小売業におけるCOVID-19の影響と今後の対応

 

1.COVID-19は小売業の外部環境をどのように変えたか

小売業を取り巻く外部環境の変化は、今までの常識を大きく変え新たな常識・状態(ニューノーマル)を生み出し、政治・経済、そして我々のライフスタイルやそれを支えるデジタルテクノロジーまで、多岐にわたり影響を与えている。緊急事態宣言後、食品・日用品を扱う小売業は政府からの事業継続要請を受けたが、それ以外の多くの業態は休業を余儀なくされた。経済は回復まで2年はかかると言われるほど深刻な打撃を受けている。なかでも小売業は外出自粛・休業要請により、対面での消費者接点が大きく制限され、経済的な影響をまともに受ける状況となった。消費者の生活も一変しており、巣ごもり消費・店舗離れによるオンライン購買が従来利用していない層まで広がり、強制的なテレワークへのシフトにより、リアルではなくオンラインを介した生活が当たり前になりつつある。また、それらを支えるデジタルテクノロジーは以前から普及し始めていたが、パンデミック後はそのスピードが爆発的に加速した。

COVID-19は小売業の外部環境をどのように変えたか
  • ※1:令和2年4月6日 農林水産省食料産業局長・経済産業省商務・サービス審議官より
    ※2:日本経済研究センター 民間エコノミスト28名予測の平均値
    ※3 日経新聞:エコノミスト32名予測の平均
    ※4:BOPIS:Buy Online Pick-up In Storeの略称

2.激変する外部環境が小売業に与えたインパクト

COVID-19によって引き起こされた外部環境の激変は、小売業の経営に様々な影響を与えた。業績の面では、業態によって明暗がはっきり分かれた。食品スーパーやドラッグ、コンビニ(オフィス街立地等は除く)といった食品・日用品を扱う業態は、政府からの事業継続要請もあり、レジ前の行列や一部商品が品薄になるほど好況だ。逆に低迷しているのがアパレルや家電といった所謂買回品・嗜好品を扱う業態だ。オンライン購買の増加だけでは、リアル店舗の業績悪化を補完しきれていない状況となった。

次に小売業の業務プロセスのうち特に対応に追われた点を整理する。
食品・日用品を扱う小売業では、店舗におけるレジ待ち時に一定間隔を取るためのテープ貼りや、レジ前のビニールシートといった急ごしらえの対策、最前線で働く従業員の疲弊への対応策の実施が一消費者としても見て取れた。また、カートの消毒や飛沫対策のための商品個包装等、次第に高くなる消費者の安全意識への対応も従来業務に付加され、従業員の疲弊を加速させた。ECへ誘導しようにもともと充分とは言えないネットスーパーの予約枠では、来店増加を分散させるだけのパワーは無かった。本部では急なテレワークへの対応として、従来はNGだった自宅でのシステム利用のための権限の付与や紙書類の持ち出し、輪番出社制等、慌ただしく業務継続の対応に追われた。小売業の特徴として、最前線の店舗現場がフル稼働している中で、それを支える本部を止める訳にはいかず、従来のやり方から大きくシフトせざるを得なくなった格好だ。また、取引先からの安定的な商品供給を受けられず、一部商品の品切れ・品薄による長蛇の列や、「おひとり様一つ限り」といったオペレーション対応に店舗側が追われる形となった。

このように整理してみると小売業の業務プロセスにおける全ての領域で影響があり、その対応に追われ続けた数か月だったと言える。

激変する外部環境が小売業に与えたインパクト

3.小売業界における今後の動向

このような環境変化を受け、今後、小売業はどのような方向に向かうのだろうか。
まず、消費者行動変化への対応として、政府が提唱する「新しい行動様式」により非接触・ソーシャルディスタンスの恒常対応が必須となる。そして、さらなるオンライン化に伴い、リアル店舗の役割はオンライン購買の一部としての役割がより鮮明になっていくと考えられる(OMO:Online Marges with Offlineの進展)。

