DX時代を生き抜くための効果的な人材育成とは
第2回 組織のゴールを見据えてスタートラインに立つ

 

2021年10月22日

デジタルテクノロジービジネスユニット ITMSセクター
井上 覚
鈴木 大介 日高 基成 浦田 康弘

 

第1回 IPA「デジタル時代のスキル変革等に関する調査レポート」に見る人材育成の方程式』では「アビームコンサルティングが考える人材育成の方程式」についてご紹介させて頂いたが、第2回目となる今回は、「組織の方向性」と「個人の方向性」の合わせ方について、もう少し深堀していきたい。

「組織の方向性」と「個人の方向性」の合わせ方

「組織の方向性」と「個人の方向性」を合わせるには、組織として求めるIT人材像を明確にすることが必要だろう。図1は標準的な組織に求める人材像定義から育成計画策定までの流れであるが、各企業の整理状況に応じて、どのSTEPから始めるべきか違ってくる。
 

図1 組織に求める人材像定義から育成計画までの流れ

図1 組織に求める人材像定義から育成計画までの流れ

STEP1 IT業務整理
まず、自社で実施している・今後実施していくIT業務を整理することから始める。なお、ここで言うIT業務とはIT部門が担当している仕事だけを指すのではなく、IT戦略や企画構想など業務部門などで担うIT関連業務も含んでいる。これらの整理にあたっては、業務マニュアルなどから詳細な業務フローなどを起こすことは必要ない。業務整理が目的ではなく、業務を行うための必要なスキルを導きだすことが、このSTEPの作業の目的だからだ。目安としては、IT戦略策定やプロジェクト管理業務、要件定義などの単位で業務の概要が記載されているレベルで良いだろう。

STEP2 IT人材像・スキル定義
次に対象業務に対して、遂行に必要なスキルを定義する。これはIPA(独立行政法人情報処理推進機構)から発行されている「iコンピテンシ ディクショナリ」を参考にするのも良いだろう。ただし、「iコンピテンシ ディクショナリ」は、詳細且つ膨大な量となっているため、網羅するというよりは、自社にとって重要と思えるものに絞り込むことが望ましい。スキルが定義できたら、次はIT人材像の定義である。定義したスキル・業務をカバーする人材像を定義するが、多くの人材像を定義しすぎると何を目指して良いかが曖昧になる恐れがあるため、自社にとってわかりやすい主要な人材像に絞り込んで定義することをお勧めする。

STEP3 現状把握
IT人材像・スキル定義が済んだら、現場のメンバーに対してスキルの調査を実施する。ただし、いきなり全社員を対象に実施するのではなく、事前に数名程度でトライアルチェックを実施することをお勧めする。トライアルチェックを通じて、チェックシートやマニュアルのわかりやすさや、チェックに掛かる時間を確認しておくことで、事前にQAリストを作成したり、説明会の開催を検討したりと本番運用で混乱をしなくて済むだろう。また、集計結果の分析については役職別や年齢別など、多角的に実施することで自社としての弱い部分(強化するべき対象)がより見えてくる。組織全体としての平均とのGAPなどをフィードバックすることで、自身の現状のポジションの理解にも役立つだろう。

STEP4 育成計画策定
最後に、現状把握により、見えてきた組織及び個人として足りていないスキルについて、強化していく施策を検討する。社内外のトレーニングや推奨資格を紐づけ展開することで、個人やその上司が、必要なスキルを補うために何をするべきか、何を助言するか、目安にもなるだろう。半期・年度の目標設定をされている企業も多いと思うが、その中で個人としてどこを伸ばすかも目標として掲げさせるのも良いだろう。このようにして組織の方向性を考慮した上で、個人の育成目標とその目標達成に必要なことを明らかにすることで、組織と個人の方向性が連動していく。

よくある問題とその解決策

このような取り組みは企画側(組織の目線)で推進することが多いが、現場側からの抵抗を受け、形骸化することがよく起こる。 起こりがちな問題に対して、事前に考慮の上進めることが必要である。
 

図2 起こりがちな問題に対する手立て

図2 起こりがちな問題に対する手立て

① 目的の明確化と丁寧な説明・浸透
何のためにこの活動をするのか、明確に目的を定義することが必要である。組織としての目的だけでは現場には受け入れがたいだろう。個人の目線に立った目的も掲げておくことが重要だ。また、段階的に小規模なグループに対して、説明会を実施するなど丁寧な説明も心掛けた方が良い。

② 現場を巻き込んだ推進
この取り組みの真の成功は、いかに現場に受け入れられるかであろう。出来上がったものを現場に展開するのではなく、作る段階から現場側のメンバーにも推進体制に参画してもらい、一緒に作っているという状況を作り出すことが重要だ。また参画するメンバーは育成に対して強い思いを持っているメンバーが良いだろう。参画したメンバーが後々のエバンジェリスト(伝道者)になっていくはずである。

③ シンプルな設計
自社に必要だからと数百項目近いスキルを定義し、それらを運用するために膨大な量のガイドライン・マニュアルを作成しても、通常業務が忙しい中、協力してくれる人は少ないだろう。できる限り、シンプルな人材像・スキル定義や運用プロセスとするべきだ。また、文章も教科書的ではなく、できる限りわかりやすい文章で記載しておくことが望ましい。

④ 定着化するための仕掛け作り
育成施策を検討する際には、形骸化させないための仕掛けの検討も考慮する必要がある。スキルアップや人材像へ到達した場合に評価がアップするなど評価制度に連動させることや、人材像認定制度として社内外へ周知するなど、個人がモチベーションを維持して取り組めるようにすることが重要である。

そもそも人材像を定義すること自体が目的でもなければゴールでもない。このような活動を通じて、現場の一人一人が、組織として必要な人材はどのようなものなのか思いを巡らし、また自身の立ち位置や今後のキャリアを見つめ直したりするきっかけになることも重要な取り組みの成果と言えるだろう。

最後に

多くの企業でIT人材育成は経営課題の一つとなっている。そのような中、トレーニングメニューの充実化や資格取得の奨励金制度、情報子会社やパートナー企業への出向制度、短期海外駐在制度、戦略的な人事ローテーション、小規模な新規取り組みを通じた実践での育成など、様々な育成施策を打ち出されていることだろう。重要なのはそれらを通じて、組織が求める人材が育て上げられるかだ。今回ご紹介した取り組みは、現時点で実施されている様々な育成施策を体系立てて再整理することにも役立つであろう。改めてIT人材育成のスタートラインに立ってみてはいかがだろう。
人材育成とは一過性の取り組みではない。時代やニーズ、テクノロジーの変化に合わせて継続的に、時には試行錯誤しながら、取り組み続けることが最も重要である。

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