用範囲や用途を限定することで、その地域での使用に意味を持たせている。また、地域ボランティアへの参加やコミュニティ内での贈与など、労働や販売以外のシーンでも地域通貨は受領できる。そして、地域通貨の利用時においても、単純に“安いから買う”という傾向だけでなく、地域特産品の購入など、地域参画をベースにした消費をする場合が見られる。地域参画を通貨という形で可視化することで、その広がりを促している。このように、地域通貨は経済性と社会性の二側面を有している。

上記の定義を参照し、地域通貨と地域商品券の差異も確認できる。すなわち、交換手段における差異である。
確かに、地域商品券も、(1)(2)(4)の特徴は併せ持っている。
一方、(3)の特徴、わけても交換手段の特徴は限定的である。地域通貨は繰り返しチャージし、繰り返し決済に使える。一方、地域商品券は、基本的に1回の購入、1回の使用を想定しており、繰り返し使えない。つまり、受取人がそのまま利用者になれず、例えば事務局へ券を毎回返却して精算するような場面を想定しなければならない。
上記のような差異はあるものの、実際は、プレミアム付デジタル商品券を発行して、まず利用者を増やし、その後、類似の事業スキームを継承して、デジタル地域通貨に繋げるケースも多い。

3. 地域通貨の意義

地域通貨は、経済的側面と社会的側面の二側面を有している。それでは、なぜ地域通貨の発行が検討されているのだろうか。地域通貨の意義についても、この二側面から考えることが出来る。

第一に、経済的側面としては、地域資源の流出阻止という観点が挙げられる。つまり、地域外に対する消費という経済流出の阻止である。例えば、行政による地域への補助、観光客による地域内での消費などがあっても、その資金が、例えばECサイトなどの域外消費に流れると、地域としては経済循環しない。
同様に、データの流出も挙げられる。例えば地域の消費がクレジットカードやQR決済などで行われると、当該地域のデータにもかかわらず、地域関係者自身によってそのデータが利活用できなくなってしまう。
その点、地域通貨であれば、経済やデータの流出を阻止し得る。またそれだけでなく、観光消費の促進アプローチなど、新たなポジティブな利活用も検討できる。

第二に、社会的側面としては、地域参画やコミュニケーション活性化の寄与、地域の自然資源を活用した循環型社会の形成寄与が挙げられる。
例えば、前者の例として、ボランティアの実施や地域イベントへの参加によって、地域通貨が得られるケースなどが挙げられる。また、地域通貨の受領履歴やアカウントステータスなどをアプリ上で可視化し、参加者全員に共有することで、社会的信頼を補完しようとする地域通貨もある。
後者の例としては、地域商品券の事例にはなるが、各地の山間地で導入されている「木の駅」が挙げられる。林地残材や間伐材を資源にして、木質ボイラーなどに活用する。地域商品券であるモリ券が潤滑油になり、自然も経済も循環する形を目指している*3。山林所有者などの出荷登録者は、間伐材などを事務局へ持ち込むことで、モリ券を受け取ることができる。間伐材は、地域の病院や温水プールのボイラー燃料などとして取り引きされる。一方、出荷登録者は、受け取ったモリ券を地域のガソリンスタンドや飲食店などで使用する。モリ券を受け取った加盟店は、事務局を介して現金化するか、他の加盟店で再使用できる。

この二側面を可視化したのが図2となる。外側の円が経済性を、内側の円が社会性を表しており、いずれも経済や社会が循環し、転々流通する形となっている。経済に関しては地域外からの資金流入が考えられるため、左から右への矢印があり、交換(加盟店決済)という形で円と交わる。

 

図2 地域通貨の意義

図2 地域通貨の意義

地域通貨は、地域外への資源流出を阻止し、地域内での経済・社会循環を活性化させ、地域外からの資金流入を画策する。そして、それらを通じて、地域の自立を促すものである。
一方で、地域通貨を発行し、流通を維持させていくには、持続可能な事業として成立させることが必要になってくる。次回、本インサイトシリーズの第2回では、主に地域通貨ビジネスの検討ポイントについて考察していく。地域通貨を事業として成立させるためには、サービス設計を含めて、様々な考慮が必要となる。その点を念頭に考察していきたい。
 

  • 注釈
    *1:内閣府「令和4年版高齢社会白書(概要版)」
    https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/gaiyou/04pdf_indexg.html
    *2:総務省「令和2年国勢調査」よりアビームコンサルティングにて作成
    https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2020/index.html
    *3:木の駅プロジェクト ポータルサイト
    http://kinoeki.org/modules/pico3/index.php?content_id=15

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