店舗運営については、お客様はもちろん従業員が安心して働くことができる安全な環境の構築が重要となる。従来型の店舗における非接触・ソーシャルディスタンスの対応が進むと共に、新しい行動様式・安心安全に対応した全く新しいレイアウト・店づくりが差別化の要素となるだろう。そういった消費者・従業員への対応が、今後も人手不足が継続する小売業にとって従業員のロイヤリティを高め、人材獲得においても明暗が分かれるだろう。また、一部話題にもなった従業員シェアリングも、恒常的に対応が進むと考えられる。

店舗現場を支える本部も大きな改革が進むだろう。従来の労働集約的な運営の中、急ごしらえで対応したテレワークの浸透や、他の業界と比較して遅れがちなデジタル化(デジタルトランスフォーメーション)も加速する。スーパーバイザーの店舗指導の在り方や本部業務の在り方も改めて問われていく。

取引先との関係もより緊密になっていくはずだ。ライフラインとして事業継続をしていくために取引先を巻き込んだBCPの議論がなされていき、「一緒に事業継続していくことができるパートナー」としての価値をお互いに見定める動きがでてくると考えられる。

4.With/Post COVID-19における経営アジェンダ

With/Post COVID-19における小売業は、今後の業界動向を見据え、大きく4つの経営アジェンダに対応していかなければならない。

① ニューノーマルな消費者を支える新しいビジネスモデルの確立
マクドナルド等のファストフードやカフェで普通になりつつあるBOPIS(Buy Online Pick-up In Store)やセブン-イレブンの保険販売の事例(自宅で登録・店頭で契約)、ネットスーパー専用のダークストア等、リアル店舗は消費者購買動線の一部になる形がより鮮明になる。従来の販売方式に捉われず、消費者の購買動線全体の中でリアル店舗を含めた全体設計が必要となる。

② 「新しい生活様式」に対応した店づくり
従来店舗における什器設備・消耗品の見直し、買い回り動線、オペレーション動線の見直しと並行して、新規出店時はレイアウトやオペレーションを「新しい生活様式」に合わせた店づくりが必要となる。例えば、意識せずともソーシャルディスタンスを確保できる動線や、レジ周りの飛沫感染対応が最初から織り込まれた設計にすべきだ。そのためには現在の店舗状況を可視化し、課題を洗い出すことが急務となる。

③ 有事でも縮退運転とならない本部業務の確立
現在の場当たり的なテレワークでは、通常の7割程度の縮退運転となっている企業が多く、出社を余儀なくされているのが現状だ。徹底的な業務効率化とデジタルシフトにより人海戦術・紙の文化から脱却し、有事発生時でも店舗現場を支援できるスーパーバイザー、本部業務の作りこみが必要だ。

④ 取引先も巻き込んだ事業継続計画の再検討
ライフラインとして事業継続を求められる小売業は、商品を納入する取引先が唯一無二のパートナーと言える。有事の際にそのパートナーと密に連携し、必要な消費者に必要な分の商品を届けるという役割を全うしなければならない。今回のCOVID-19によって発生した事象をサプライチェーンにおけるモノと情報の流れの観点で分析し、次に備えることをのど元の熱さを忘れないうちに行わなければならない。

With/Post COVID-19における経営アジェンダ

第一に求められるのは急ごしらえで対応した店舗の安心安全についての恒常対応(上記②)や、テレワーク前提の本部業務の作りこみ(上記③)を行い、社内で足元を固めることだ。その上で、取引先を巻き込みながら事業継続を盤石にし(上記④)、最後に消費者に対する攻めの一手(上記①)を打っていく流れとなる。

本インサイトではCOVID-19によって激変した外部環境が小売業へ与えた影響を基に、今後の業界動向についての見解と、今後小売業に必要となる経営アジェンダを述べた。COVID-19以前の状況に戻ることができない社会に対し、優先事項を見極め、今着手すべきことを考えるきっかけとなれば幸いだ。

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