アビームの CRM コンサルタントが、最新のトレンドや日々のプロジェクト活動を通じて感じたことをコラム形式でお伝えします。

記念すべき第1回目はCRM事業部 プリンシパル 秋山 紀郎 「こころに残る体験で成功への道を開く」でした。

08/02/27 「こころに残る体験で成功への道を開く」

それは、顧客のこころをつかむということ
最近の株価下落や原油高が影響したのか、高級品が売れなくなってきている。これまでも、私たちは、不景気のときは低価格志向になり、好景気のときには、 高付加価値志向に気が変わった。購買行動を例にとると、入店前に買おうと思っていたものと、実際にレジで買うものが変わることなどは日常茶飯事だ。 こんな身勝手な顧客志向性に対応する企業側の苦労は、容易に想像ができる。顧客のこころをつかみ、購買行動を予測し、 顧客をひきつけるのは不可能に近いと思うのも無理はなく、CRMが難しいと言われる理由のひとつである。
「果たして、私たちの行動は、予測不可能なほど複雑だろうか。」
最近の脳科学の研究によれば、私たちの脳のほとんどが無意識の部分に使われている。 つまり、私たちは意識・分別して行動しているつもりでいても、実際には無意識のうちに脳が活動して、我々の行動を決めている。 例えば、売れ筋商品の情報を見たのちに人気商品を気に入ったとき、自分のセンスが無意識に修正されていることがある。 最新のCRMは、顧客のこころをつかむ領域に来ており、今回は、この様なCRM最前線の取り組み方法を紹介していく。

顧客体験を中心に考える
アビーム コンサルティングでは、カスタマー・エクスペリエンス・ループ(図1)の実現を推奨している。 この概念は、フロント業務はもちろんのこと、コンタクトセンターや企業に対する営業活動にも適用できる普遍的なものになっている。 特徴としては、次の点にある。

  1. 顧客が期待していることを設計に組み込む
  2. 顧客が体験したことを細部にわたり収集する
  3. その後の顧客行動に応じた対策を講じる

従来型のアプローチは、企業側がどの様に顧客に訴求するかといった一方向に概念になっていた。企業側が良いと決めつけた商品をターゲット顧客に押し付ける様な営業スタイルに似ている。 顧客の意見に本当に耳を傾け、それに対応することは難しく、どこかで企業側の論理を主張せざるを得ない。しかし、企業活動と顧客行動は、 車で言えば両輪のように考える必要があることを忘れてはならない。

1. 顧客が期待していることを設計に組み込む
顧客の期待というものは、静的なものでなく、競合先の状況や他業界のスタンダードが変化した場合でも影響を受ける。 それは、マーケティング、セールス、サービス、どの分野にとっても同じことである。近頃、スーパーなどで生産者情報を携帯電話で表示するサービスがあるが、 競合先が導入していることを理由に導入を決めている企業が多い。相次ぐ偽装事件の中、顧客が食品トレーサビリティーを期待しているということを出発点に考えると、 他社の真似ごとでなく、もっとオリジナリティのある工夫した導入方法が考えられる。また、消費者が直接口にするもののトレーサビリティーが重要であるならば、 例えば、命を預ける旅客機や住宅のトレーサビリティーは、どれだけ進んでいるのか?

2. 顧客が体験したことを細部にわたり収集する
一般には、顧客が体験したことを企業が把握する方法として、アンケートやグループインタビューが採用される。しかし、この方法には以下の様な問題がある。

  • 回答者は必ずしも正直には答えないし、体験したことを文章に置き換えるため、理論的な回答になりやすい
  • 回答者の記憶には、体験したことが正確に残っていない
  • 設問の段階で回答者をある方向に誘導してしまう

例えば、何となく買っただけの缶コーヒーについて、「微糖の缶コーヒーをなぜ購入したか?」と聞かれて、「健康に配慮して」など、そのとき、全く考えていなかったことを回答してしまうことがある。
この様に、不確かな情報をベースに開発された商品のほとんどが見込んだ利益を生み出さずに、市場に受け入れられないものとして淘汰されていくのは、至極当然のことである。 企業営業においても似たようなことがある。企業への提案が失注した原因を調べるとき、
営業担当「弊社の提案を選択していただけなかったのはなぜでしょうか?」
客先担当「いろいろあるけど、やっぱり価格が少し高かったからだな。」
という典型的な原因分析を経て、社内に失注理由を「提示価格」と報告し、価格破壊への誤った道へ進んでいく。客先の担当が、営業担当のこれまでの努力不足や印象の悪さ、 提案内容の問題点などを“正しく”指摘することは、意識的・無意識に関わらず少ない。

