厳しさを増す自然災害との、
”新たな向き合い方”を目指す 第1回

 

 

織田 美穂

公共ビジネスユニット
執行役員 プリンシパル

 

昔は”台風シーズン”と言えば夏から秋にかけてでしたが、近年はシーズンの早期化・長期化が顕著になり、地震や火山噴火も、”忘れたころに”ではなく”忘れる前に”頻発しています。
すでに、国・自治体は自然災害により速く・より適切に対応するため、日々検討や訓練を行っています。本稿では、従来は無かった新しい技術・情報を加え、自然災害と”新たな向き合い方”を目指す取り組みについて考察します。

第1回目は、昨今の自然災害における新しい状況把握の手段として注目されるSNS情報の活用と、高度自然言語処理技術の活用によるプラットフォームの概要について紹介します。

自然災害の頻発、広域化・複雑化。高度自然言語処理で状況把握をサポート

自然災害の頻発、広域化・複雑化により、自治体などの現場では、今まで用意していた防災計画ではカバーしきれない不安を感じ始めているのではないでしょうか。そのような中、救助要請や避難所等への支援といった、住民が本当に困っていることに適切に応えるための取り組みは、今まで以上に重要になると考えます。特に、状況把握(=情報収集と分析)は、自治体などの組織内での報告・共有・判断のためにも、また、組織外への協力要請の判断のためにも、自然災害対応の中で重要な要素となります。

昨今は、現地の状況を実際に見ること、電話で状況を聞くことなどに加えて、Twitter™をはじめとしたSNSで発信される情報の活用が注目されています。SNSで発信される情報は端的かつリアルタイム性があり、速報としての価値は高く、報道機関などが情報ソースとして使うことも踏まえると、「知らなかった」とは言いづらいレベルの認知度です。一方で、SNSの情報は正確性にバラつきがあり、個人の発信の仕方によっては、いつどこで何が起きているのかを把握しづらいケースが散見されます。また、デマ情報などが紛れ込むケースもあります。そして災害時には情報の量そのものが格段に増えるのも特徴(熊本地震では1週間で地震関連ツイートが約2600万、東日本大震災当日は国内全体のツイート数がそれまでの2倍に迫ったとも言われている)です。

アビームコンサルティングでは、高度自然言語処理技術を活用し、SNS状況把握をサポートする情報通信プラットフォームを研究開発し、社会実装の準備を進めています。総務省の社会実装事業(注釈1)を受託し、国立研究開発法人情報通信研究機構が研究開発したDISAANA™/D-SUMM™をベースに、社会実装のための高度自然言語処理機能の強化、SNS以外の情報ソースのマッシュアップ、ユーザーの利用に合わせたGUI/APIの開発を実施中です。

高度自然言語処理プラットフォーム(AI-PF)の研究開発

高度自然言語処理プラットフォーム(AI-PF)の研究開発

利用イメージ(川の氾濫や浸水被害を見つける)

利用イメージ(川の氾濫や浸水被害を見つける)

プラットフォームでできること(台風19号での実例)

令和元年に日本に上陸した台風15号、19号下では、プラットフォームを活用して情報収集と分析を行いました。
本プラットフォームを用いることで、高度自然言語処理によりTwitter™で発信されたつぶやきのうち、大雨・強風・洪水・冠水・氾濫等に該当するものを抽出し、いつ(今)どこで何が起きているのかをリアルタイムにレポート化することができました。

監視レポート(一部抜粋)

監視レポート(一部抜粋)
例:大雨関係(氾濫・決壊、浸水・冠水、土砂災害、救助)
例:強風関係(建物・インフラ被害)及びその他の被害

端的かつリアルタイム性がある特性を最大限に活かしながら、膨大な情報量から適切な情報を抽出し、デマなどにも留意し、自治体などの現場でスムーズに活用することができます。

次回はプラットフォームの研究開発、社会実装の準備を行いながら学んだ防災の「今」を通じて、感じている課題やアビームコンサルティングが果たすべき役割等について触れていきます。

ご参考:高度自然言語処理プラットフォームの詳細
    https://www.nlppf.net/portal/index.html

  • 注釈1:高度自然言語処理プラットフォームについて

    • アビームコンサルティング株式会社は、2017年度~2019年度にかけて、総務省の委託事業である「IoT/BD/AI情報通信プラットフォーム社会実装推進事業 課題I 最先端の自然言語処理技術を活用した高度自然言語処理プラットフォームの研究開発」を受託し、学校法人産業医科大学、国立大学法人東北大学東北大学病院、国立研究開発法人防災科学技術研究所と連携し、災害医療、保健・衛生、社会インフラ・防災、警備・セキュリティの4分野を対象に、SNSや地方自治体、関係機関等が保有する自然言語情報の処理と異分野間での連携・利活用を促進する高度自然言語処理プラットフォームの要件定義・設計開発・実証評価・試験運用を進めています。
    • 本研究開発では、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)のこれまでの研究開発成果(DISAANA/D-SUMM)を活用しながら、平時及び緊急事態(大規模事故、大規模火災、群衆事故、大規模感染症、災害等)発生時における国民の安全・安心の確保に役立てることを目的として、様々な利用者(例:各府省庁、自治体、消防・警察、民間企業等)に有益な情報を提供することができるプラットフォームを目指しております。
    • なお、2020年度からの事業化を想定しており、事業化に至るまでの実効性・具体性を考慮した適切な取組計画を策定し、研究開発を推進しています。

高度自然言語処理プラットフォーム 公開動画

https://youtu.be/wB19QxiBAeQ

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