厳しさを増す自然災害との、
”新たな向き合い方”を目指す 第2回

 

織田 美穂

公共ビジネスユニット
執行役員 プリンシパル

昔は”台風シーズン”と言えば夏から秋にかけてでしたが、近年はシーズンの早期化・長期化が顕著になり、地震や火山噴火も、”忘れたころに”ではなく”忘れる前に”頻発しています。すでに、国・自治体は自然災害により速く・より適切に対応するため、日々検討や訓練を行っています。本稿では、従来は無かった新しい技術・情報を加え、自然災害と”新たな向き合い方”を目指す取り組みについて考察します。

第1回目では、アビームコンサルティングで社会実装の準備を進めている、高度自然言語処理技術を活用し、SNS状況把握をサポートする情報通信プラットフォーム(Emergrid)についてご紹介しました。
第2回目は、プラットフォームの研究開発、社会実装の準備を行いながら学んだ防災の「今」を通じて、感じている課題やアビームコンサルティングが果たすべき役割等について触れていきます。

防災の「今」を体感し、感じる課題

プラットフォームの研究開発、社会実装を担当した者として、まずは災害時の状況把握をよりスムーズにできるよう、プラットフォームの機能強化(突発事象発生時のアラートメール機能やクイックレポート機能等)は必須であり、より価値のあるサービスを提供できるよう継続的に機能強化を行うことが、社会課題の解決への寄与に向けた喫緊の課題です。

例えば、人口が多い地域のほうがSNSへの投稿が多くなる傾向がある。台風19号の例であれば、長野県の千曲川の氾濫の投稿は、同時刻の関東地方の投稿よりも相対的に少なく、解析結果の見せ方はどうしても目立たなくなることがわかりました。
地震よりも台風が当てはまりますが、決壊・氾濫といった災害がある程度見通せてからでないと異常の検知ができないという限界も感じました。経験を積み、災害の予兆を把握できるように機能を強化したいと考えています。

防災の「今」を体感し、感じる課題

加えて、このプラットフォームの研究開発を通じて、多くの自治体の訓練に参加、また、多くの防災に関わる有識者・エキスパートの方々と意見交換をさせていただきました。その際に率直に感じた課題についても触れていきます。

① 災害時の情報収集・提供の仕組みの確立

当社はプラットフォームの研究開発、社会実装の準備の一環として、自治体における災害発生時の業務を整理し、標準的なモデル(SOP:Standard Operating Procedure)を策定しました。SOPの策定を通じて、自治体の担当者が、災害時に自治体内の施設等の被災状況を住民に伝える必要があるにも関わらず、情報自体を入手できない/入手に時間・労力がかなりかかるリスクを感じました。

① 災害時の情報収集・提供の仕組みの確立

米国では、全米情報共有化協会(NISC:National Information Sharing Consortium)が、緊急対応で共有すべき情報を構成する基本要素(EEI:Essential Elements of Information)を16のカテゴリー、全200要素に整理しています。

基本要素: EEI 基本要素の内容 急性期の活動に必要な情報
(情報カテゴリ / 情報要素)
#1 Electricity Grid Status 電力状況 電力の状況、原子力発電所の状況、石炭他のエネルギー供給、発電機燃料のニーズ
#2 National Gas Grid Status 都市ガス状況 天然ガスの状況
#3 Public Water Grid Status 上水道状況 ダムの状況、衛生ポンプ場、下水処理場の状況、公共水道システム、水処理施設 / 地域の井戸システム、廃水プラントの運用状況、配水システムの運用状況
#4 Road Status 道路通行可能状況 道路状況:橋 / トンネル / フェリー、交通事故、アクセス制限、冠水箇所等、公共交通機関:バス
#5 Rail Network Status 鉄道運行状況 公共交通機関:鉄道、リフトステーションの運用状況
#6 Navigable Waterway Status 運河・航路状況 港運
#7 Air Transportation Infrastructure Status 空港状況 公共交通機関:空港、コミューター / トランジットサービス、滑走路(非商業用空港)
#8 Area Command Location Status 災害対策本部状況 EOC(Emergency Operations Center)のステータス、コマンドポスト、国防総省施設の状況、軍の状況、学校の状況、緊急電話対応、重大インシデント
#9 Staging Area Status 集結拠点状況 ヘリ着陸場所、ステージングの区域
#10 Points of Distribution Status 物資搬送拠点状況 国の備蓄基地、州の輸送拠点、地域の輸送拠点、物流拠点
#11 Joint Reception, Staging, Onward Movement and Integration Site Status 応援人員受付拠点状況 ボランティア受入れ場所、ボランティア団体、被災地で活動している初動対応者に対する懸念
#12 Evacuation Orders Status 避難指示発令状況 州の緊急事態宣言の状況、地域の緊急事態宣言の状況
#13 Injuries and Fatalities Status 人的被害発生状況 死者数、行方不明者、死傷者、遺体安置所の運用、遺体の回収、遺体の輸送
#14 Shelter Status 避難所開設状況 州管理の避難所、地域の避難所の状況、地域の避難状況、避難集会所、ペットの避難所、ホテル / モーテル、里親施設
#15 Private Sector Infrastructure Status 民間セクターのインフラ状況 ガソリンスタンドの状況、食料品店の状況、被災地の飲食店の状況
#16 Geological Survey Status 地震情報・暴露人口総数推定情報 天候、河川監視ゲージ、降雪データ、化学・バイオ・放射線暴露、火災状況、建物被害:構造物の損失率、私有財産の推定損害額、公的財産の推定損害額、農業被害評価、ソーシャルメディアの動向
#17 Communications Status 通信確保状況 緊急時通信ネットワークの状況、電話システムの状況、インターネット、ケーブル、アマチュア無線、緊急通報システム
#18 Hospital Status 病院機能状況 医療施設の開設状況、医療施設の臨床状況、ベットの空き状況、病院の救急部門の状況、緊急医療オペレーション(ECC)の状況、病院血液供給状況、病院の遺体安置所の収容能力状況、介護施設の避難支援、今後48時間で予想される緊急医療サービスの不足・ニーズ、被災地におけるLHD(大型ヘリカル装置)の運用状況、医療従事者のケア