3. その後の顧客行動に応じた対策を講じる
顧客は体験したことに応じて次の行動を移す。継続利用、買い増しなどのポジティブな行動と、利用減少、離反、苦情などのネガティブな行動があり、 これら顧客行動に至った原因を探っていく。しかしここにも落とし穴がある。必ずしも、企業側が考えた原因と結果である顧客行動が結びつくとは限らないのである。 ここを理論的に説明しようとして、誤った報告がされることがある。最悪なことは、これに懲りて原因分析の手を止めてしまうことだ。 対応策には、専門的なテクニックが必要だ。

顧客認知の世界
先に述べたように、私たちは潜在意識の中で行動を決定している。顧客が企業と接したときに、五感で脳にイメージされた内なる意識(パーセプション)を測定する必要がある。 図2の感情曲線の例を見ていただきたい。これはある小売業を利用した子連れの家族について、企業側が想定している感情曲線と、実際にその顧客が感じたレベルをその動線に沿って示している。

大いなる誤算
感情曲線では企業側の想定と実際の顧客体験に大きな隔たりがある箇所に注目する。まず企業側の想定としては、 商品アイテムを探すシーンが楽しみであると想定しており、会計においては、特徴あるサービスを提供していないため、期待に添えないものと考えていた。 しかし実際には、顧客にとっては、商品アイテムを探すことが不満となっており、大きなギャップがあることが判明した。一方で、会計のシーンでは、顧客の満足度は比較的高く、 ここでもギャップがあった。それはなぜか?
商品アイテムを探すシーンにおいて、その陳列方法が分からないことが主な原因で、特に子連れの顧客に不愉快な思いをさせていたのである。 企業としては、商品アイテムの多さが強みであるはずだったが、完全に裏目に出た格好だ。
会計においては、顧客はポイントプログラムやクレジットカードが受け入れられないことを事前に知っていたために、企業側が想定していたほど、不満に感じることはなかった。 むしろ、支払いは現金のみというシンプルな業務のために、スムーズな会計処理が顧客のポジティブな感情に結びついたのである。
この様に動線上で発生した事象や感情については、従来の顧客満足度調査では判明しなかった。

新しい事実と応用
この感情曲線の調査によって判明したことは、こればかりではない。感情曲線の形によっては、二度と買い物に来ない顧客となるパターンがある。 また、感情曲線の設計(感情の配分)によって、より高い満足度を得ることも可能だ。
顧客満足度向上とは、必ずしも全ての動線(業務プロセス)における顧客からの評価を高くすることではない。従業員の教育プログラム、ファシリティー、システムなどのリソースについて、 動線にある全ての業務プロセスにおいて高く保つことは事実上不可能であり、どこかで強弱が必要だ。この感情曲線によるノウハウがあれば、 企業がどの業務プロセスに注意して顧客対応を強化すべきかが分かる。

おわりに
ムーアの法則として知られるように私たちが取り扱う情報量は日々飛躍的に増大している。PCには絶え間なくメールが届き、携帯電話でも様々な情報が飛び交っている。 コンビニに行けば、毎日のように新商品が陳列されている。この雑踏の中に、営業担当が熟慮に熟慮を重ねて作成した提案資料が埋もれている。 客先の担当者はどこまで提案資料のことが頭に残っているのか。このような時代では、メタファー(比喩表現)によってシンプル化されたイメージでないと整理がつかない。 有名なのが、小泉政権時代の「郵政民営化に反対か賛成か」というメタファーである。解散総選挙における様々な争点を1つの日本を変えていくというメッセージに置き換えて大勝利を収めた。 安部政権の構想「美しい国、日本。」は、受ける人であまりに印象が異なっているために、国民には浸透しなかった。果たして、福田政権のメタファーは何か。
今回ご紹介したカスタマー・エクスペリエンスを中心としたアプローチでは、いくつかの新事実が分かってきている。貴社が顧客中心主義を掲げるのであれば、是非、取り組んでみてはどうか。

<プロフィール>
秋山 紀郎 (Toshio Akiyama)
アビーム コンサルティング CRM事業部
プリンシパル
慶應義塾大学理工学部卒業。航空会社のIT部門及び顧客サービス業務を経てアビーム コンサルティングに入社。 カスタマサービスオペレーション、マーケティング、システムインテグレーションを含むCRMソリューションが専門。金融、通信、運輸業界を中心として、コールセンターの統合、 CRMパッケージ導入、営業支援、顧客サービス業務の改革、顧客ロイヤルティプログラムの導入などのプロジェクトを実施。講演や寄稿などの活動も多数実施。


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