我が国においても、このような基本要素を整理し、例えば#9の集結拠点状況のうち、ヘリ着陸場所とその運用状況(被災していないか、使えるか)は「誰が」「どこから」「正確な」情報を収集するのか、住民へはどうやって情報提供するのかを、国全体で検討しておく必要があるのではないかと考えます。既に始まっているオープンデータの取り組みと連動して、整備すべきではないでしょうか。

② オフサイト支援力の活用

令和2年1月時点で、15の自治体・団体と述べ22回、プラットフォームを使った防災訓練をさせていただきました。プラットフォームそのものを直接自治体のご担当に活用いただき、フィードバックをもらいながら改善を重ねていますが、そもそも災害時は人員のひっ迫する中で緊急性の高い作業を連続して対応していく必要があり、随時状況把握のために担当者をPCの前に張り付けることが難しいことを痛感しています。

既にそのフォローアップをすべくISUT等の国の組織が災害現場に入っていますが、台風の列島縦断と一部地域での地震発生等、広域・複雑・長期にわたる災害では、昼夜休みなくフォローアップをすることも大変な状況だったと推察しています。

そこで、私たちは、災害発生地域の状況をプラットフォームから情報収集し、一定頻度で簡易レポートを作成、現地へ電子メール等で提供する「オフサイト支援」を試みました。

通信環境が良好でさえあれば、現地に居なくとも災害時の支援ができる、この取組は洗練させ実用化させたいと考えています。

③ SNS利用者の「発信力」の強化

Twitter™で発信されたつぶやきの力、SNS利用者の「発信力」は想像以上であり、どんどん強くなっています。SNS利用者は、自分たちのつぶやきが活用され、実際の救助・対応に活かされて欲しいとの思いから発信をしていると信じています。そう考えると、発信されたつぶやきを受け取る側からのリクエストとして、ハッシュタグを使って欲しい、場所やランドマークを正確に記載して欲しい等をもっと周知しても良いでしょうし、SNSの対話型サービス(chatbot)の活用について深掘りをする必要も感じます。

④ 既に多数存在している、災害時の業務割り当てや業務を
支援する優れたサービスの有効活用

防災の分野は、「1人でも多くの人を救いたい、助けたい」という志を持つ方々(研究者、組織団体、企業、ボランティア等)に支えられ、既に多くの優れたサービスが出来上がっていることがわかりました。しかし、広く有効活用されている例はあまり多くなく、サービスを継続するためのコストをまかなうことも難しい状況ではないかと推察します。人を助けるためのサービスでマネタイズすることがタブーのように思える心理もあるのではないでしょうか。

有益なサービスは有償でも利用するという判断をしていただけるよう、サービスを運営する組織が個々にその効果を訴求するだけでなく、同じ志を持つもの同士が協創し、相互に連携・補完しながら防災エコシステムを構築すべきだと考えます。

アビームコンサルティングが果たすべき役割

防災という分野が担う業務の複雑さとカバー範囲の広さ、有事に求められるスピードと正確性の両立という難しさを踏まえると、上述の課題は一朝一夕に解決できるものではありません。
しかし、個々人、企業ごと、自治体ごと、府省庁ごとの活動を有機的につなげ、効果が期待されるサービスや手法の試行・展開を積極的に行い、国全体としての防災をより洗練する必要性を痛感しています。

災害時の情報収集・分析と情報共有の仕組みについては、多くの研究者・企業が研究開発を行っています。私たちは、自己が持つ機能やデータを独占し他と競争するのではなく、協創の考え方にたち、情報連携による可能性の広がり、それによる社会課題解決への寄与を目的として動くことが、果たすべき役割だと考えています。

次回は、本稿にて述べた課題に対する、アビームコンサルティングが考える解決策について触れていきます。

厳しさを増す自然災害との、 ”新たな向き合い方”を目指す

Emergrid 高度自然言語処理プラットフォーム 公開動画

https://youtu.be/wB19QxiBAeQ

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